2019年7月17日(水)〜2019年7月19日(金)に、東京ビッグサイト(東京国際展示場)において、一般社団法人日本病院会(JHA)と一般社団法人日本経営協会(NOMA)が主催する国際モダンホスピタルショウ2019が開催されました。3日間を通して、保健・医療・福祉に関する数々の講演やパネル展示などが行われました。18日(木)には、独立行政法人 労働者健康安全機構 理事長 有賀徹先生を中心に、「地域における災害レジリエンスと地域ヘルスケアBCP」というテーマに沿って、5名の演者による講演と総合討論が行われました。本記事では、有賀先生の講演を中心にお伝えします。
2017年3月に、厚生労働省は、災害拠点病院に対して、BCP(business Continuity Plan:事業継続計画)の策定を義務化しました。BCPとは、「災害などが発生したときに特定の重要業務を中断せず事業を継続すること。あるいは、万が一、事業が中断したときに重要な機能を復旧して、損失を最小限にとどめるための計画」です。
とくに、災害拠点病院におけるBCPは、災害時においても病院機能を維持したうえで、被災された患者さんを含めた全ての方に医療を提供し、かつ、初動期、急性期、その後の亜急性期、慢性期の災害のフェーズに対して、切れ目のないスムーズな医療を提供すべきという考えのもとに定められています。また、刻一刻と変化する病院の被災状況や地域における病院の特性、地域からのニーズに対応する必要もあります。
今回のテーマである「地域のHealthcare BCP」は、災害時に起こりうる不足の事態に備え、各災害拠点病院が策定したBCPをもとに、地域全体で連携を取りながら解決策を考えていくものであり、病院だけではなく、自治体や各地域の企業、ボランティアの方々など、地域全体の幅広い連携が欠かせません。
災害拠点病院とは、災害発生時に災害医療を行う医療機関をサポートする病院のことです。
しかし、災害時には、災害拠点病院が自ら被災してしまうことも想定されます。災害拠点病院が被災してしまったときには、病院や診療所と相互で患者さんの受け入れを行ったり、患者さんの情報を共有したり、さらには医薬品などの在庫情報について連携を深めるなど、地域の医療機関同士での連携が大変重要になります。このような想定される被害を予測して事前に備えることは、BCPを策定するうえで重要なポイントです。
災害拠点病院は、災害時にガスや水、電気などが途絶えたり、陸路が通れないなど、インフラストラクチャーが機能しなくなったりしたときの事態に備え、事前にライフラインを確保するための対策を講じておく必要があります。
そもそも、災害拠点病院には、3日分程度の電力を維持する燃料の確保と、食料・飲料水・医薬品などの備蓄が定められていますが、その期間を過ぎたあとも、医療を提供し続けなければなりません。そのため、災害時のライフラインの継続的な確保は、病院単体の努力では難しく、近隣の地域や隣接する他地域の行政とも連携を取っておくことが、非常に重要になります。
現在の日本では、未婚率の上昇や熟年離婚、死別などから、単身高齢者の割合が増加傾向にあります。
日本の社会保障制度は、国民一人ひとりの社会連帯のうえに成り立っている制度であるため、社会連帯の消滅、すなわち個人化が進展することは、社会保障制度の解体につながりかねないと考えます。
一方で、日本は公共心が豊かな人が集まる国だという見方もできます。たとえば、神戸や東北、熊本などで大きな地震が起きた際に、日本中からボランティアの方たちが集まり、災害復興に向けて助け合う姿が見られました。これは、まさしく公共心からくる行動ではないでしょうか。公共心を持つ日本人の精神を軸にすることで、前述した高齢化が影響する社会保障制度への対策について、その一助になるとも考えています。
レジリエンスには、強くてしなやかな、強靭さという意味があります。災害レジリエンスとは、いかなる大規模災害が発生したとしても、人命を守るだけではなく、国や地域の経済社会のシステムが機能不全に陥らないような抵抗力および回復力を確保するための準備と、イザというときの対応のことを指します。
地域における災害レジリエンスを構築していくためには、災害拠点病院と地域の医療機関や介護施設が連携し、さらには地域社会そのものとも連携を図る必要があるといえます。
ここで重要になるのが、災害レジリエンスに関わる3層構造です。第1層は、ライフラインに関連する行政機関やボランティアの方々を含む地域社会全体。第2層は、地域の医療や介護に関連するような社会の仕組みである医療・介護連携。第3層は、災害時に中心となる災害拠点病院などの機関です。
この災害レジリエンスに関わる3層構造において、災害拠点病院を核として、各層同士がどのように連携して地域の災害医療に対して向き合うか、ということを考えていくことが、災害レジリエンスの構築につながると考えています。
現在、独立行政法人 労働者健康安全機構および一般社団法人 Healthcare BCPコンソーシアム(HBC)が中心となり、「災害拠点病院を通しての評価項目」を作成し、精緻化作業を行っています。この評価項目に対して、東京労災病院、関東労災病院、千葉労災病院、横浜労災病院、日本医療機能評価機構、日本政策投資銀行などさまざまな有識者の方々にご協力いただき、ピアレビュー*を開始しました。そして、この評価基準をもとに、災害レジリエンスを構築し、日本の災害医療のあるべき姿を提示することを目指します。
*ピアレビュー…評価対象について、専門的・技術的な共通の知識を有する同業者・同僚によって行われる評価や審査。
「ヘルスケアBCP研究文化会における地域ヘルスケアBCP第三者評価基準検討の意義と内容について」
「災害基幹病院のBCPにおける地域との連携」
「災害時における地域の推進力」
「災害レジリエンスに係る企業の役割」
講演者5名全員が登壇し、「地域における災害レジリエンスと地域ヘルスケアBCP」について、講演の内容をもとに活発な討論が行われました。
このようにして、国際モダンホスピタルショウ2019「地域における災害レジリエンスと地域ヘルスケアBCP」は終了しました。
有賀 徹 先生の所属医療機関