院長インタビュー

医療を通して地域との絆を照らす福島県立医科大学附属病院の取り組み

医療を通して地域との絆を照らす福島県立医科大学附属病院の取り組み
齋藤 清 先生

福島県立医科大学 副理事長、福島県立医科大学脳神経外科 教授

齋藤 清 先生

この記事の最終更新は2018年01月18日です。

福島県立医科大学附属病院は、福島県内でただひとつの医学部を持つ福島県立医科大学の附属病院です。2011年3月の東日本大震災発生後、医療崩壊の危機にさらされながらも、同院は福島県と強固な連携体制を築いています。大震災を経験した福島県と福島県立医科大学附属病院が最も大切にしていることは、地域との絆を強くすることだといいます。そのために「患者サポートセンター」を整備したり、地域医療と高度先進医療を並行して提供できるような仕組みを整えたりと、さまざまな試行錯誤を繰り返してきました。近年では地域連携がますます深まり、患者さんが安心して福島県立医科大学附属病院で治療を受けていただけるようになっています。同院院長の齋藤清先生は、誰からも選ばれる明るい病院を目標に、優しく患者さんに寄り添って最先端の医療を提供したいと仰います。今回は、福島県立医科大学附属病院院長の齋藤清先生に同院の取り組みについてお話しいただきました。

※この記事は、2017年9月の取材に基づいて記載されています。現在とは状況が異なる場合があります。

福島県立医科大学附属病院のひとつめの特徴は、県内唯一の医学部、かつ県立の医科大学の附属病院であることです。そのため県の行政とのコネクションが強く、連携をとりながら福島県の医学的発展や向上を目指しています。

ふたつめの当院の特徴は、なんといっても大震災を経験した県の病院であることでしょう。2011年3月11日の東日本大震災は、日本中を震撼させました。しかし、この震災をきっかけに、福島県には「地域復興」という大きな使命ができました。2017年現在、復興に向けて県の整備や医療体制も大きく発展し、当院でも病院が増築されただけでなく、一人一人の気持ちが前向きなものに変化していきました。

福島県立医科大学附属病院では、39の診療科と778床の病床を設けています。県内唯一の医科大学であるため、県内各地からあらゆる症状・病態の患者さんが訪れており、1日の平均外来患者数は2016年度で1,359名に上ります。

福島県立医科大学は「優しく心温まる医療を提供する病院」であることを大切にしています。大病院の役割として、先端医療の追求はもちろん大切です。しかし、地域との医療の絆を結ぶことを忘れてはなりません。私たちは、県民の健康を支える医療、そして心温まる医療を目指し、県民のみなさまと共に歩む医療を目標に、日々の臨床に励んでいます。

「優しく心温まる病院」の実現には、福島県立医科大学のスタッフの温厚な性格も関与しているかもしれません。当院には全国各地から優秀な医師の方々が多数いらっしゃり、福島県立医科大学出身の先生は多いものの、基本的に学閥は一切なく多様な人材を受け入れています。これは福島県外出身の私からみた感覚ではありますが、基本的に県内の方々は穏やかで優しく、コミュニケーションを大事にされている印象を抱きます。他科の先生に協力を依頼する際にも快く協力してくださりますし、医師同士の連携がとてもスムーズな病院であると実感しています。また県立医科大学であるために、福島県の職員の方々の交流も活発に行われています。

福島県では、地域医療の充実が非常に大きな課題であり、私たちは地域医療の充実に向けてひたむきに取り組んでいます。しかし、先述したように重要なことは地域医療だけではありません。大学病院である以上、高度先端医療を支える人材の確保も同じように大切な任務です。

高度先端医療を支える人材と、地域医療構想を実現する人材。このふたつはまったく別ではなく総合的にとらえる必要があります。つまり、総合診療のマインドを持ちつつ高度先端医療を提供する心構えです。

当院では大学病院として多くの診療科に力を入れています。その中でもがん系統および神経系統の診療科は充実しています。また、整形外科学講座も長い歴史を持っており、菊地臣一前理事長時代から築かれた教育体制は長きにわたり整形外科だけでなく病院全体の教育精神の礎を築いています。そして、東日本大震災震災後に一層力を入れて取り組んでいる診療科が小児科および産婦人科です。女性が安心して妊娠・出産・育児をすることができるための病棟も「みらい棟」内に新設しています。

