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成人脊柱変形の外科的治療(手術)——多椎間PLIF、DVD法、LIF、PSOなど

成人脊柱変形の外科的治療(手術)——多椎間PLIF、DVD法、LIF、PSOなど
大谷 和之 先生

国家公務員共済組合連合会 九段坂病院 整形外科部長

大谷 和之 先生

目次
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この記事の最終更新は2019年02月04日です。

成人脊柱変形とは、大人になってから発症する脊柱変形を指します。症状が軽度の場合には保存的治療を検討しますが、一方、重度の場合には手術を選択することがあります。記事2では、成人脊柱変形に対する保存的治療についてご説明しました。本記事では、成人脊柱変形の手術について、国家公務員共済組合連合会 九段坂病院の大谷和之先生にお話を伺います。

成人脊柱変形に対する外科的治療(手術)には、大きくわけて2種類の方法があります。1つ目は椎間板にアプローチして脊柱変形を矯正する方法、2つ目は骨を切って脊柱変形を矯正する、いわゆる「骨切り」と呼ばれる方法です。

1つ目の椎間板にアプローチする方法には、以下のとおりいくつかの術式があります。

  • 多椎間PLIF(多椎間の後方進入椎体間固定術)
  • DVD法(後方前方後方3段階矯正固定術)
  • LIF(側方椎体間固定術)

これらに加えて、先述した骨切り術「PSO(椎体骨切り術)」があり、一般的には4つの術式が行われています。次項では、それぞれの方法を詳しくご説明します。

多椎間PLIF(多椎間の後方進入椎体間固定術)とは、後方から椎間板にアプローチする方法で、以下のステップで手術を行います。

  1. 狭くなった椎間板を広げてケージと呼ばれるスペーサーを椎間板内に挿入する
  2. 後方から挿入したスクリュー間に圧縮力を加えて後方を短縮する
  3. 上記の過程を3〜4椎間に行うことで腰椎の前弯形成を行う

以下の画像は、多椎間PLIFで治療した腰椎変性後側弯症の患者さんの画像です。A、Bは術前に撮影したX線検査画像、C、Dは術後1年後に行ったX線検査画像です。

手術費用は麻酔と使用したインプラントの費用を含めて約510万円で、健康保険の自己負担割合が3割なら自己負担額は約153万円になりますが、高額療養費制度が適用されるため、限度額を超えた自己負担分は還付されます。

 

腰椎変性後側弯症のX線検査画像
腰椎変性後側弯症のX線検査画像 画像提供:大谷和之先生 

DVD法(後方前方後方3段階矯正固定術)とは、九段坂病院独特の方法で、その名のとおり3段階にわけて腰椎の前弯を形成する方法です。以下のステップで手術を行います。

  1. 後方から椎間関節を切除し、前方を開きやすくする
  2. 前方から椎間板を広げて椎体間ケージを設置する
  3. さらに後方から短縮して前弯形成を行う

メリットは、前方と後方からリリースして椎間板を広げるため、椎間板レベルで最大の前弯形成が可能である点です。一方、2回の体位変換があるため長時間の手術になる点がデメリットといえます。

LIF(側方椎体間固定術)とは、患者さんが横向きになっている状態で脇のほうから椎間板にアプローチする方法で、以下のステップで手術を行います。

  1. 椎間板を切除し、横長の大きな椎体間ケージを設置する
  2. 後方から従来法や経皮的スクリューを用いて短縮し前弯形成を行う

LIFは、出血が少なく身体的な負担が少ないことから近年急速に普及していますが、LIF特有の合併症もあり、術者の十分なトレーニングが必要となります。

PSO(椎体骨切り術)とは、後方から椎弓(椎体の両側から後方に出ている部分)と椎弓根(椎体と椎弓を結びつける部分)を切除したのち、椎体をくさび状に切除して後方を短縮し前弯を形成する方法です。

