院長インタビュー

高齢化社会を見据えた救急体制の整備に力を入れる富山市立富山市民病院

高齢化社会を見据えた救急体制の整備に力を入れる富山市立富山市民病院
石田 陽一 先生

富山市病院事業管理者

石田 陽一 先生

目次
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この記事の最終更新は2019年03月19日です。

富山市立富山市民病院が開設されたのは1946年であり、終戦の翌年です。1983年に現在の病棟での診療を始め、現在では595床、34科という規模を誇っています(2019年1月時点)。最寄り駅はJR富山駅であり、そこからバスで15分ほどの場所にあります。同院の近年の取り組みについて、富山市病院事業管理者の石田陽一先生にお話を伺いました。

病院外観

当院の理念は「安心して暮らせる医療を提供し、地域に住む人を増やす」というものです。

それをかなえるために当院は、地域に密着した急性期医療を提供します。これからご高齢の患者さんが増えることを見越して、現在さまざまな工夫をしています。

キーワードは「骨折」と「低侵襲」、そして「認知症」です。

高齢者の方では、大腿(だいたい)骨の骨折が増えます。骨折の治療後は、寝たきりにならないよう、迅速な手術が必要です。そこで当院では2014年、医師を含めた多職種が連携する治療チームを立ち上げました。

搬送されてきた患者さんは、まず救急センターの外来部門で、救急科の医師が診断をします。骨折と診断されると整形外科の担当となりますが、内科の医師も同時に全身状態をチェックします。そして問題がなければ、すぐに手術の準備に入ります。この一連のチーム医療により、平日の日中であれば、大腿骨近位部の骨折は搬入後3~5時間ほどで、手術を始められるようになりました。

さらに手術後は、日本老年医学会認定の老年病専門医による術後管理に加え、運動器リハビリテーションも行います。

また、このシステムは当院の内科の先生たちが全員、自らの専門領域以外の全身を診られることに助けられています。そうでなければ成り立ちません。

高齢者になると、がんに罹患している患者さんも増えてきます。しかしご高齢の患者さんにとって、大きく切開する手術は負担が大きすぎる場合が多いです。そのため当院では、侵襲度の低い(可能な限り体を傷つけない)手術を積極的に増やしてきました。

胃がんは早期ならば、腹腔鏡手術が行えます。腹部を切開することなく、小さな穴を開け、そこから内視鏡と手術器具を体内に入れ手術します。金沢大学附属病院の准教授を勤めた医師が当院に移籍し、執刀・指導しています。

大腸がんにも同様に、腹腔鏡手術を行っています。こちらは富山県立中央病院で執刀を行っていた医師が着任し、当院の手術件数が大幅に増えました。

肺がん治療では、富山大学附属病院の外科から、肺を切開しない完全胸腔鏡手術を行える医師が来てくれています。

また放射線治療では、トモセラピーと呼ばれる新たな機器を導入しました。この機器を用いると、がん細胞に選択的に放射線を当てることが可能となり、がん周辺の正常組織はほとんど傷つきません。

このような低侵襲の治療が増えた結果、患者さんの回復も以前より早くなったと考えています。

完全胸腔鏡手術の様子

従来型の手術についても、患者さん一人ひとりにより適切な手術を提案する医師を集めています。その結果、当院の手術レベルは以前より飛躍的に向上しました。ここ数年、年間手術総数、腔鏡手術数はいずれも急増しています。

このような医師たちの着任が可能なのは、医師の派遣をいただいている大学医局のおかげです。近隣の大学病院には、当院での勤務歴や研修歴がある医師が多く、親近感を抱いていただいているようです。

認知症も、高齢化社会を考えるうえで、避けてとおれない問題です。2019年1月現在、当院では神経内科医2名、ならびに認知症を専門領域とする精神科医1名というチーム体制で、この問題に取り組んでいます。各種の脳画像診断装置に加え、認知症の簡易スクリーニング検査も可能です。また、アルツハイマー病を早期に診断できるシステム(VSRAD)も導入しました。必要であれば、入院も可能です。

認知症チームのみなさん

このように急性期医療の改善に取り組む一方で、地域医療機関との連携も積極的に進めています。当院が地域医療支援病院となったのは2008年であり、地域完結型医療を目指していたことが評価されたと考えられます。

しかし現在、かかりつけ医の先生からご紹介いただく患者さんの数をもっと増やしたいと考えています。そのため、地域の医療機関に対して当院の説明をさていただいています。

当院の特長を、どのようにすれば地域の先生方に効率よくお伝えできるか検討中です。

地域医療連携を担う「ふれあい地域医療センター」

在宅医療については、市営の在宅療養支援診療所である「まちなか診療所」と連携しています。

この診療所は、市が中心部に作った「まちなか総合ケアセンター」内にあります。同センター内には「病児保育室」もあり、当院では看護師が出向し、支援しています。またレクチャールームもあるので、市民のみなさまを対象とした教育講座を開催することもあります。この講座は、待ち時間対策も兼ねて院内で毎日行っているレクチャーを、出前するという試みです。

病児保育室で診察も行う

初期臨床研修医は毎年、6名を募集しています(2019年1月時点)。より時代にフィットした研修を提供できるよう体制を整えています。

当院の初期研修の特徴として、離れた地域の病院との連携により当院で経験が難しい領域の研修や多くの研修医との交流を経験してもらえる点です。このプログラムが評価されたのか2019年度の初期臨床研修医でフルマッチすることができました。

ひとつの大病院で治療がすべて完結する時代は終わり、地域内の医療機関がそれぞれの特徴をいかして連携する「地域完結型」医療の時代がやってきました。それぞれの医療機関が、地域住民のみなさまが求めている医療を正しく理解し、提供しなくてはなりません。

当院の使命は、高度急性期医療の提供です。しかしそれにとどまらず、地域医療の質を引き上げるお手伝いもしたいと考えています。地域のみなさまが安心して生活していただけるよう、これからも努力してまいります。

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