インタビュー

エプスタイン症候群における腎機能障害の治療と患者さんの生活について

エプスタイン症候群における腎機能障害の治療と患者さんの生活について
三浦 健一郎 先生

東京女子医科大学 腎臓小児科 講師

三浦 健一郎 先生

この記事の最終更新は2017年07月10日です。

エプスタイン症候群は遺伝子の異常によって引き起こされる先天性異常症候群で、難病に指定されています。エプスタイン症候群で引き起こされる3つの症状(血小板減少、難聴、腎機能障害)のうち問題となる腎機能障害の治療法について、東京女子医科大学腎臓小児科で医局長・講師を務める三浦健一郎先生にお話を伺いました。

エプスタイン症候群で腎機能障害が起こった場合には、ほかの腎炎(腎臓炎症疾患の総称)や慢性腎不全(腎臓機能が低下し回復を見込めない状態)と共通した投薬治療を行い、症状の軽減を試みます。エプスタイン症候群の投薬治療には、以下の2種類のうちいずれかを用います。

・アンジオテンシン受容体拮抗薬(ARB)

アンジオテンシン受容体拮抗薬(ARB)は、血圧を上げる作用のあるアンジオテンシンⅡ受容体を抑えることで血圧上昇を抑える薬剤です。同時に腎臓保護の機能があるため、腎機能障害の治療にも有効であることがわかっています。おもに肝臓で代謝されるため腎不全でも使いやすいことが利点です。

・アンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACE阻害薬)

アンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACE阻害薬)は、ARB同様に血圧の上昇を抑える薬剤ですが、以下のように作用部位が異なります。ACE阻害薬はアンジオテンシンⅠがアンジオテンシンⅡに変換される過程を阻害し、ARBはアンジオテンシンⅡが受容される過程を阻害するのです。ただしACE阻害薬は副作用として咳が出ることがあります。また、腎臓から排泄されるため、腎機能障害が進行したケースではARBを選択する傾向にあります。

ACE阻害薬とARB

エプスタイン症候群の腎機能障害が進行し腎不全に陥った場合、腎移植もしくは透析を行う必要があります。ただし腎移植をした場合でも、生着率(移植した腎臓が機能している確率)は15〜20年経過すると約50%になるため、移植した腎臓の機能がなくなってしまった場合は再び腎移植を行う必要があります。

腎移植には生体腎移植(患者さんの家族から移植をする)と、献腎移植(死亡した方の体から移植する)の2つがあり、日本では生体腎移植のほうが多い傾向にあります。献腎移植は、待機期間は20歳以下の患者さんで平均3年ほど、成人の場合には平均15年以上と非常に長い時間がかかります。

新しい治療を明確にお伝えすることは現時点では難しいのですが、現在、動物実験の段階ではあるものの、エプスタイン症候群に対する有効な治療法を調べる実験が始まっています。また腎症状の初期段階から投薬治療を行うことで、その後進行する腎機能症状の経過をゆるやかにできるという推測に基づき、研究が進められています。

エプスタイン症候群の合併症として起こる大きな出血は比較的発生頻度が低く、手術のときには血小板輸血をすれば合併症を防ぐことも可能です。また、生活のなかでは、物理的な衝撃や外傷をなるべく避けてください。たとえば、ボクシングはリスクが高いので避けるべきですし、球技も注意して行う必要があります。しかし水泳やマラソンなど、衝撃の少ない運動であれば問題ありません。このようにエプスタイン症候群の患者さんは、通常に近い状態で生活することが可能です。

エプスタイン症候群は時間とともに症状が進行しますが、腎機能障害の起こっていない子どもの患者さんであれば、通常であれば特別な食事制限は不要です。ただし血圧が高い場合や、大人になって腎機能障害が起こっている場合には、塩分やたんぱく質を制限する必要があります。

このようにエプスタイン症候群の患者さんは学校生活、社会人生活も通常に近い状態で送ることができます。

家族が食事をしている光景

エプスタイン症候群の患者さんのなかには、将来の腎機能低下や難聴に不安を感じている方もいらっしゃると思います。確かに、今のところエプスタイン症候群を根治することは難しいですが、適切に対処していけばほぼ通常どおりに成長でき、積極的な社会生活を送ることが可能です。主治医の先生と相談しながら、希望をもって治療を進めましょう。

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