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甲状腺疾患における病理診断とは?

甲状腺疾患における病理診断とは?
廣川 満良 先生

医療法人神甲会隈病院 病理診断科 科長

廣川 満良 先生

目次
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治療方針を決定するために重要な役割を果たす病理診断。病理診断とは、患者さんの組織や細胞を顕微鏡で観察し、診断を行うことを指します。甲状腺に結節(けっせつ)(しこりのこと)が見つかったときには、手術を行うべきかどうかを決定するために細胞診(さいぼうしん)が行われます。

神戸にある甲状腺疾患を専門とする隈病院では、甲状腺の病理診断や細胞診に積極的に取り組んでいます。今回は、隈病院 病理診断科 廣川(ひろかわ ) 満良(みつよし)先生に、甲状腺疾患における病理診断の果たす役割についてお話しいただきました。

病理診断とは、患者さんの組織や細胞を顕微鏡で観察し、診断することを指します。当院では、甲状腺を専門とする病理専門医*によって行われています。病理診断には、病理組織診、穿刺吸引(せんしきゅういん)細胞診、術中迅速診断、病理解剖の4つの種類があります。

*病理専門医:日本病理学会が専門医として認める医師。以下、“病理専門医”とある場合はこれを指す。

病理組織診とは、切除した病変の組織、あるいは穿刺針で採取した組織を顕微鏡で観察して診断を行うことを指します。これにより確定診断が行われます。

穿刺吸引細胞診とは、超音波装置で確認しながら、病変を疑う部分に細い針を刺して細胞を採取し、それを観察して診断を行うことを指します。主に甲状腺の結節性病変の術前診断においては、この穿刺吸引細胞診は欠かせません。次のページで詳しくお話ししますが、私たち隈病院では細胞診の精度向上に積極的に取り組んでおり、充実した診療および教育体制を整備するよう努めています。

術中迅速診断とは、手術中に組織や細胞を採取し、病変の診断、腫瘍浸潤の有無などを即座に診断することを指します。術中迅速診断は、手術方針の決定に関わる重要な役割を担っています。

病理解剖とは、病気で亡くなられた患者さんのご遺体を解剖し、臓器、組織や細胞などを観察することで死因の解明や治療の適切性などについて検証することを指します。

上記でご説明した病理診断のうち、私たち隈病院では、病理解剖以外の病理組織診、穿刺吸引細胞診、術中迅速診断を行っています。当院で扱う症例は主に甲状腺疾患です。ここでは、甲状腺疾患における病理診断の役割についてお話しします。

病理検査室での標本作製の様子
病理検査室での標本作製の様子

病気の治療方針を決定するために、病理診断は大切な役割を果たします。それは甲状腺疾患も例外ではありません。病理診断によって病気が特定されれば、その後の治療方針を決定することができます。

また、甲状腺疾患において行われる細胞診の目的は、病気を推定し、手術を行う必要があるかを判断することです。細胞診の結果、結節が良性であることが分かれば、手術を行わなくてもよいケースもあります。私は、これが細胞診の重要な目的であると考えています。仮に細胞診を行わなければ全ての結節が手術によって切除されることになりかねません。不要な手術を避けることで、医療費の抑制にも貢献していると考えています。

甲状腺疾患の中でも、病理診断の対象となるものは、主に結節性病変です。術前の細胞診によって、結節が悪性か良性かを見極め、悪性であったり、悪性でなくても病変が大きかったりするような症例では、手術による切除を行い、病理診断が下されます。

反対に、病理診断を行わなくても診断が確定するような、甲状腺機能亢進症甲状腺機能低下症などの自己免疫疾患*に対して病理診断を行うことは少ないでしょう。また、自然と治癒していくような亜急性甲状腺炎などに対しても病理診断を行うケースは基本的にはありません。

*自己免疫疾患:異物を排除するためにはたらく免疫系が、正常な細胞や組織に反応してしまうことで引き起こされる病気の総称。

甲状腺の結節に対する病理診断では、まず穿刺吸引細胞診が行われます。ほかの分野のように生検は通常実施しません。具体的には、細い針を結節内に刺入し、細胞を採取します。穿刺吸引細胞診は、侵襲(しんしゅう)が少なく、短時間で行うことができるため、患者さんへの負担が少ないという特徴があります。

診断の程度は針生検と同じくらいですが、穿刺吸引細胞診であれば、合併症が起こる危険性も低くなります。

穿刺吸引細胞診における細胞採取の様子
穿刺吸引細胞診における細胞採取の様子

術中迅速診断は、手術の途中で行われる病理診断です。たとえば、腫瘍が浸潤している範囲を特定し、手術でどこまで切除すべきか判断するときに行うことがあります。腫瘍が気管まで及んでいれば、病変と共に気管も切除することになります。

また、甲状腺全体を切除する際には甲状腺の後ろにくっついている副甲状腺も切除することになります。しかし、副甲状腺を全て切除すると、副甲状腺機能低下症*が生じてしまいます。そのため、このような場合には、当院では副甲状腺と思われる組織を二つに分割します。分割した片方で術中迅速診断を行い、副甲状腺かどうかを確認します。診断の結果、副甲状腺であることが分かれば、もう片方を細かく切り筋肉の中に埋め込みます。すると、内部で副甲状腺が生き続け、副甲状腺機能低下症の防止につながることになります。

このように当院の術中迅速診断の主な目的は、腫瘍の浸潤範囲の判定と、術後の副甲状腺機能低下症の防止にあります。

*副甲状腺機能低下症:副甲状腺ホルモンの分泌の低下によって、血中のカルシウム濃度が低下し、手足の筋肉のけいれんなどが現れる病気の総称。

当院の病理診断のフローは以下の通りです。まず、外来で医師による診察を行った結果、結節があれば、細い針を刺して病変の細胞を採取する穿刺吸引細胞診を行い、病理専門医が顕微鏡で細胞を観察し、病変が悪性であるか、良性であるか、どちらか不明であるのか、判断します。

ただし、細胞診の結果のみで、すぐに手術を行うかどうかを決定するわけではありません。細胞診の結果を考慮しながら、病変の大きさや患者さんの状態などさまざまな要素から手術を行うかどうかを決定します。

たとえば、細胞診の結果、良性であれば通常、手術を行うことはありません。ただし、良性であっても病変が大きいなどの理由で気管を圧迫してしまう場合には、危険と判断し、手術を行うケースもあります。

逆に、悪性であってもすぐに手術せず、経過観察を行う場合があります。特に、当院では、低リスクの甲状腺微小乳頭がんに対して手術ではなく経過観察を推奨しているため、小さな甲状腺がんではすぐに手術を行わないケースもあります。

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