静岡県浜松市に位置する国立病院機構 天竜病院(以下、天竜病院)は、広域をカバーする政策医療(結核、重症心身障害児・者、神経難病、児童精神)を提供するとともに、呼吸器内科、内分泌・代謝内科、一般内科を中心とした地域医療を行っています。
重症心身障害を有する赤ちゃんの受け入れや非結核性抗酸菌症の診療など時代のニーズをくみ取り柔軟に対応していく同院の取り組みについて、院長の早川啓史先生にお話を伺いました。
当院の前身は、1940年に創設された国立の結核療養所です。結核の大病院として機能していましたが、戦後の結核患者さんの減少にともない政策医療の幅を広げてきました。具体的には、1970年5月に重症心身障害児(者)の受け入れをはじめました。1981年には児童精神科を開設し、1997年には神経難病の患者さんの受け入れも開始しました。
現在はこれらの政策医療の提供をするとともに、当院創立のきっかけとなった呼吸器内科の診療や内分泌・代謝内科での糖尿病治療などを通じて地域に貢献しています。周辺地域の高齢化は著しく、お年寄りの患者さんが大半を占めます。また、当院の北側に位置する北遠地域は過疎化が顕著で医療資源も乏しいことから、当院はへき地拠点病院に指定され、こういった面での貢献も行っています。呼吸器内科では、最近中高年の女性を中心に増えてきている非結核性抗酸菌症の診療に力を入れています。治療で落ち着く方も多いのですが、難治性の経過を示す患者さんの場合は、かなり遠方からも紹介されてきます。
ハード面では、病棟が2012年に建て替えられ、新しい外来・管理棟が2018年3月に竣工、そして全体の外構工事が2019年3月に完成と着々と整備が進行中です
当院は、浜北区於呂から天竜区渡ヶ島にまたがる丘に位置し、県立天竜特別支援学校と社会福祉・学校法人天竜厚生会が隣接しています。この丘の上の成り立ちは、当院の歴史とも深く関わっており、両施設の設立背景を簡単に紹介いたします。
国立結核療養所として結核治療に専念していた頃は、病床数も多く、子どもから大人まで幅広い世代の患者さんが療養されていました。中には教職員として教鞭を執っていた方もいたようで、療養しながら子どもたちに勉強を教えていたそうです。療養所内の一部が寺子屋のようになっていたところ、やはりきちんとした学校という形での教育が推奨され設立された分校が現在の天竜特別支援学校のルーツです。
また当時は、結核患者さんが幸いに回復に至ったとしても社会復帰が困難であったため、多くの方の尽力の末に病院の敷地内に結核回復者コロニーができあがりました。これが、現在の天竜厚生会のルーツです。
数年前に、医療(Medication)の天竜病院、教育(Education)の天竜特別支援学校、福祉(Welfare)の天竜厚生会が連携する本エリアを「みゅう(MEW)の丘」と名付け、さらなる連携を深め、災害時の相互援助、行政への要望(道路拡張など)、地域住民への発信などについて行動を共にし、大きな成果をあげています。
当院の診療の中心は、重症心身障害児(者)や神経難病、児童精神科の領域です。重症心身障害児(者)、神経難病、精神科疾患の診療は国の政策医療の一環とされており、セーフティーネットとしての役割も担っていかなくてはなりません。
ここでは、当院の重症心身障害児(者)と児童精神科について簡単にご紹介いたします。
重度の肢体不自由と知的障害が重複した状態の子どもを重症心身障害児、成人した方は重症心身障害者と言います。当院では、小児科の医師が重症心身障害児(者)の医療を担当しています。近年、ようやく近隣県でも重症心身障害児(者)の受け入れ施設が増えてきたのですが、重症の小児患者を受け入れることができる施設は相変わらず少ないのが現状です。その結果最近では、安定した患者さんを地元にお返しし、人工呼吸器を付けた赤ちゃんたちのような重症児を広域から受け入れるような状況になってきています。患者さんの重症化に対応できるように、看護体制も10対1から7対1へ移行しました。
増え続ける発達障害や被虐待(いじめなどの迫害体験を含む)のため、あるいはその両方がかけ算となって重症化し、不登校・ゲーム/ネット依存・自傷や他害などの問題行動を呈している子どもたちの入院治療を行なう、静岡県に2つしかない児童精神科専門病棟の1つです。当院は入院治療に特化しており、浜松市の中心部に位置する子どものこころの診療所や浜北にある友愛のさと診療所、その他児童精神科クリニックや小児科と連携して、紹介により入院治療に対応する体制を取っています。そのため、まずは交通の便のよい、両診療所への受診をお願いしています。また、特色のひとつとして、入院中は、隣接した天竜特別支援学校へ転校していただき、学習保障をするとともに、登校訓練を行うという点が上げられます。この方法によって、長い間不登校だった子どもたちが登校可能になることも期待できます。学校や教育委員会、その他福祉関係なども含め、多機関と連携して、入院治療を行うことが重要と考えています。
当院は地域が抱える医療ニーズに応えられるよう変化を続けています。今できることを地域の皆さまにきちんと示し、どのように利用できるのか、どのようなことを相談できるのかを知っていただけるように努めています。例えば、地域の皆さまを対象に市民公開講座や出前講座を開催して、対応できる診療内容はもちろん、身近な病気に関する情報を発信しています。2018年3月に開催したアレルギー疾患に関する市民公開講座では、子どものみならず、成人でも食物アレルギーに苦しんでいる方が多くみえることを実感し、アレルギー担当の医師に大人の食物アレルギーについてもっと勉強し、診療に反映させて欲しいと伝えたところです。
当院には、子育て世代の職員方も多くいます。子育て支援のために、育児短時間勤務や育児時間制度を導入しており、それらを利用してキャリアを重ねる女性医師が多いのも特徴です。子育てのために時短勤務をする医師を応援し、医師同士でサポートしあいながらメリハリをつけて働けるようにしています。さらに、医師のワークライフバランスを十分に考慮した環境を今後も整えていけるように尽力していきます。
独立行政法人国立病院機構天竜病院 院長
独立行政法人国立病院機構天竜病院 院長
日本内科学会 総合内科専門医日本呼吸器学会 呼吸器専門医・呼吸器指導医日本結核・非結核性抗酸菌症学会 結核・抗酸菌症指導医日本アレルギー学会 アレルギー専門医・アレルギー指導医日本呼吸器内視鏡学会 気管支鏡専門医・気管支鏡指導医
1980年より、内科医師としてのキャリアを始める。1982年からは、呼吸器内科を専攻し、間質性肺炎、粘膜免疫、肺がん、アレルギーなど幅広い領域で研究業績を残す。2005年に国立病院機構天竜病院院長に就任。病院の全面建替をめざし、2019年春に竣工。診療面では、政策医療と地域医療の充実に尽力し、若手医師の育成にも力をいれている。
早川 啓史 先生の所属医療機関
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現時点での診断・治療状況についてヒアリングし、ご希望の医師/病院の受診が可能かご回答いたします。