脈が乱れる病気である「不整脈」には、さまざまな種類があります。そのひとつに「心房粗動(しんぼうそどう)」と呼ばれるものがあります。
心房粗動とは、どのような特徴をもつ不整脈でしょうか。また病名が似ている「心房細動(しんぼうさいどう)」とはどのような点が異なるのでしょうか。心房粗動の概要と治療法について、国立循環器病研究センターの草野研吾先生にお話を伺いました。
心房粗動(しんぼうそどう)は、心房に生じる不整脈のひとつです。
一般的に心房粗動は、比較的大きな電気信号が心房内(主に右心房)の同じ場所をグルグル回ってしまうことで発症します。
粗動は1分間に250~320回くらいの頻度で興奮(収縮)します。しかし、電気信号が心房と心室をつなぐ「房室結節」を通過するときに、興奮が伝わったり伝わらなかったりすることがあります。そのため心拍数は早くなったり遅くなったりします。
症状として挙げられるのは、動悸(どうき:心臓の拍動が自身で感じられる状態)や失神などがあります。しかし、場合によっては無症状のこともあります。
症状の有無は、房室結節が伝導しやすいか、伝導しにくいかで決まります。例えば粗動が1分間に240回で収縮していて、2回に1回が心室に伝わると、240÷2=120回/分となるので、心拍数が速い状態になります。そのため患者さんは、動悸を訴えることがあります。
しかし、3回に1回や、4回に1回の伝導であれば、80回/分や60回/分となって、症状がでにくくなります。その場合には無症状となることがあります。
一方で、1分間に240回全てが房室結節を伝導(1:1伝導)してしまうと、心室の興奮が240回/分となり、心拍数が早くなりすぎてしまいます。すると、心臓の拡張時間が短くなり、十分な血液を心臓に蓄えることができません。その結果、必要な血液を心臓から出すことができなくなり、血圧が低下し、失神(しっしん)することもあります。
心房粗動は、命にかかわる危険な状態になる可能性もある疾患です。
心房粗動では、心房細動と同様に心房の壁がブルブルと早くふるえるように興奮するため、血液が心房内によどんでしまうことがあります。すると、心房のなかに「血液のかたまり(血栓)」ができてしまうことがあります。できてしまった血栓は、心臓の収縮によって押し出され、血液とともに脳へと移動し、さまざまな臓器の血管で詰まってしまうことがあります。その中でも脳の血管で詰まって「脳梗塞(のうこうそく)」を起こすと極めて重症となり命に拘わる危険な状態となります。脳梗塞を起こしてしまった場合には、早急な処置・治療が必要となります。
また、心房粗動で心拍数が異常に早くなることで「失神する」というのは突然死の前段階の可能性も考えられます。そのほか、症状があらわれない場合でも、心房粗動が起きることで突然死を招く可能性もあります。したがって心房粗動がみつかった場合には、自覚症状がなくても突然死を予防することを目的に、治療を積極的に検討します。
「心房粗動」と似た言葉に「心房細動(しんぼうさいどう)」があります。どちらも頻脈性(ひんみゃくせい:脈が速くなるタイプ)の不整脈で、似た症状があらわれます。
このふたつは一体どのような点が異なるのでしょうか。
心房粗動と心房細動は、電気のループ(繰り返し)が心房の中にあるという点は共通しているので、病態は非常に似ています。例えるならこのふたつは兄弟姉妹みたいなものです。
心房粗動の場合は、旋回する電気ループがひとつで、同じところをぐるぐる回っています。それに対して、心房細動は小さな電気ループが6~8個程度心房内に同時にでき、それらのループが動き回って一定の場所にとどまっていない状態になります。こうした点が、心房粗動と心房細動の異なるところです。
心房細動は、小さな電気ループなので、1分間に400~600回というスピードで回っていますが、早すぎて房室結節の伝導が追従できず、心房:心室の伝導が1:1伝導になることはないと考えられます。そのため心房粗動と異なり、失神や突然死につながる頻拍になりにくいという特徴があります。
上図のように、心房粗動ではひとつの大きなループがみられ、心房細動では小さなループが6~8つほどみられます。このように「大きなループがひとつ」が粗動で、「小さいループがたくさん」が細動というように捉えられます。
また心房粗動と心房細動では「ループの回転する速さ」も異なります。
心房粗動と心房細動と似たような不整脈に「頻拍(ひんぱく)」と呼ばれる状態があります。
「頻拍」と「粗動」と「細動」の区別は、発生メカニズムや解剖学的な違いでも分類されますが、最もわかりやすい分類は、頻度ではないでしょうか。つまりそれぞれ1分間あたりにどれくらいの電気信号が回転しているかによって分類するものです。
心房細動では1分間に約400~600回の回転で、とても速いです。心房粗動では1分間に約250~320回で、心房細動と比べるとゆっくりになります。また、心房粗動よりも電気信号の回転がゆっくりな「頻拍」では、1分間に約120~250回になります。
このように、電気信号のループの回転の速さによっても、心房粗動と心房細動には違いがあることがわかるでしょう。こうした回転の速さの違いは、電気ループの大きさによるものと考えられています。
心房粗動も心房細動も、特に発症しやすい方に大きな違いはないと考えられます。どちらも高齢者に多く、女性よりも男性に多いといえます。また、心臓の手術のあとなどに、切開線のまわりを走るように電気ループができてしまい、心房粗動、心房細動を発症するケースもあります。
