尿細管性(にょうさいかんせい)アシドーシスは、腎臓の尿細管の異常が原因となって血液が酸性に傾く状態が引き起こされる疾患です。それにより水を飲む量が増えて多尿になる、筋力が低下して力が入りにくくなる、乳児の場合は体重が増えないといった、さまざまな症状が現れます。また発症の原因は遺伝子の異常、他の疾患、薬剤の副作用など多岐にわたります。
今回は尿細管性アシドーシスの概要と原因について、東京女子医科大学腎臓小児科講師 三浦健一郎先生にお伺いしました。
尿細管性アシドーシスは、腎臓の組織(尿細管)に異常が起こることで、代謝性アシドーシス(血液が酸性に傾いた状態)が生じる疾患です。発症の原因はさまざまで、遺伝や別の疾患の影響で発症したり、薬剤の副作用として一時的に生じたりします。主な症状は多飲多尿、筋力低下、乳幼児期の成長障害などです。腎石灰化(じんせっかいか)や難聴という根治の難しい症状を示す方もいますが、適切な治療によりそれ以外の症状は取り除くことが可能です。
血液が酸性に傾いた状態を代謝性アシドーシスといいます。人の体は本来、血液pH(血液中の酸とアルカリのバランス)が一定になるよう調整する性質を持っていますが、腎臓の尿細管の異常などによりバランスが崩れることがあります。
腎臓は、血液中の老廃物をろ過して尿を生成したり、酸とアルカリのバランスを保ったりして、さまざまな役割を果たしている臓器です。尿細管は、腎臓のなかに約100万個あるネフロンという組織の一部で、体に必要な成分の再吸収や不要な成分の排出を担っています。尿細管は血液をろ過する糸球体(しきゅうたい)から遠い位置にある遠位尿細管(えんいにょうさいかん)と、近い位置にある近位尿細管(きんいにょうさいかん)という部分に分かれています。
尿細管性アシドーシス(renal tubular acidosis; RTA)は、代謝性アシドーシスが起こる原因によってⅠ型・Ⅱ型・Ⅳ型に分類されます。
この記事では、尿細管性アシドーシスのなかでも代表的な遠位尿細管性アシドーシス(Ⅰ型RTA)、近位尿細管性アシドーシス(Ⅱ型RTA)について解説します。なお、Ⅲ型RTAとされていた疾患は重症化したⅠ型RTAであることがわかっています。
尿細管性アシドーシスは日本国内の推定患者数が100~200人といわれており、非常に症例の少ない疾患です。患者数を調べるため単発的な調査が実施された例はありますが、追跡調査は今のところ予定されておらず、正確な人数は把握されていません(2017年現在)。年齢層は小児から成人まで幅広くみられますが、発症率などはわかっていません。
尿細管性アシドーシスはさまざまな原因で発症する疾患です。遺伝、薬剤の副作用、他の疾患などが原因となって発症することが知られています。また遠位尿細管性アシドーシス(Ⅰ型RTA)と近位尿細管性アシドーシス(Ⅱ型RTA)とでは発症する原因が異なります。
先天性(遺伝性)の尿細管性アシドーシスは、遺伝する可能性のある疾患です。優性遺伝の場合には遺伝する可能性が高いことがわかっています。遺伝については記事2『尿細管性アシドーシス(RTA)の症状、検査、治療』で詳しく紹介します。
また遺伝性の遠位尿細管性アシドーシスの症状が現れるのは多くの場合で小児ですが、なかには成人してから発症する方もいます。発症する時期の差は遺伝子の違いによるものと考えられています。
後天性の遠位尿細管性アシドーシスは多くの場合、薬剤の副作用として発症します。
遠位尿細管性アシドーシスが発症する原因になりやすい薬剤は、気分安定薬のリチウム製剤や、抗生物質のアムホテリシンBなどが知られています。リチウム製剤は多尿となる尿崩症(にょうほうしょう)などの疾患を引き起こす可能性もあり、投薬時の注意が喚起されています。アムホテリシンBは使用される頻度が減っており、遠位尿細管性アシドーシスの発症原因としては、ほとんどみられなくなっています。
遠位尿細管性アシドーシスは、尿細管性アシドーシス以外の疾患が原因となって発症することがあります。たとえば自己免疫疾患*のシェーグレン症候群*が遠位尿細管性アシドーシスを誘発し、合併するケースがあります。
シェーグレン症候群……主に目や口などに乾燥症状が現れる自己免疫疾患
自己免疫疾患……免疫システムに異常が起こり、元々体内にある物質を異物と誤認して攻撃してしまう疾患
近位尿細管性アシドーシスはほとんどの場合、ファンコーニ症候群が原因となって起こる疾患です。ファンコーニ症候群の症状の1つであるともいえます。ファンコーニ症候群とは、近位尿細管が障害を受けてアルカリやリンが漏れ出し、骨軟化症などの症状を示す症候群のことです。
先天的な近位尿細管性アシドーシスは、他の遺伝性疾患からファンコーニ症候群が誘発されて起こる可能性があります。代表的な疾患は、近位尿細管機能障害などが起こる「ロウ(Lowe)症候群」、細胞のエネルギー代謝が低下する「ミトコンドリア異常症」、アミノ酸の一種であるシスチンが細胞に蓄積する「シスチン症」です。
後天性の近位尿細管性アシドーシスは、主に薬剤の副作用として生じたファンコーニ症候群が原因となって起こります。ファンコーニ症候群が発症する原因になりやすい薬剤は、抗けいれん薬(抗てんかん薬)のバルプロ酸や、抗がん剤治療で用いられる白金製剤(プラチナ製剤)のシスプラチンなどが知られています。そこで近位尿細管性アシドーシスは、これらの薬剤がよく処方される小児科や血液内科で治療を受けている方のなかによくみられます。
東京女子医科大学 腎臓小児科 講師
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