エプスタイン症候群は遺伝子の異常によって引き起こされる先天性異常症候群で、難病に指定されています。エプスタイン症候群ではおもに3つの症状(血小板減少、難聴、腎機能障害)があらわれますが、なかでももっとも問題となるのが腎機能障害です。エプスタイン症候群の概要と検査の方法について、東京女子医科大学腎臓小児科で医局長・講師を務める三浦健一郎先生にお話を伺いました。
エプスタイン症候群は、MYH9と呼ばれる遺伝子の変異によって起こる先天性の疾患で、患者数が全国に推定200名ほどと少なく、難病に指定されています。多くの場合、1〜5歳と低年齢で発見されます。
MYH9遺伝子は、ミオシン重鎖ⅡA(細胞の形を整える分子)を設計する役割を持っています。このMYH9遺伝に先天的な変異があると、細胞の形成に異常をきたし、様々な症状が体にあらわれるのです。
遺伝子変異には、親から受け継がれるものと、突然変異で現れるものの2つのパターンがあります。エプスタイン症候群のMYH9遺伝子変異にはいくつかの種類がありますが、代表的なR702(詳しくは後述します)という遺伝子変異の場合には、約1割が親からの遺伝、残りの約9割は突然変異です。家族に遺伝子異常があると知っていれば、何らかの症状があらわれたときに遺伝性疾患を疑うことができますが、突然変異の場合には診断・治療までの時間がかかる傾向にあります。
遺伝性疾患とがん疾患は、細胞の異常という点では共通していますが、その一方で発生過程には明確な違いがあります。
遺伝性疾患は、細胞に先天的な異常があることで生じます。一方、がん疾患はもともとの細胞に異常がないことが多く、細胞が分裂する過程で異常が起こる後天的な疾患です。このように、遺伝性疾患とがん疾患には明確な違いがあります。
エプスタイン症候群は前述の通り、細胞形成にかかわるミオシン重鎖ⅡAを設計するMYH9遺伝子の異常によって起こります。ミオシン重鎖ⅡAは細胞のなかでも特に、巨核球(血小板を産出する)、糸球体(血液を濾過し、尿のもとを作る)、内耳にある有毛細胞という3つの細胞の形成に重要な役割を果たしています。そのため、エプスタイン症候群では以下のような症状が表れます。
エプスタイン症候群の初期には、血小板の減少によって血管内の止血機能が間に合わなくなるため紫斑(皮下出血)がほとんどのケースで表れ、病気の発見のきっかけになります。
紫斑の段階では、小児難病のITP(特発性血小板減少性紫斑病)と誤診されるケースも多くあります。なぜならITPはエスプタイン症候群と同じく血小板の減少を特徴としており、エプスタイン症候群よりも患者数の多い疾患だからです。このようなケースでは、ITPに対する治療の効果が得られません。検査によってエプスタイン症候群の特徴である巨大血小板を確認することが大事で、これが認められれば正しい診断に至ります。
エプスタイン症候群の患者さんでは、全例で上記のような血小板減少と巨大血小板の症状がみられます。
エプスタイン症候群では、難聴も起こります。おもに高音域(6,000〜8,000ヘルツ)の音が聞こえにくくなる高音性難聴(感音性難聴)になりますが、低音〜中音域の聴力は保たれることが多く、必ずしも補聴器が必要であるとは限りません。
難聴のレベルについては、耳鼻科と連携をとり検査を行うことで測定が可能です。
エプスタイン症候群は前述の通り、MYH9遺伝子の変異によって起こります。遺伝子変異には数種類が存在し、それぞれ症状の進行速度も異なりますが、ここでは「MYH9遺伝子R702変異」による症状を中心にご説明します。
腎機能障害の詳しいメカニズムは解明されていませんが、エプスタイン症候群でもっとも問題となる症状が腎機能障害です。腎臓の尿生成機能をつかさどる糸球体には、ポドサイト(別名:足細胞、タコ足細胞)という細胞があり、MYH9遺伝子R702変異によってポドサイトの骨格に異常が出ることで、血液のろ過機能に異常をきたし、タンパク尿が出るといわれています。タンパク尿は糸球体や尿細管(尿の通り道)にダメージを及ぼし、この結果として、腎機能障害が引き起こされます。
エプスタイン症候群の症状経過として代表的なケースでは、まず紫斑があらわれ、6〜7歳でタンパク尿が出ます。その後、10代後半になって腎不全に陥ります。しかしエプスタイン症候群は症例数のたいへん少ない疾患ですから、患者さんのケースごとに症状の経過や腎不全に至るスピードは異なります。
エプスタイン症候群を疑うときには、まず採血をして、塗抹標本作製(顕微鏡下で細胞のサイズや形状の異常をみる方法)を行います。この時点でエスプタイン症候群の傾向がみられた場合には、次に遺伝子解析を行い、診断します。記事2『エプスタイン症候群とは?—腎機能障害の治療と患者さんの生活について』ではエプスタイン症候群の治療についてご紹介します。
東京女子医科大学 腎臓小児科 講師
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