遺伝子の異常によって生じる結節性硬化症は、全身に症状が現れるため、診断の際にはさまざまな検査が行われます。また年齢によって現れやすい症状・合併症が異なるため、診断後は定期的に診療を受け、健康管理をすることが大切です。
今回は、埼玉県立小児医療センター 神経科 科長の菊池 健二郎先生に結節性硬化症の原因や具体的な検査内容、診断後の流れなどについてお話を伺いました。
結節性硬化症は遺伝子の異常によって生じます。原因遺伝子はTSC1遺伝子・TSC2遺伝子の2つで、これら2つの遺伝子のうちのいずれか、あるいは両方に異常がある場合に発病します。私たちの体には、細胞が成長したり増えたりするときに関わるmTOR(エムトール)と呼ばれる物質があります。TSC1遺伝子・TSC2遺伝子は、このmTORのはたらきを調整しているのですが、これらの遺伝子に異常が起こるとmTORのはたらきを抑えることができなくなります。それにより細胞が増えやすくなり、体のいたる所に良性の腫瘍の“過誤腫”が生じます。
以下では、TSC1遺伝子・TSC2遺伝子のはたらきと細胞が増えてしまう理由についてご説明します。
TSC1遺伝子・TSC2遺伝子には、それぞれ体に必要なタンパク質の設計図が書き込まれています。この設計図から作られるタンパク質は、mTORと呼ばれるタンパク質にはたらきかけ、細胞の増殖を調整します。mTORは細胞や血管などを作るはたらきを持つタンパク質で、放っておくとどんどん細胞を分裂させてしまいます。しかし通常、私たちの体はTSC1遺伝子・TSC2遺伝子の設計図から作られるタンパク質のはたらきによって、mTORをうまくコントロールし、必要な分だけ新しい細胞を作ることができます。しかし、TSC1遺伝子・TSC2遺伝子に異常が生じると、正常なタンパク質が作られなくなることでmTORのはたらきが加速してしまい、細胞が増えすぎてしまいます。
TSC1遺伝子・TSC2遺伝子の異常は、遺伝による場合と遺伝子の突然変異による場合があります。
両親がTSC1遺伝子・TSC2遺伝子の異常を持っている場合、それが遺伝することによって子どももTSC1遺伝子・TSC2遺伝子の異常を持ち、結節性硬化症を発病することがあります。
遺伝子は細胞の核内にある染色体の中に入っています。染色体は2本セットで23対あることが一般的で、22対の常染色体と1対の性染色体に分けられます。このうちTSC1遺伝子は常染色体の9番染色体に、TSC2遺伝子は16番染色体に存在することが分かっています。両親のいずれかから異常遺伝子をもらっただけでも発症してしまうことがあるため、結節性硬化症は“常染色体顕性(優性)遺伝”という形式で遺伝するといえます。ただし、両親からの遺伝によって結節性硬化症を発病する確率は半数以下と考えられています。
一方、両親がTSC1遺伝子・TSC2遺伝子の異常を持っていない場合でも、何らかのきっかけで子どものTSC1遺伝子・TSC2遺伝子に異常が生じ、結節性硬化症を発病するケースがあります。このように遺伝子の突然変異によって生じる場合を“孤発例”といいます。孤発例では、父親の精子、母親の卵子のいずれかに突然変異が生じる場合や、受精卵に突然変異が生じる場合があります。
結節性硬化症を診断するうえで行われる検査は、実際に現れている症状によって異なります。結節性硬化症は年齢によって症状が移り変わるという特徴があるため、実際には患者さんの年齢などによっても検査内容が異なります。
以下では、小児科で行われることの多い結節性硬化症の主な検査内容についてご紹介します。
MRI検査は磁気、CT検査はX線を使って体の断面を撮影する検査です。上衣下巨細胞性星細胞腫(SEGA)など、脳の過誤腫の有無・状態などを確認する目的で行われます。
エコー検査は超音波検査とも呼ばれ、体の外から超音波を当て、その跳ね返りを利用して内部の様子を見る検査です。
腎臓のエコー検査は、腎臓に生じる過誤腫である血管筋脂肪腫(AML)などの有無・状態を確認する目的で行われます。心臓のエコー検査は、心臓に生じる横紋筋腫と呼ばれる過誤腫の有無や状態を確認する目的で行われます。
眼底検査とは、目の奥にある網膜の血管を見る検査です。網膜に過誤腫がないかどうかを確認する目的で行います。