心房粗動も心房細動も、同じように心房に血栓ができる可能性があり、その血栓が脳に移動することで脳梗塞をおこす可能性があります。また、同じように動悸などがあらわれることがあります。
ただし、先に述べたように心房粗動のほうが、電気興奮が心室に伝わりやすいため、心房粗動のほうが急に心拍数が跳ね上がり、失神や突然死を引き起こすリスクが高いと考えられます。これは大きなループがひとつであることで、1:1で心房から心室に電気信号がつながることがあるためです。こうした点は心房粗動で注意すべきところだと考えられます。
心房粗動には、その旋回の仕方によっていくつかパターンがあります。
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など
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一般的なのは「通常型」です。これまで説明してきたようなタイプで、電気信号が興奮して旋回する部位が「右心房と右心室の間にある弁(三尖弁)の弁輪のところ」を心尖部からみて反時計方向に回転しています。下大静脈と三尖弁の間を必ず電気ループが通過するため、三尖弁輪から下大静脈の間をアブレーション(焼灼)すると完治すると考えられます。
そのほかにも非通常型やその他の型など、さまざまな回り方がありますが、どれもこれまで解説してきたように、旋回するループは心房の中にひとつのことが多いです。
心房中隔欠損*(しんぼうちゅうかくけっそん:ASD)や弁膜症などを治療するために手術を行った患者さんでは、手術時に右心房を切開するため、その切開線のまわりを旋回するように心房粗動があらわれることがあります。こうした旋回は、3Dマッピング画像システム(異常な電気の流れをコンピューターのなかで心筋組織上に立体的に表示するシステム)を用いることでよくわかります。手術あとの傷の周りをぐるぐると回ったり、傷と傷のあいだを8の字に回ったりするなど、さまざまなものがありますが、いずれも中心になっているのは1つのループです。
3Dマッピング画像システムによってさまざまな心房粗動のパターンがあることが明らかになり、その後の治療方針を立てることにも大きく役立っています。
心房中隔欠損:心房中隔(右心房と左心房の間を隔てる壁)に欠損(あな)が開いている状態
心房粗動によって頻脈(脈が速くなる症状)があらわれているときには以下のような処置がおこなわれます。
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頻脈を抑えるための処置として、β遮断薬やカルシウム拮抗薬といった薬剤を服薬することがあります。これらの薬剤は、房室結節に作用して心房から心室に伝導しにくくなり、心室に伝わる電気信号の数を減らすことができるという機序をもっています。こうした薬剤を服薬することは動悸の症状を軽減することにつながります。
また、緊急で頻脈を止めなくてはならないときには電気ショック療法を行う場合があります。薬剤による治療は、服薬してから効果があらわれるまでの時間を要するため、緊急性の高い場合には電気ショックを与え、異常に興奮した電気信号のループを止めていきます。
また、薬剤による治療は心筋の異常な収縮を抑えるぶん、心臓全体の機能を低下させることになるため、心不全をおこしている可能性がある場合には、そうした機序を持つ薬剤の使用がリスクとなる場合があります。その場合には薬物療法ではなく、電気ショック療法を行うことになります。
心房粗動の治療では、以下のような方法が検討されます。
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心房粗動そのものに対しては、薬が効きにくい、つまり薬物療法では根治*が目指しにくいと考えられます。一方で心房粗動の場合には電気ループがひとつなので、カテーテルアブレーションで根治が目指しやすいと考えられています。
根治:病気を根本から完全に治すこと
上記のベータ遮断薬やCa拮抗薬が心拍数の調整に主に使用されますが、Na遮断薬やK遮断薬によってループそのもの止めたり、粗動がでたり引っ込んだりする場合には起こり始めの期外収縮を抑えて粗動にならないようにする目的で使用されることもあります。ただし、心房粗動は突然死をきたす可能性があること、抗不整脈薬の長期内服は心機能低下を引き起こすことがあるので、カテーテルアブレーションによる根治を検討していくことも大切です。
カテーテルアブレーションとは、先端に治療や検査を行うための機能をつけたカテーテル(医療用の細い管)を、足の付け根の血管などから挿入して、心臓の治療を行う方法です。
挿入されたカテーテルを心臓に到達させたあと、心臓の状態を調べつつ、病変*を確認します。原因の部分が明らかになったら、異常な電気興奮を遮断できるよう、原因となっている部分に通電を加えて焼灼します。このような治療を行うことで、心房粗動の発生を抑えることができます。
病変:病気による変化が起きている箇所
「通常型心房粗動」の適応は、循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2010-2011年度合同研究班報告)の「カテーテルアブレーションの適応と手技に関するガイドライン」で定められています。
