僧帽弁閉鎖不全症は、心臓にある“僧帽弁”が機能しなくなることにより血流が逆流する病気で、無症状であっても健康診断で見つかることが多い病気です。症状が軽度で血液の逆流が少なかったとしても、定期的に超音波検査を受けることがすすめられます。
今回は、僧帽弁閉鎖不全症の原因や症状について、榊原記念病院 心臓血管外科 成人 主任部長、帝京大学医学部附属病院 心臓血管外科主任教授を務める下川 智樹先生に伺いました。
僧帽弁閉鎖不全症とは、心臓の左心室の入り口の弁である僧帽弁が、何らかの原因でうまく閉まらなくなることで、血液が左心房に逆流する病気です。
たとえば、正常な心臓が10回脈打った際に左心室に送られる血液を100%とすると、僧帽弁の閉まりが悪い場合に送られる血液は約50%になり、残りは左心房に戻ります。このように、僧帽弁の閉鎖不全により逆流が起こることで、そのぶん心臓は多く血液を送り出すことが必要になり、心臓への負担が大きくなるのです。
心臓は負担を抱えながら徐々に大きくなる(肥大化する)ため、5〜10年ほどは症状が起こらずに経過することがほとんどです。しかし、症状が出てから治療を行った場合は、正常な状態に戻すことは難しい可能性があります。そのため、たとえ症状が出ていなくても、血液の逆流が重度である場合には、心臓の筋肉が傷んでしまう前に、僧帽弁形成術で僧帽弁を修復することが望ましいです*。
*僧帽弁閉鎖不全症の治療については、こちらをご覧ください。
僧帽弁閉鎖不全症は、器質性(一次性)と機能性(二次性)に分けられます。
器質性の僧帽弁閉鎖不全症とは、僧帽弁自体が厚くなることで起こるものを指します。その原因には、変性(僧帽弁逸脱症、加齢に伴う変性など)、感染症、リウマチ熱、先天性、外傷が挙げられます。その中でも多くみられるのは、変性(僧帽弁逸脱症、加齢に伴う変性)です。
機能性の僧帽弁閉鎖不全症とは、心筋梗塞(虚血性)や心筋症、心房細動などによる心拡大が原因となり、僧帽弁が引っ張られることで起こる僧帽弁閉鎖不全症です。
原因によって異なるものの、初期の僧帽弁閉鎖不全症は、基本的に無症状です。
血液の逆流が重度であっても、しばらくの期間は無症状のことがあります。進行して心臓が大きくなったり、心臓の動きが悪くなったりしてくることで、息切れや呼吸困難、むくみなどの心不全症状が出てきます。これはつまり、普通に座っているだけでも、走っているときと同じような状態になる可能性があるということです。
慢性の僧帽弁閉鎖不全症の場合は、左心室と左心房がゆるやかに拡大するため、しばらくは無症状のまま進行します。状態が進行すると、先に述べたような心不全症状や、心房細動などが現れることがあります。一方、急性の僧帽弁閉鎖不全症の場合には、急激に心臓に負担がかかるため、息切れや動悸、呼吸困難などの症状が出やすくなります。
若い方の場合は、通常の生活は問題なく送れているものの、坂道で息切れがしたり、動悸がしたりするということで受診され、超音波検査で診断がつくパターンがみられます。また、高齢の方の場合は、心房細動をきっかけに病院を受診されて発見に至るケースをはじめとして、さまざまなパターンがあります。
無症状の段階で発見される方の多くは、職場の健康診断などで心雑音の異常が見つかり、病院を受診して超音波検査をすることで僧帽弁閉鎖不全症と診断されます。
また、感染症が原因の場合は、原因不明の長期の発熱があり、風邪だと思っていたのになかなか治らないため病院を受診したところ、血液の逆流が発見されたというケースがあります。
僧帽弁閉鎖不全症は、症状がないことも多く、心臓の超音波検査を受けてみないと分からないことが多いとされます。
血液の逆流が軽度であれば、年に1回は超音波検査を受けることをおすすめします。無症状でも逆流が中等度以上の方は、半年に1回は超音波検査をしたほうがよいでしょう。
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帝京大学医学部附属病院 心臓血管外科 主任教授
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