また、2018年現在はまだ発展途上にありますが、放射線医療にも今後力を入れていきたいと考えています。詳細は竹之下誠一理事長の記事『福島県立医科大学の挑戦―これからの福島県の医療』でご紹介しますが、当院に新設された先端臨床研究センターには、最新の中型サイクロトロンが導入され、病棟には全国最大規模のRI(ラジオアイソトープ)病棟を作りました。RI内用療法は、やがて当院の強みとなる医療になっていくでしょう。

RI内用療法を含め、当院ではがん治療を得意とする医師が多く、院長の私自身も脳腫瘍を専門にしています。このほか、放射線治療や免疫治療にも当院では積極的に取り組んでおり、特に抗がん剤治療においては腫瘍内科に優秀な医師がいるので、手術のみならず集学的ながん治療を提供することが可能になっています。

 

 

 

TRセンターとは、「医療産業トランスレーショナルリサーチセンター」のことをさします。医薬品関連産業および医療機器産業を福島県立医科大学病院が支援することで、福島県の医療産業の活性化を目指します。医療と産業の円滑な橋渡しはとても重要です。それによって、さまざまな疾患の治療・診断・検査の開発を多面的に行うことも期待できるのです。この取り組みを通じて、県内の産業および雇用創出、最先端のがん医療への貢献、そして県民の健康維持を図ると共に復興の一助になれればと考えております。

2017年10月より、当院のみらい棟ときぼう棟の間に、新しい手術室を3室新設しました。この手術室にはバイプレーン血管撮影装置(ハイブリッド手術室)、術中MRI、バイオクリーンなど最先端の設備を導入しています。全国的にも数少ない施設であり、さまざまな手術治療を提供することができます。

術中MRIとはなにか

術中MRIとは、手術中にMRI撮影を行うことです。リアルタイムに患者さんの脳腫瘍などの正確な位置や脳解剖情報を得ることができる手術法です。例えば、脳には聞く中枢やしゃべる中枢など守るべき部位がありますが、手術中に脳の状態を確認しながら手術をすることができます。この方法によって、手術の精度管理が飛躍的によくなることが期待できます。

MRI手術室
バイオクリーンルーム
ハイブリッド手術室

福島県では、県内の研修医を一括して教育するという体制を築いています。初期研修医は、福島県と福島県臨床研修病院根とワーク主催の1泊2日の合同オリエンテーションに参加し、動機研修医同士のコミュニケーションはもちろんのこと、県の保健行政幹部職員や県知事ともコミュニケーションを行う場となっています。福島県全体で医師を育成しようというシステムが築かれているのです。

福島県立医科大学附属病院と福島県が一緒になって若手医師の教育を行うことで、福島の医療の実情と重要性を知っていただき、福島に残ってくれる医師が1人でも増えてくれれば理想的です。もちろん、福島県に貢献したい気持ちはあるけれども県外でたくさんの経験を積むことも大切と考える医師に対してもその希望を叶えられるよう全力でサポートを行います。

少し病院の話から離れますが、2021年4月に福島県立医科大学は「保健科学部(仮称)」を開学する予定です。ここでは理学療法士、作業療法士、診療放射線技師、臨床検査技師の教育、育成を行い、医師のみならず医療系人材育成の「総合」大学となり、福島県の医療にさらなる貢献をしていきたいと考えています。また、医学部には25名程度の地域枠を設けています。彼らが卒業後に福島県で活躍してくれるであろう10年後(2028年頃)には福島県の医師不足も現在よりは解消されている可能性か高いのでないでしょうか。

非常にシンプルですが、臨床医としては患者さんのために一生懸命働いてくれる方が一番なのではないかと考えます。特に福島県は医師不足が著しい地域で、そのようななかで患者さんのために頑張ってくれる姿勢のある方を、私たちは大事にしたいと考えます。もちろん、大学病院として高度先端医療も発展させていく義務がありますし、研究も決して怠りません。しかし、臨床・研究・教育のどのようなシーンにおいても医療の大原則は、患者さんのために頑張ることなのだと考えています。

福島県を大切に思い、福島県民のみなさんの健康と幸せを願って共に頑張りたいと望む方を、私たちは心からお待ちしておりますし、そのような志のある若手医師と安心していただける地域医療を県民の皆様に提供していきたいと考えています。

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