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先天性甲状腺機能低下症はどうやって分かるの? 診断のきっかけや検査内容について

先天性甲状腺機能低下症はどうやって分かるの? 診断のきっかけや検査内容について
河野 智敬 先生

埼玉県立小児医療センター 代謝内分泌科 医長

河野 智敬 先生

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先天性甲状腺機能低下症とは、子どもの成長に欠かすことのできない甲状腺ホルモンが生まれつき足りていない病気です。甲状腺ホルモンの不足が続くと、体の成長や知的な発達に影響をもたらすため、迅速な診断・治療が大切です。今回は、埼玉県立小児医療センター 代謝内分泌科の医長でいらっしゃる河野 智敬(こうの ともたか)先生に先天性甲状腺機能低下症の診断・検査について伺いました。

先天性甲状腺機能低下症は、見た目に明らかな症状を認めないことも多い病気です。そのため、生後すぐに行われる“新生児マススクリーニング検査”が診断のきっかけになることがほとんどです。

新生児マススクリーニング検査とは、赤ちゃんの先天代謝異常症や内分泌疾患を早期発見し、その病気によって起こりうる障害を予防するために実施されています。各自治体が主体となって行われている事業であり、約20種類の病気が精査対象となっています。検査は、生後4〜6日頃に赤ちゃんの(かかと)からの少量の採血をすることで行います。

埼玉県では、産婦人科にて専用のろ紙に血液を採取していただき、ろ紙検体がマススクリーニング検査室に到着した後、2~5日で検査結果が出る体制になっています。異常値が出た場合には、医師が報告を受けた後、精密検査にすべきか再検査にすべきかなどを判断し、必要であれば速やかに各精査医療機関を受診いただけるようにしています。

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提供:PIXTA

新生児マススクリーニング検査で、“甲状腺刺激ホルモン(以下、TSH)”の数値が基準値よりも高い場合には先天性甲状腺機能低下症を疑います。

TSHは、脳にある下垂体(かすいたい)という場所から分泌されており、甲状腺ホルモンの分泌を促す作用があります。そのため、体内の甲状腺ホルモンが不足すると、「甲状腺ホルモンが足りない」という指令を脳が受け取り、TSHをたくさん分泌するようになります。これが先天性甲状腺機能低下症でTSHの数値が上昇する理由です。

 

しかし、なかにはTSHが上昇しない先天性甲状腺機能低下症もあります。これは、下垂体や下垂体を司る視床下部の異常によって、甲状腺ホルモンの分泌を促すTSHが出ないために、甲状腺ホルモンが不足してしまう先天性中枢性甲状腺機能低下症です。

こうした脳の問題による先天性甲状腺機能低下症を発見するのに有用なのが、甲状腺ホルモン分泌の指標であるFT4(フリーティーフォー)です。新生児マススクリーニング検査における先天性甲状腺機能低下症の検査項目はTSHだけの自治体も多いのですが、こうした症例を見逃さないためにFT4の同時測定を行っている自治体もあります。当センターのある埼玉県やさいたま市でもTSHとFT4の同時測定を実施しています。

新生児マススクリーニング検査で陽性と判定されたら、早めに受診いただき、詳しい検査を受けていただく必要があります。甲状腺ホルモンの不足した状態が続いてしまうと、成長発育や知能発達に影響を及ぼす恐れがあるためです。

必要と考えられる診療内容としては、詳細な診察・問診、血液検査、甲状腺超音波検査、膝のX線検査などがあります。

各種検査の前に、まずは医師による症状の確認や問診を行います。

先天性甲状腺機能低下症の中には、お母さんの甲状腺疾患や、妊娠中の母体ヨード(ヨウ素)過剰が原因で発症するものもあります。問診時には、こういった原因がなかったかどうかを詳しく聴取することが重要です。具体的には以下のような内容について確認します。

  • 母親に甲状腺の病気はないか
  • 妊娠中にヨード(ヨウ素)を多く含む食品(昆布、わかめ、ひじき、海苔など)の過剰摂取はなかったか
  • 妊娠中にヨード含有消毒剤の使用習慣(うがい薬やのどスプレー)はなかったか
  • ヨード造影剤を使った子宮卵管造影の既往(不妊治療の既往)はあるか

など

子宮卵管造影:造影剤を腹腔内に注入しX線で撮影することで、子宮内の異常や卵管の通過性などを調べる検査。

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精密検査における血液検査は血清(けっせい)を用いて行います。新生児マススクリーニングはあくまでスクリーニング検査ですので、血清を用いることで、より詳しく正確に甲状腺ホルモンの分泌状況を調べることができます。

血清:血液を遠心分離させて、血球(赤血球や白血球など)の有形成分を取り除いたもの。

超音波検査(エコー検査)では、甲状腺の様子を確認します。ただし、生まれたばかりの小さな赤ちゃんに対する超音波検査は容易ではありませんので、実施するかどうかは症例に応じて検討しています。的確な診断のためには熟練した技術が求められますが、当センターでは赤ちゃんの超音波検査に慣れた放射線科の医師が実施するようにしています。

両膝のX線検査も大切な検査です。生まれつき甲状腺ホルモンが不足していると、膝にある大腿骨遠位端骨核(だいたいこつえんいたんこっかく)と呼ばれる骨の形成不全が起きていることがあるためです。また、重症なお子さんの場合、そもそも大腿骨遠位端骨核自体が形成されていないこともあるため、重症度の評価においても有用な検査となります。

赤ちゃんによっては、新生児マススクリーニング検査でTSH高値を指摘されて受診したものの、詳しい検査をしても何も異常が見つからないことがあります。

生まれたばかりの赤ちゃんは、急激な温度変化などのストレスによって、生後1〜2日はTSHが高い状態が続きます。そして、新生児マススクリーニング検査を受ける生後4日目には正常な数値に戻ることがほとんどですが、なかにはTSHが下がりきっていないことなどもあるのです。こうしたケースでは特に異常はなくても、新生児マススクリーニング検査で陽性と判定されることがあります。

反対に、TSHの上昇が遅れて出てくるような症例では、先天性甲状腺機能低下症であるにもかかわらず、新生児マススクリーニングで“異常なし”と判定されてしまうことがあります。

先天性甲状腺機能低下症は、初期には目立った症状が出ない症例も多く、明らかな臨床症状や成長・発達障害がみられなければ、後から診断するのはなかなか困難です。

新生児マススクリーニング後に診断できた事例として、お子さんのきょうだいが先天性甲状腺機能低下症と診断されたことから、心配されたご両親が家族検査を希望され、詳しく調べた結果、先天性甲状腺機能低下症が判明したケースもあります。

生まれたばかりの赤ちゃんに何か病気があるかもしれないと考えると、とても大きな不安に苛まれることかと思います。医師の話をすぐに理解し受け入れることは、なかなか難しいでしょう。私は、そのような不安な気持ちを少しでも軽減するために、お子さんが今どういった状態で、なぜ詳しい検査が必要なのかということを、普段から丁寧に説明することを心がけるようにしています。

精密検査の結果、もしお子さんが先天性甲状腺機能低下症であったとしても、薬の服用を忘れずにきちんと続けることさえできれば、ほかのお子さんと何ら変わることなく成長していくことができます。ですから過度に不安になることはなく、お子さんにしっかり寄り添っていただければと思います。

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