結節性硬化症の典型的な症状の1つに白斑があります。白斑とは体に生じる白いあざで、膝や太もも、お腹などに生じることがあります。白斑は出生時から生じていることが多く、病気の発見に役立つこともあります。
結節性硬化症では、確定診断のために遺伝子検査を提案することがあります。遺伝子検査では、病気の原因となるTSC1遺伝子・TSC2遺伝子の異常があるかを確認します。遺伝子検査を実施できる医療機関は限られますが、埼玉県立小児医療センターでも実施しています。
遺伝子検査と聞くと、両親のどちらが原因であるという“遺伝”ということに関心が向いてしまいがちです。この検査の目的は、確定診断がつけばその後の人生における健康管理を行うことにあります。もちろん、検査により想定外に知らなくてよいことを知ることにもなり得ますので、検査を行うためには親御さんへの説明と同意が必要であり、私たちから強制することはありません。また、親御さんの意思を尊重しますし、検査を受ける・受けないによって私たち医師の対応や治療が変わることは決してありません。
遺伝子検査については、以下に述べるようなメリット・デメリットを理解いただき、検査を受けるかどうかを一緒に考えていただいています。当院では、遺伝子検査の実施にあたって、遺伝カウンセリングなども行う“遺伝科”の先生方のご協力をいただいています。
遺伝子検査のメリットは遺伝子変異そのものを確認できるため、結節性硬化症の診断に役立ち、その後の健康管理に役立てられることです。前述のとおり、結節性硬化症は年齢によって現れる症状が異なり、現れる症状に個人差があるため、症状だけでは診断が困難な場合があります。このような場合に遺伝子検査を行えると確定診断につながり、病気の特徴に応じて経過観察を行って今後生じ得る症状や合併症について予防的に対策を立てることができます。ただし、一部の方では遺伝子検査をしても確定診断に結びつかないこともあります。
一方、遺伝子検査のデメリットとしては、遺伝による結節性硬化症であった場合に、両親のどちらが原因遺伝子を持っているか分かってしまう可能性があるということが挙げられます。両親のいずれかにTSC1遺伝子・TSC2遺伝子の異常があった場合、今後生まれてくる子どもにも遺伝する確率があるため、次の子どもを考えている場合には遺伝カウンセリングを行うことも検討します。
結節性硬化症は症状と遺伝子検査から診断されます。遺伝子検査で原因遺伝子に異常が見つかった場合、確定診断となります。一方、遺伝子検査で原因遺伝子に異常が見つからない、または遺伝子検査を受けなくても、症状が診断基準に合致すれば臨床的に結節性硬化症と診断されます。症状から診断する場合は診断基準が定められており、それに準じて診断が行われます。診断基準には、顔に生じる血管線維腫、脳に生じる上衣下巨細胞性星細胞腫(SEGA)などの大症状、歯のエナメル質に生じる小さな穴、体に生じる白斑などの小症状があり、大症状2つ、あるいは大症状1つと小症状2つが認められた場合に診断されます。その時点の症状で診断がつかなかった場合、定期的に検査を行いながら経過観察を続けます。
前述のとおり、結節性硬化症は年齢に応じて現れやすい症状や合併症が異なります。そのため、診断後は定期的に専門病院を受診、経過観察を続けることが大切です。受診の頻度は患者さんの症状や年齢によっても異なります。たとえば、小児の間は脳に生じる上衣下巨細胞性星細胞腫(SEGA)が水頭症などの重篤な合併症につながることもあるため、当院では半年から1年に一度頭部MRI検査を行っています。また、思春期以降の患者さんによくみられる腎臓に生じる腎血管筋脂肪腫(AML)は、急激に大きくなると破裂する恐れがあるため、年に1回程度腹部エコー検査を行って状態を観察します。大きくなった様子があれば、さらに頻度を高めることもあります。近年は病気の傾向が徐々に明らかになってきたことや、適切な治療が受けられるようになってきたことから、定期的に医療機関を受診していれば、結節性硬化症の症状や合併症で命を落とす患者さんは随分減ってきていると感じます。
埼玉県立小児医療センター 神経科 科長
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