独立行政法人国立病院機構七尾病院(以下、七尾病院)は、国立病院機構のひとつとして、結核診療、神経筋難病の診療、重症心身障がい児(者)の療養に取り組むとともに、慢性期医療を提供している病院です。
今回は、慢性疾患の診療や入院中の患者さんに対するケア、地域の方々に向けた取り組みなどについて、同院の名誉院長である藤村 政樹先生にお話を伺いました。
当院は1945年1月に日本医療団松百園として創設されました。現在の体制に移行したのは、2004年4月のことです。
国立病院機構は、国民の健康維持と日本の医療向上を目的とし、医療の提供に加えて臨床研究や教育研修を行う機関です。当院もその一員として、結核診療をはじめとした政策医療の提供を行っています。
病状が安定した患者さんに対し、再発や合併症の予防、体力の回復などを目指して行う継続的な治療を慢性期医療といいます。
当院には、急性期病棟はありません。当院が注力しているのは、重症心身障がいや神経難病に対する慢性期医療です。呼吸管理や嚥下は呼吸器科、栄養管理は消化器科など、各診療科が連携して、患者さん一人ひとりに適した医療の提供に努めています。
当院は、結核診療、神経筋難病の治療、重症心身障がい児(者)の療養を3本柱としています。それぞれの特徴をご説明します。
当院には、日本呼吸器学会認定呼吸器専門医が所属しています(2019年10月時点)。また、2019年4月に結核病床は40床(休床25床)となり、厚生労働省から第二種感染症指定医療機関の指定を受けています。公立能登総合病院と連携しつつ、能登中部医療圏における結核診療を担っています。
感染症は、予防することが大切な病気です。当院では、治療を行うだけでなく、石川県内の各地域を回って結核臨床研修会を開催しています。研修会では、「もしも結核の患者さんが受診されたら」といった具体的な場面を想定した、対応方法の基本を中心に解説しています。結核に関する啓発活動に、これからも力を入れていきたいと思います。
当院では、症状の進んだパーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、脳卒中の後遺症が残った方など、さまざまな慢性疾患を抱える患者さんに対するサポートを提供しています。“しびれ”、“物忘れ”などの症状にお悩みの方もお気軽にご相談ください。
また、神経難病や重症心身障がいは、症状や病気そのものに対する治療に加え、全身管理が重要です。呼吸不全や肺炎を起こさないよう呼吸器科が管理を徹底するとともに、栄養管理のために消化器内科やNST(栄養サポートチーム)も連携してケアを行っています。
当院が診療に注力している病気のひとつに、長引く咳のことである慢性咳嗽というものがあります。慢性咳嗽は、咳の苦しさは言うまでもなく、周囲の目が気になったり、静かな場所に行きづらかったりして、患者さんにとって大変つらい病気です。しかし、診断の難しい病気であることから、症状があるのに異常なしと判断されてしまう患者さんもいらっしゃいます。
当院では、臨床検査技師と連携しながら、十分に時間をかけて慢性咳嗽の診断を行います。適切な治療によって、患者さんのつらい症状を改善できるよう努めています。
当院の病院食には管理栄養士や調理師が携わって、栄養バランスのとれた食事を提供することはもちろん、石川県産の食材を使ったり、病室に握り寿司の出前をしたりと、食事を楽しんでいただけるようたくさんの工夫を凝らしています。長く入院している患者さんにとって、おいしい食事は何よりの楽しみだと思います。毎日の食事を少しでもおいしく、楽しんで食べていただければと思います。
当院は今後、てんかんや発達障害を持つ能登地域のお子さんを中心とした支援にも、力を入れていきたいと考えています。近年、発達障害と診断されるお子さんは特に増加傾向にあります。根本的な治療法が分かっていないことから、長期的なサポートが必要であり、当院が専門的な医療を提供することで地域に貢献したいと考えています。当院のスタッフも、発達障害の診療について研修を受けており、この分野のセンター化に向けた準備を進めています(2019年10月時点)。
当院は、結核診療、神経・筋疾患の治療、重症心身障がい児(者)の診療を中心に、リハビリテーションや、長期管理を必要とする病気の診療にも取り組んでいます。お悩みの症状がある方、何かお困りの症状をお持ちの方は、遠慮なくご相談ください。一人ひとりに合った診療を提供できるよう、尽力いたします。
また、当院は2019年5月に建て替えを終えたばかりです。無料の駐車スペースも、以前より広くなりました。大雨などの災害時の避難場所としても、利用が可能です。これまで以上に通いやすく、過ごしやすくなった当院に、ぜひお越しください。
若手の先生は特に、急性期病院でバリバリ働きたいと考えている方が多いと思います。適切な診断と治療の技術を身につけるためにも、厳しい現場で経験を積むことは大切です。
そうして実力と自信がついたころ、ぜひ能登に来てもらえたらありがたいと思います。当院は、慢性期医療を中心に行っているため、急性期病院と比べると、より落ち着いて仕事に取り組める環境といえます。一つひとつの診療に集中できるというメリットもあるため、丁寧な診療を大切にしたい方におすすめです。若い方には少し物足りないかもしれませんが、皆さんが充分に経験を積んだあとで、ゆっくり、落ち着いて仕事と向き合ってみませんか。