海外からの帰国後に発熱や発疹が現れた場合、疑われる感染症のひとつにデング熱が挙げられます。デング熱の症状の特徴や、一般的なかぜ症状との違い、重症型のデング出血熱の症状について、防衛医科大学校防衛医学研究センター教授の加來浩器(かく・こうき)先生にお話しいただきました。
デング熱とは、蚊が媒介するフラビウイルス属のデングウイルスに感染することで起こる病気です。デング熱の症状は、デングウイルスに感染した人すべてに現れるわけではありません。以下のような症状が現れるのは、全感染者のうち約2割程度とされています。
これらは発病した場合に現れることが多い典型的な症状ですが、約8割の感染者は無症状です。
体全体が真っ赤になり、ところどころに正常な皮膚組織が残るため、英語で“White islands in red sea”(赤い海のなかの白い島)と表現されます。
発熱や頭痛、関節痛など、一般的な感冒症候群(かぜ)の症状とよく似ていますが、デング熱の場合、喉の痛みはありません。このほか、咳などの呼吸器症状も、デング熱の主症状ではありません。
混同されがちですが、デング熱とデング出血熱は異なる病態です。デング熱では、鼻血などの症状は現れないことがほとんどです。
出血やショック症状などを呈し、死に至ることもある重症型のデングウイルス感染症です。
鼻血、眼球の出血、吐血、注射部位からの出血などがみられることがあります。
さまざまなウイルス感染症と同様、子どもは大人に比べて症状が軽くなる傾向があります。
デング熱の重症化には、「異型の不完全な免疫」が関連しています。
デングウイルスには、4つの血清型があります。1型、2型、3型、4型のデングウイルスは、遺伝子学的には似ているものの、異なるウイルスです。
デングウイルスそのものに初めて感染した場合を考えてみましょう。1型のデングウイルスに感染した場合、その人は1型に対する終生の免疫を獲得します。そのため、以降の人生で同じ1型のデングウイルスに感染することはなく、仮に感染したとしてもごく軽症で済みます。
しかし、2型~4型に対する交叉免疫(こうさめんえき※)は数が月ですぐに消失してしまうため、その後感染することがあります。
※異なる血清型のウイルスに対する免疫反応を、交叉免疫といいます。
デング熱が重症化するときとは、一度デングウイルスに感染した経験があり、異なる血清型のデングウイルスに感染し、発病した場合であるといわれています。たとえば、過去に1型のデング熱が流行した地域では、2型~4型の流行により注意を払う必要があります。
このように、異型のウイルスに対する不完全な免疫により、デング熱は重症化する傾向があることがわかっているため、WHOはデング熱の発生状況を調査するとき、発生数だけでなく、ウイルスの血清型も報告することを指示しています。
上記のようなデング熱の病態がわかったのは、今から10年ほど前のことです。現在では、重症化のリスクを調べるために、腕に駆血帯(くけつたい:採血時などに使うゴムひも)を巻くターニケットテストが行われています。ターニケットテストとは、毛細血管の脆弱性(ぜいじゃくせい:もろさ・弱さ)を調べ、出血傾向の有無をみる試験です。
駆血帯を巻き、5分間一定の強さで腕を圧迫します。1平方インチ(※)あたり、20個以上の赤い点状の発疹が生じた場合は、出血傾向がある(陽性)と判断します。
※1インチ=2.45cmです。1平方インチとは、500円玉を一回り大きくしたコインを四角で囲ったサイズとイメージしていただくとよいでしょう。
デングウイルスを媒介する蚊は、ヒトスジシマカとネッタイシマカです。ネッタイシマカは日本には棲息していませんが、ヒトスジシマカは日本における棲息範囲を徐々に拡大しています。過去には、ヒトスジシマカの棲息できる北限は岩手県とされていましたが、現在では温暖化や物流の活性化など、さまざまな要因が影響し、青森県でもみつかるようになっています。
感染経路はデングウイルスを持っている蚊に刺されることであり、デング熱が人から人へとうつることはありません。ヒトスジシマカは、デング熱に感染している人の血を吸血したあと8日~11日でヒトに感染させることが可能となり、生涯感染能力を持ち続けます。(ただし、ヒトスジシマカの寿命は2か月ほどです。)デングウイルスをヒトに感染させることができる期間のことを、伝播可能期間といいます。
なお、デングウイルスが卵を通じて次世代のヒトスジシマカへ伝わることはありません。
デングウイルスの伝播可能期間や、デング熱の潜伏期間などを知ることは、感染場所の特定や、重症化、流行の予防のために重要です。
デング熱の潜伏期間は3日~14日で、通常は3日~6日で発病します。
デングウイルスに感染した場合、発病の前日から発病日を含む5日間の計6日間、蚊に刺されると感染源となるリスクがあります。この期間、蚊に刺されないように特に注意する必要があります。
デングウイルスは、発病1~2日前から発熱している期間、患者さんの血液中に存在します。この期間に血液からデングウイルスを分離できた場合、あるいはウイルス遺伝子を検出できた場合は、早期に診断をつけることができます。
しかし、デングウイルスは症状が治まる頃には消失してしまうため、受診や検査が遅れた場合には検出することができません。そのため、デング熱の診断は以下の検査情報と照らし合わせ多角的に行っていく必要があります。
細菌やウイルスに感染した場合、体内ではまずIgM抗体が作られ、次いでIgG抗体が産生されます。IgG抗体は、発症後も長期にわたって検出されます。
症状が治まった後にデング熱に感染していたかどうかを調べる場合には、デングウイルスに特異的な(特化した)IgM抗体、IgG抗体の有無や上昇度合いをみることが役立ちます。二回目の感染である場合は、IgG抗体の産生量は高く、IgM抗体の産生量は少なくなるため、両者の比をみることは、初感染か二回目の感染かを判断することにも役立ちます。
ただし、私たち日本人のほとんどは、幼少期に日本脳炎の予防接種を受けているという点に留意しなければなりません。日本脳炎ウイルスは、デングウイルスと同じフラビウイルス属のウイルスです。したがって、過去に日本脳炎ワクチンを接種したことによる交叉反応で、抗体価(抗体の量、強さ)に影響が出ることがあります。そのため、あわせてNS1というデングウイルスの非構造タンパクを調べることが重要です。
NS1とは、デングウイルスに感染することで合成される非構造タンパクのことです。そのため、ウイルスが消失しており検出されなかった場合でも、NS1抗原を検出できれば、過去にデングウイルスに感染していたことを証明することができます。
前項で述べたように、日本人に対する検査では日本脳炎ワクチンの影響が懸念されるため、専門機関では、IgM、IgG抗体だけでなくNS1抗原を検出できる検査キットが用いられています。
この記事は海外在留邦人のサポートをされているJAMSNET様よりご提供いただいております
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