インタビュー

神経線維腫症1型(レックリングハウゼン病、NF1)とは? 子どもの症状や新しい治療選択肢について

神経線維腫症1型(レックリングハウゼン病、NF1)とは? 子どもの症状や新しい治療選択肢について
松尾 宗明 先生

佐賀大学医学部小児科 教授

松尾 宗明 先生

目次
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皮膚に茶色のアザや、ぶつぶつとしたできものが現れたり、目や骨などにも影響が生じたりする神経線維腫症1型(レックリングハウゼン病、NF1:Neurofibromatosis type 1)。赤ちゃんのときなどからみられる皮膚症状にご家族が気付いて、受診や相談をすることにより発見される場合もあります。本記事では、診断の手がかりとなる特徴的な症状、治療方法、病気との付き合い方などについて、佐賀大学医学部 小児科教授の松尾 宗明(まつお むねあき)先生に伺いました。

神経線維腫症1型は、カフェ・オ・レ斑と呼ばれるミルクコーヒー色のシミのような色素斑や、神経線維腫という腫瘍(しゅよう)ができることが特徴的な病気です。出生約3,000人に1人の割合で発生し、日本では約4万人の患者さんがいると推定されています。

名前が似ている病気に神経線維腫症2型というものもありますが、1型とは発症の原因や症状が異なる別の病気です。一般的に“神経線維腫症”とは神経線維腫症1型を指すと考えていただいてよいでしょう。

神経線維腫症1型は、NF1という遺伝子の変化が原因で発症すると考えられています。NF1遺伝子は、細胞の増殖を抑制するはたらきを持つ“ニューロフィブロミン”というタンパク質を作り出す遺伝子であり、ニューロフィブロミンは私たちの体の細胞の増殖の調整に重要な役割を担っています。しかし、神経線維腫症1型の患者さんではNF1遺伝子に生まれつきの変異があるため正常なニューロフィブロミンが作られず、細胞の増殖を抑制することが難しくなります。それによって、神経線維腫と呼ばれる腫瘍が生じやすくなるなど、さまざまな症状が現れます。

また、ニューロフィブロミンは脳のはたらきにも関係がある物質です。そのため、脳と脊髄からなる中枢神経に影響を及ぼし、発達障害などの中枢神経症状を合併することがあります。さらに、ニューロフィブロミンは骨の形成にも関わっていることから、生まれつきの骨の異常などが引き起こされることがあります。

神経線維腫症1型は遺伝性の病気です。常染色体顕性(優性)遺伝という形式で、両親のどちらかにこの病気がある場合は50%の確率で子どもに遺伝します。

ヒトの正常な細胞には、遺伝子を含む物質である染色体*が2本ずつ入っており、原因となるNF1遺伝子は17番染色体にあります。2本の17番染色体のうち片方だけに遺伝子の変化がある場合でも、神経線維腫1型を発症します。

また、遺伝により発症する病気であるものの、患者さんの半数以上は両親ともにこの病気がないにもかかわらず、お子さんの遺伝子に変化が生じたために発症しています。

*染色体:生物の細胞の中にある遺伝情報が詰まった紐状の構造物。人間の細胞には通常23対46本の染色体があり、23本は父親から、23本は母親から受け継がれる。

皮膚の症状

神経線維腫症1型の特徴的な症状で診断の大きな手がかりとなるものは、皮膚にできるカフェ・オ・レ斑です。この病気がない方でも1~2個できる場合もありますが、神経線維腫症1型の方には6個以上みられます。

ほかにも、褐色の大きな色素斑ができることもあれば、雀卵斑様色素斑(じゃくらんはんようしきそはん)と呼ばれる小さなそばかすのような色素斑が、(わき)の下や股の辺り、鼠径部(そけいぶ)などにみられることもあります。これらは初期症状として現れることが多く、小児期の症状は皮膚症状だけという場合もあります。

先方提供
カフェ・オ・レ斑

骨の症状

皮膚症状ほど多くありませんが、骨の異常が生じることがあります。中でも頻度が高いものとしては、背骨が左右に曲がる側弯症(そくわんしょう)が挙げられます。また、生まれつき足の骨が折れ曲がっていたり、頭蓋骨(ずがいこつ)の一部が欠損したりしているケースもあります。

中枢神経の症状

中枢神経の病変としては、目の神経経路に腫瘍ができる視神経膠腫(ししんけいこうしゅ)が小児期にみられやすいといわれています。視神経膠腫は多くの場合で無症状ですが、視力の低下などの症状をきたすこともあります。視力低下に関しては子どもがうまく伝えられず発見が遅れることもあるので、定期的な眼科受診が必要です。

自閉スペクトラム症ASD*や注意欠如・多動症(ADHD**学習障害(LD)***などの発達障害を合併している患者さんも高い頻度でみられます。

そのほか、頻度は10%前後ですが、てんかんを合併する方もいます。さらに、一般の方よりも、もやもや病という頭の血管の病気を起こしやすいといわれています。また、片頭痛(へんずつう)が起こりやすく、頭痛持ちだという患者さんは多いです。

