東京都立多摩総合医療センターは、東京都府中市武蔵台にある東京都管轄の総合病院です。専門性の高い高度急性期医療を提供するとともに、地域の医療を支える病院として幅広い病気に対応しています。今回は、東京都立多摩総合医療センターの院長である樫山 鉄矢先生に病院の特徴や院長としての思いを伺いました。
東京都立多摩総合医療センターは、病床数789床(一般病床705床、精神病床36床、結核病床48床)、診療科数は全36科を標榜する総合病院です(2023年11月時点)。
東京都多摩地域における高度急性期病院として、救急医療、がん医療、周産期医療、難病医療などの領域において高度な医療を提供しています。同時に、多摩地域全体の医療を担う病院として、幅広い病気に対応できる総合力を備えていることも当院の大きな特徴です。
また、当院には小児を対象とする“東京都立小児総合医療センター”、脳神経・筋疾患を専門とする“東京都立神経病院”、重症心身障がい児(者)への療育施設である“府中療育センター”が併設されており、各施設で連携を図りながら診療を行っています。
地域全体の医療の担い手として、救急医療にしっかりと対応していくことは当院の大きな役割です。当院では、併設する東京都立小児総合医療センターとともに“東京ER・多摩”を運営し、24時間365日体制で、病気やけがの種類、重症度などによらずに幅広い患者さんに対応しています。
救急医療の現場では常に予想のできないことが起こります。一見軽症のように見えても重症な患者さんだったり、病歴の聴取ができないが実はたくさんの併存疾患を抱えている患者さんだったりすることが多々あります。こうした複雑なケースに対しても迅速かつ適切な診療を行うために、けがも病気も、軽症も重症も問わず、救急医療を必要とするあらゆる患者さんを受け入れられるように努力しています。
最近は、重度の呼吸不全の患者さんに対して行うエクモ(ECMO:体外式模型人工肺)という治療設備を搭載した“エクモカー”を導入しました。呼吸状態が非常に悪い命の危機に瀕しているような患者さんに現場でエクモを装着できることで、より救命率を上げることができると考えています。
当院のある多摩地域には約400万人と多くの方が暮らしていますが、人口に対する病院や病床の数は十分とは言えません。地域の皆さんが病気の治療が必要となったときに困らないようにするためには、幅広い病気に対し高度な治療が提供できる総合力を維持することは当院の大きな使命だと考えています。
これには先述した救急医療はもちろん、がん医療や周産期医療、難病医療などさまざまな医療を提供できる体制を整えておくことが重要です。がん医療においては、新しい治療も提供できるように医療機器をアップデートしたり、施設面での設備を整えたりしています。周産期医療ではハイリスクとされる分娩にも対応できる体制があり、帝王切開の症例数も多いです。また、併設する東京都立神経病院と協力しながら難病医療にも力を入れています。特にリウマチ科は大きな強みであり、リウマチ内科とリウマチ外科が連携しながら重症例にも対応しています。
総合的な医療機能を維持していくために、教育に力を注ぐことは非常に重要だと考えています。初期・後期研修医に対しては広く門戸を開き、当院で学びたいという意欲のある若手医師の積極的な受け入れを行っております。そして、特定の病気に対する専門的な診療を行う医師も、患者さんの全身を診る総合診療を行う医師も育成できるような教育体制をとっています。若手医師に学びの場を提供することで、医師も病院もお互いに切磋琢磨しながら成長していくのだと考えています。
また、当院は臨床研究や教育研修の充実を図る目的で、“臨床研究・教育研修センター”を設置しています。当センターは、臨床に関するデータの管理や研究の支援などを行う“臨床研究部”と当院で働く全職員に対する教育を行う“教育研修部”の2部門から構成されています。
当センターの特徴は、専任の医師事務作業補助を配置し、臨床・研究データの入力を行っていることです。医師事務作業補助への教育をしっかりと行い、医師事務作業補助が複雑なデータを正確に入力できる体制を整えることで、医療従事者の負担軽減につながっていると考えます。
冒頭でお話ししたとおり、当院に併設する3つの病院や施設を合わせると、およそ1,900床にもなる大きな病院群となります。これは、たとえるならば巨大なタンカーといえるでしょう。ですから院長の1人である私には、この大きな船が間違った方向に進まないように、バランスを取りながら舵を取っていく責務があると考えています。これは私1人の力ではできませんので、当院に関わるさまざまな方々と協力しながら病院を進むべき方向に進め、強い組織を作っていきたいと考えています。これからも多摩地域に暮らす方々が必要なときに必要な医療が受けられるよう、高い専門医療を提供しながら、幅広い病気・けがに対応できるよう尽力していきます。
樫山 鉄矢 先生の所属医療機関