院長インタビュー

進取の精神で先進医療と安全・安心の医療を提供する東北大学病院

進取の精神で先進医療と安全・安心の医療を提供する東北大学病院
八重樫 伸生 先生

東北大学 副学長、東北大学病院 病院長、東北大学東北メディカル・メガバンク機構 機構長特別補佐

八重樫 伸生 先生

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この記事の最終更新は2017年07月24日です。

100年以上の歴史を持つ東北大学病院は、東北地方の医療の中心として長年地域医療に貢献する一方で、医学の発展にも寄与してきました。東日本大震災においても数千人規模の医師の派遣など被災地の後方支援にあたり、現在でもその支援は続いています。

東北地方の医療における最後の砦として活躍し、日本や世界の医療をリードする研究・開発にも積極的に取り組む東北大学病院の特徴について、病院長の八重樫 伸生先生にお話を伺いました。

※この記事は、2017年6月の取材に基づいて記載されています。現在とは状況が異なる場合があります。

東北大学病院は、2017年で設立から102年を迎えました。当院は1817年にできた病院の前身である仙台藩医学校施薬所から続きます。このころから数えるとその歴史は200年にもなります。

当院の特徴のひとつは、地域医療への積極的な貢献です。通常、旧帝国大学の附属病院は研究に主眼を置いており、その代わりに県内の他の大学病院や市中病院が地域医療を担っているところが多いと思います。しかし東北大学病院では、2016年に東北医科薬科大学に医学部が新設されるまで唯一、医学部併設の大学病院として北海道南部から東北、北関東にかけての医療の中心を担ってきました。もちろん地域医療に尽力する一方で国内初の体外受精の成功や胆道閉鎖症の術式(葛西手術)の開発、がん検診のモデルの作成など、医療の発展にも貢献してきました。

東北大学病院の理念は「患者さんに優しい医療と先進医療との調和を目指した病院」です。大学病院として最先端の医療を提供するのはもちろんのこと、患者さんが受診しやすく、そして安心安全な医療を提供できるよう努めています。

医師の集団

2011年3月11日、東北を中心に未曾有の大震災に見舞われました。東北大学病院も一部の施設が震災の影響を受けたものの、幸い人的被害はありませんでした。

当院では、搬送されてくる患者さんの診療を行いながらも、特に被害の大きかった沿岸部の病院を中心に医師の派遣を行いました。その派遣数は、2011年3月〜4月の1か月間で述べ2,000人以上となりました。

通常、大学病院から各地域の病院への医師の派遣は、医局と呼ばれる診療科ごとにわけられた医師のグループが主体となって派遣を行います。しかしながら東日本大震災においては、医局による派遣制度の枠組みを超えて、東北大学病院の医師が一体となって、一時は診療科の壁さえも取り払い被災地域での診療にあたりました。被災地域の病院の医師を支え、夜間の当直は東北大学病院からの派遣医師が担当するなどの後方支援に徹しました。

産婦人科を例にとると、被害の大きかった石巻市では出産を含めた周産期の医療を石巻赤十字病院に集約しました。過酷な環境で出産に臨む妊婦さんを支えるため、東北大学病院からの医師の派遣のみならず、通常は分娩を行っていない病院の産婦人科医も集めて体制を整えました。

これは、東北大学病院が従来から宮城県内外の多くの地域に医師を派遣し、長く地域の医療を担ってきたという伝統があるからこそ、このような非常事態にも対応できたのだと思います。

震災発生からしばらくは東北大学病院をはじめ、全国の病院から医師の派遣が行われました。しかし、被災地域において医師不足は深刻であり、急性期を過ぎてからも継続した被災地域への医師の派遣が重要です。

当院では継続的な医師の派遣や東北の地域医療の再構築を目的に、地域医療復興センターを設立しました。

東北大学病院に所属する医師を3名1組のグループとして派遣し、1年のうち4か月間は被災地域で勤務を行います。残りの8か月間は東北大学病院で勤務を行います。このような循環型の派遣システムを構築したことで、継続的な医療支援を行える体制を整えました。

また、派遣医師のキャリアにも配慮した制度もあります。専門医の取得要件を満たす拠点病院への一定期間の派遣や、地域での診療とあわせてのゲノム(遺伝情報)コホート研究もそのひとつです。派遣先の病院の患者さんへ了承を得たうえで患者さんの遺伝子を解析し、治療に役立てます。派遣期間を終え東北大学病院へ戻ってきても、派遣期間中に収集したゲノムデータをもとに研究を継続できる仕組みです。このゲノムコホート研究は、患者さん一人ひとりに合わせた最適な医療を提供する個別化医療の推進に向けての大きな一歩であるといえるでしょう。

このような取り組みを通して患者さん、現場の医師ともにメリットを享受できる環境づくりを東北大学病院は推進しています。

学生が機器の開発をしている様子

東北大学病院は、東北大学工学研究科と連携して新たな医療機器などの開発が盛んです。研究科として国内唯一の医工学研究科が設置され、当院との密な連携による開発・研究が行われています。

現在進んでいる研究のひとつが、胎児心電図です。従来、胎児の心電図は母親の心音などさまざまな雑音に阻害され、測定が不可能であるといわれてきました。例えるなら、屋外から屋内にいる人の心音を聞くようなものです。胎児心電図が実用化に至れば、今まで見つけることができなかった胎児の不整脈などの心疾患を早期に発見できるようになります。

歯科・整形外科の分野でも新たな開発が行われています。骨に埋め込むことで、骨の代わりとなり骨の再生が進むような特殊な材料の開発が進んでいます。

これらの技術が医療で使われるようになれば、今までの常識が変わり、医療はさらに進歩することでしょう。医療現場のニーズ(needs)と工学分野のノウハウや技術などシーズ(seeds)をつなぐ、まったく新しい医療が東北大学・東北大学病院から始まろうとしているのです。

大学内での連携のほかに、企業との連携も積極的です。臨床研究推進センターでは、アカデミック・サイエンス・ユニットという組織をつくり、企業の担当者が医療の現場を間近にみることで画期的な医療機器やシステム、技術の開発につながる取り組みを行っています。これは、アメリカのスタンフォード大学との連携をヒントに取り入れました。

私たち医療従事者が日々の診療で不便に感じながらも仕方がないと思っていたことであっても、企業の開発担当者からみれば自社のノウハウで改善できる可能性のあることは多くあります。患者さん、医療従事者、企業の三者にとって有益であり、かつ医療をよりよくするために、進取の気性でこれらの取り組みを実践しています。

八重樫先生

現在、東北大学病院でしかできない医療の実現のために新中央診療棟(先進医療棟と命名)を建設中です。新中央診療棟には手術室を22室備え、最新の手術用ロボットなども導入予定です。

手術室はCTやMRIを撮影しながら手術の可能な最新の設備を整えます。そこで、他院での実施は難しい高度な医療を提供します。手術室のほか、高度救命救急センターや第一種感染症病棟なども新中央診療棟へ移管する予定です。

このように、新中央診療棟は東北大学病院でしかできない医療を実現する場として機能していくことでしょう。人口減少や高齢化に伴い急性期医療のニーズが減少しつつある昨今において、それでも大学病院は他病院ではできない高度急性期医療を実施していく必要があります。

東北大学病院で実施できる高度先進医療を新中央診療棟へ集約し、地域の患者さんの命を守る、それが私たちの使命のひとつだと考えています。これからも地域を支える医療と最先端の研究の両輪を備えて、地域の方々の健康をサポートしていきます。

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