以下、A、Bは骨粗しょう症性の多発椎体骨折によって後弯変形がある患者さんのX線検査画像、Cは術中の骨切りテンプレートが挿入されたX線検査画像、D、Eは骨切り手術の術後1年のX線検査画像です。術後経過中に転倒して左大腿骨頚部骨折の手術も受けています。

手術費用は麻酔と使用したインプラントの費用を含めて約420万円で、健康保険の自己負担割合が3割なら自己負担分は約126万円になりますが、高額療養費制度が適用されますので、限度額を超えた自己負担分は還付されます。

骨粗しょう症性多発椎体骨折後の後弯変形のX線検査画像
骨粗しょう症性多発椎体骨折後の後弯変形のX線検査画像 画像提供:大谷和之先生 

一般的に、PSOは骨を切るぶん前弯形成の効果が大きく期待できると考えられますが、その一方で、出血量が多く身体的な負担が大きな手術となります。

術式の選択においては、後弯変形の原因と状態を把握することが重要です。

たとえば、変形が比較的やわらかい場合には、後方からの多椎間PLIFを検討しますが、変形が硬く寝た状態でも伸びないようなケースはDVD法が適していることがあります。また、骨折そのものが変形の主体である場合にはその骨を治す必要があるため、PSOを検討します。

手術の種類や個々の患者さんにより異なりますが、一般的には、短くて5時間ほど、長いと10時間ほどの手術時間がかかります。特にDVD法は、先述のとおり体位変換があるため、手術時間が長くかかります。上記の理由から、成人脊柱変形の手術では、患者さんの自己血を貯血して手術に臨むことが多いです。

一般的に、成人脊柱変形の術後は、新たな骨折を防ぐために短くても1か月ほどは入院をしていただきます。当院では、通常、術後2〜3日後には離床し、正しい姿勢で歩けるよう歩行指導とリハビリテーションを実施します。

一般的に、脊柱変形の手術は身体的な負担が大きく、合併症の発生率は高いといわれています。具体的には、以下のような合併症が挙げられます。

【術中合併症】

など

【術後合併症】

など

合併症発生のリスクファクターとしては、術中の出血量と、術前からの併存症が挙げられます。

手術を行った場合でも「一生よい状態が保てる」というわけではありません。なぜなら、手術をしていない部分の変形は経年的に進行しますし、骨折などをきっかけに一気に変形が進行する場合があるからです。変形が高度なケースでは、再手術が必要になることもあります。

上記の理由から、手術のメリットやリスクを理解したうえで、治療選択をすることが大切です。

成人脊柱変形の術後は、固定した部分の周辺が骨折しやすいため、骨折しないよう注意することが大切です。術後、担当医から指示された期間はコルセットなどの外固定をきちんと行い、また、前かがみの動作を極力避けて過ごしましょう。

術後しばらくはインプラントが緩んだり変形が進行したりする可能性があるため、術後はそれらの点を含めてフォローアップを行います。また、骨粗しょう症を併存している場合には、骨折を防ぐために、骨粗しょう症の治療も積極的に行います。

当院では、術後、数か月おきに通院していただきます。ありがたいことに、全国から患者さんがきてくださいますが、術後のフォローアップを継続できるよう、基本的には、退院後も定期的に通院が必要である旨をご説明し、ご了承いただいたうえで、手術を行っています。

脊柱変形によって痛みやADL障害があり、日常生活に支障をきたしている場合、手術という選択肢は患者さんの希望になります。しかしながら、記事1でもお話ししたように、成人脊柱変形の患者さんすべてに手術が適応となるわけではありません。

まずは病院を受診し、きちんと診察を受けて手術のメリットやリスクを理解したうえで、最終的に患者さんが治療を選択することが大切だと考えています。

治療選択は、患者さんの人生観にかかわるものです。私たちは患者さんが望むものを可能な限り実現するために選択肢を提案し、患者さんを全力でサポートします。気になること、不安なことがあれば、遠慮なくご相談ください。

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