このガイドラインによると通常型心房粗動の適応は、推奨される強さによってクラスⅠ、クラスⅡaのふたつに定められています。
推奨度の高いクラスⅠでは、「頻拍、失神、心不全などの症状、生活の質(QOL)の低下を伴うもの」、「心房細動の薬物治療中にあらわれたもの」、「心房細動のアブレーション治療中にあらわれるか以前に記録されているもの」と定められています。また、その次に推奨されるクラスⅡaでは、「症状はないものの器質的心疾患があり心室機能低下を伴うもの」、「他の頻拍に対するカテーテルアブレーション治療中に偶然誘発されたもの」、「パイロットや公共交通機関の運転手など職業上制限となる場合」と定められています。
早ければ今年中に新しいガイドランが発表される見込みもありますが、現状(2018年2月)は上記のような適応となっています。
先ほどお話した心房細動では、いくつかのループが旋回しているため、アブレーションが困難な場合があります。しかし、心房粗動はご説明した通り、ひとつの大きなループで旋回するため、そこを焼灼すれば根治できる可能性が高いといえます。
こうしたことから、心房粗動では心電図で発見されたらカテーテルアブレーションを検討するケースが多いといえます。
心房粗動では、患者さんが自覚する症状がみられない場合もありますが、そうした場合でもカテーテルアブレーションを検討することがあります。これまでお話してきたように心房粗動は突然死のリスクも考えられるものですが、カテーテルアブレーションで根治を目指すことができる疾患です。そのため、心房粗動と診断された場合にはカテーテルアブレーションを検討することが重要です。
ガイドラインでも「有症状の場合はもちろんのこと、とくに心室機能低下を伴う場合などでは無症状であっても積極的に適応を検討する」と記載があることから、カテーテルアブレーションは心房粗動の治療において重要な治療選択肢であると考えられます。
カテーテルアブレーションの合併症*として報告される重症のものは主に以下のものがあります。
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・横隔神経麻痺(おうかくしんけいまひ)*
・血栓塞栓(脳梗塞)
・心穿孔(しんせんこう)*・心タンポナーデ*
・輸血が必要な血腫(けっしゅ)*
・動静脈瘻(どうじょうみゃくろう)*
など
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心房粗動に対するカテーテルアブレーションの合併症として多く報告されるものは、カテーテル挿入部分の出血や感染症などです。心臓で起こる合併症よりも、カテーテルの刺入部位でおこる合併症のほうが多いと考えられます。合併症についてより詳しく知りたい場合には、主治医へ相談するようにしましょう。
合併症:ある治療や検査が原因となって起こる別の症状
横隔神経麻痺(おうかくしんけいまひ):横隔膜の神経に麻痺があらわれること
心穿孔(しんせんこう):カテーテルの先端で心臓の壁を傷つけ、心臓の外側に穴があいてしまうこと
心タンポナーデ:心臓と心臓を覆う心外膜の間に血液などが大量に溜まることによって、心臓の拍動が阻害される状態
血腫(けっしゅ):出血することで相当量の血液が1ヵ所にたまって凝固し、はれものになった状態
動静脈瘻(どうじょうみゃくろう):動脈瘤(どうみゃくりゅう)の亜型で、血管が損傷することにより、動脈と静脈が結びつき、異常なかたちの動脈と静脈のつながりが生じてしまう状態
心房粗動の患者さんは、症状が軽くても突然死のリスクがあるので、きちんと病気に気付き、積極的に治療を行うことが望まれます。とくに心房粗動では電気興奮の旋回の仕方の面からも、カテーテルアブレーションで根治が目指しやすいといえます。診断をつけ、適切な治療選択肢を選んでいけるよう、気になる症状がある方は主治医に相談をしていくことがよいと考えらえます。
国立循環器病研究センター 心臓血管内科部門・不整脈科 部長
関連の医療相談が11件あります
心房粗動のカテーテルアブレーション受けました。
家で、160まで、脈が、上がりました、退院する時、先生は、心房細動の可能性も、あるので、様子診ながら診療しましょう、しばらく家で、様子診たほうが、良いですか?宜しくお願いします。来月に、病院には、行く予定です!
心房粗動とめまいの関係
私は5月に心房粗動のカテーテルアブレーションを経験しました。手術前は時々、目眩がしましたが、5月に心房粗動のカテーテルアブレーションをした後、目眩がなくなりました。しかし、7月頃から140の動悸が10日毎に3回ありました。主治医は心房粗動が再発していると言いました。目眩も時々発生します。目眩は、心房粗動と関係があるのでしょうか?
不整脈が何年も続いている
小3から不整脈(頻脈)をもっている 今までに計3回の手術をしている。 一回目は全身麻酔 二回目は局所麻酔 三回目は全身麻酔 でした 一回目と二回目は同じ回路でしたが三回目のは違う場所に出来ていましたが 手術で取り除きました ですが激しい運動をしていて飛んだりすると脈が飛んでなかなか治りません。(脈は安静にしていても150以上 目眩や倒れるなどの症状なし) また4回目の手術をした方がいいのか
心房細動の身体に対する影響を知りたいです。
特に自覚症状はなっかたが、疲れや足のむくみなどが気になった程度出す。
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