福岡県北九州市に位置する産業医科大学病院は、北九州地区唯一の大学病院であるとともに、特定機能病院として、高度な医療サービスを提供しています。
なかでも、がん診療連携拠点病院の一つとして、がん診療において高い実績を有しています。このような実績を支えているのは、高い技術力と志を持つ同病院の医師やスタッフです。
病院長である尾辻 豊先生は、地域のみなさんに必要とされる病院を目指し、様々な活動に取り組んでいらっしゃいます。今回は、産業医科大学病院の病院長である尾辻 豊先生に、同病院の取り組みをお話しいただきました。
産業医科大学病院は、北九州地区唯一の大学病院ならびに特定機能病院として、質の高い医療サービスを提供する総合病院です。29の診療科を有し、それぞれの診療科が高度な医療サービスを提供しています。また、地域の基幹病院として、救急の患者さんも積極的に受け入れています。
当院の理念は、以下のように定められています。
1. 患者第一の医療を行います。
2. 科学的根拠に基づく安全かつ質の高い医療を提供します。
3. 人間愛に徹した優れた産業医と医療人を育てます。
これらの理念に基づき高度な医療サービスを提供し、地域から必要とされる病院を目指しています。
当院は、がんの診断と治療の中心的存在を担う、がん診療連携拠点病院に指定されています。実際にがんの診療に関しては高い実績を残しており、2017年現在、北九州市内では最も多くの悪性腫瘍症例の診療を扱っています。
婦人科がんや大腸がん、肺がんの手術件数が特に多いですが、あらゆるがんの診療に取り組んでいる点は大きな特徴でしょう。
私たち産業医科大学病院では、先進医療にも積極的に取り組んでいます。先進医療とは、特定の大学病院などで研究・開発された医療技術のうち、厚生労働大臣の承認を受けたものを指します。
当院では、様々ながんの診断や治療に、この先進医療を導入しています。
たとえば、成人T細胞白血病リンパ腫に対しては、「インターフェロンα皮下投与及びジドブジン経口投与の併用療法」という新たな治療法を適応しています。これは、効果的な治療法がないといわれていた成人T細胞白血病リンパ腫の新たな治療法として効果が期待されています。
ほかにも、子宮頸がんの治療に、内視鏡である腹腔鏡を用いる腹腔鏡下広汎子宮全摘術を適応するケースもあります。
ここでは、当院の病院内外の連携についてご紹介します。
近年では、スムーズな患者さんの紹介・逆紹介を実現するために、地域の医療機関との連携にも力を入れています。たとえば、地域の病院や診療所とは交流の場を設け、定期的に情報交換をする機会をつくっています。
また、院内には患者サポートセンターを設けています。この患者サポートセンターでは、
患者さんの入院や退院に関する支援を行なっており、退院後に転院する病院をどこにするかなどの決定も行なっています。
このように、患者さんが退院時の治療や生活にも安心して移行することができるような体制を築いていますので、安心して当院で治療を受けてほしいと思っています。
さらに、患者さんへよりよい医療サービスを提供するためには、病院内の連携が欠かせません。当院では、診療科同士が情報交換を行い、協力し合う体制が築かれています。日頃から情報交換を行う体制が築かれていることに加え、たとえば、内科系の6つの診療科は定期的に合同で勉強会を実施しています。
また、病院横断のカンファレンスであるキャンサーボードでは、がん診療に関わる外科系、内科系、中央診療系などの複数の診療科が集まり、がん診療に関する意見交換を行っています。
このように、病院内における連携を実現している点は、高度な医療サービスを提供し続けられる要因の一つでしょう。
当院のスタッフは、高い技術力と志にあふれた者ばかりです。
医師に関してお話しすると、たとえば、膠原病・リウマチ内科には全国的に有名な医師がおり、県外からも患者さんがいらっしゃいます。他の分野でも、高い実績を有する優秀な医師が揃っています。
また、医師のみならず当院で働くスタッフはみな、病院をよりよくしたいと願い、そのために取り組む志の高い者ばかりです。たとえば、事務のスタッフであっても病院をよくするという意識を持つ者が揃っている点は、当院の大きな特徴でしょう。
私は、当院で働く医師には、以下のようなことを大切にしてほしいと思っています。
まず、医療安全を徹底するために、情報をきちんと自分の目で吟味してほしいと考えています。情報を鵜呑みにするのではなく、自分できちんと信頼できる情報を判断し、それを元に診療を行ってほしいのです。
また、治療をして病気を良くすることが医療の目的ですが、たとえ治らない患者さんであっても、より幸せに予後を送れるよう患者さんをケアしてほしいと思っています。当院の医師・スタッフには、患者さんの心に配慮することができる医療人になってほしいと願っていますし、そういうスタッフが増えてきていると考えています。
当院は、産業医学の発展を目指す産業医科大学に附属する大学病院です。そのため、患者さんの診療のみならず、産業医学に関する教育や研究に従事する役割も担っています。
特に、産業医学の研究を通じて労働者の健康管理を推進することは、当院の果たすべき役割の一つです。
まだ構想中ではありますが、将来的には、患者さんの就労と治療の両立支援にも取り組みたいと考えています。
当院の他の病院にはない強みの一つは、産業医の資格を有し実際に企業で産業医に従事した経験を持つ医師が多いということです。企業の産業医として培ってきたノウハウを生かし、患者さんの就労と治療の両立を支援することができればと期待しています。
また、医療安全にも、さらに力を入れていきたいと考えています。たとえば、治療における医療ミスがなかったとしても、患者さんが何らかの要因によって理想的な経過を辿らないケースがあります。たとえば、心臓外科の手術では、全国平均で心臓外科手術を受ける方の1〜2%は死亡する可能性があるのです。
このように、ミスではない要因で治療結果が思わしくない経過を辿るケースが存在します。それに関してもきちんと検証をおこなうことが医療安全の基本的な考え方です。よりよい診療を行うためには、なぜ理想的な経過をたどらなかったのか、それを検討することが重要になります。
当院でも、近年、このような医療安全の考え方が広まってきています。診療科の中には、自主的に医療安全に関するレポートを提出するところもあります。また、死亡事例は、全症例を一例一例、会議で検討しています。
現状では、この検証においてほぼ100%問題はありませんが、今後も医療安全にますます力を入れていきたいと考えています。
私は、患者さんには、医師に対し遠慮することなく思っていることをなんでも伝えてほしいと考えています。それは、医師が語る言葉は、患者さんがすぐに理解できるものばかりではないためです。
医師の話が少しでも理解できないと感じることがあれば、それを伝えてほしいと思っています。もちろん、当院では、なるべく理解してもらえるよう努力はしていきますが、患者さんも可能であれば理解できるまで質問してほしいのです。お互いに理解し、納得したうえで治療方針を決定したいと願っているからです。
お話ししたように、私たち産業医科大学病院には、高い技術力と志を有するスタッフが揃っています。不安を感じることがあれば、何でも伝えてほしいと思います。