*自閉スペクトラム症(ASD):言語やコミュニケーションの障害が認められることが多く、限定的な興味・関心において強いこだわりがあるなどの特徴を持つ。

**注意欠如・多動症(ADHD):不注意であることや、じっとしていられない、静かに遊べないといった多動・衝動性を主な特徴とする。

***学習障害(LD):読み書きや計算など特定の分野を苦手とし、学習上の困難を有す。

腫瘍性の病変

首の辺りや体幹(体の中心部分)の皮下に、神経線維腫の1つである叢状神経線維腫(そうじょうしんけいせんいしゅ)が生じ、小児期に見つかることがよくあります。叢状神経線維腫は、発生する場所によって次のような症状を引き起こし、生活に支障をきたすことがあります。

  • 目の近く:まぶたが開けにくくなる
  • 目の奥:目が突出する
  • 首:物が飲み込みづらい、気管を圧迫して呼吸が難しくなる
  • 足の骨の近く:左右の足の長さに差が出る
  • 背骨の近く:側弯症が生じる
  • 脊髄(せきずい)の近く:脊髄を圧迫して痛みや麻痺が起こる
  • 皮膚の近く:痛みが生じる

など

思春期から大人にかけて、叢状神経線維腫などの腫瘍性の病変が増えてくる傾向があります。腫瘍性の病変はだんだん大きくなって、小児期にはあまり目立たなかったものが、思春期を過ぎてから変形して目立つようになることもあります。

また、叢状神経線維腫の一部が悪性化した悪性末梢神経鞘腫瘍(あくせいまっしょうしんけいしょうしゅよう)が生じることがあります。悪性末梢神経鞘腫瘍は、神経線維腫症1型の合併症としては重症で命に関わる場合もあります。悪性化する頻度は神経線維腫症1型の患者さんの2%とされています。

脳に腫瘍ができることもありますが、基本的には良性腫瘍でゆっくり大きくなるため、経過観察だけで済むケースも多いです。皮膚の神経線維腫という褐色の盛り上がったような病変が複数出てくる方もいますが、症状がまったく出ない方から重症の方まで程度には個人差があります。

そのほか、一般的な腫瘍も神経線維腫症1型ではない方と比べてできやすく、特に女性は4~5倍乳がんになりやすいといわれており注意が必要です。

叢状神経線維腫は、悪性化する危険性があるため注意が必要な症状ですが、症状の現れ方や程度は個人差が大きく、過度に心配する必要はありません。ただし、叢状神経線維腫は皮膚表面の大きな褐色斑の下にできることが多いといわれています。そのため、大きな褐色斑がある方は、その下の皮膚が盛り上がってこないか、体に変形が起こっていないかという点を確認しつつ、気になる症状があるときは病院で医師に診てもらいましょう。

神経線維腫症1型は、症状と診断基準を照らし合わせて診断することが基本です。以下の7項目中2つ以上の症状に当てはまる場合、神経線維腫症1型と診断されます(日本皮膚科学会『神経線維腫症1型(レックリングハウゼン病)の診断基準 2018』より)。家系内に同じ病気の患者さんがいる場合、1~6の症状に1つでも当てはまれば診断できます。

一方、小児期には一部の皮膚症状しか現れないことも少なくありません。ご家族が「子どものシミが多くて心配している」といった理由で受診されることは多いですが、家系内に患者さんがいなければ診断が難しい場合があり、そのほかの症状が現れるまで経過観察となることもあります。

  1. 6個以上のカフェ・オ・レ斑
  2. 2個以上の神経線維腫(皮膚の神経線維腫や神経の神経線維腫など)または、びまん性神経線維腫*
  3. 腋の下(腋窩(えきか))あるいは太ももの付け根(鼠径部)の雀卵斑様色素斑
  4. 視神経膠腫
  5. 2個以上の虹彩小結節(こうせいしょうけっせつ)**
  6. 特徴的な骨病変の存在(脊柱(せきちゅう)や胸郭の変形、手足の骨の変形、頭蓋骨や顔面骨の骨欠損)
  7. 家系内(両親などの第一度近親者)に神経線維腫症1型の方がいる

*びまん性神経線維腫:1か所でなく広範囲にわたり広がる神経線維腫。神経の神経線維腫や、びまん性神経線維腫を含めて叢状神経線維腫と呼ぶ。

**虹彩小結節:虹彩(目の黒い部分)に小さな粒のようなものが現れる。視力にはほとんど影響せず、通常は治療を必要としない。

MRI検査や遺伝子検査をすることもあります。ただし、必ずしもそれだけで神経線維腫症1型と診断ができるわけではなく、あくまでも診断における参考材料となります。

神経線維腫症1型の患者さんの中には、体の一部の組織にだけ遺伝子の変異がある“モザイク”という状態の方がいます。モザイクの方では、たとえば体の片側だけにカフェ・オ・レ斑があるといった症状の現れ方をしたり、症状がまったく現れなかったりすることもあります。また、神経線維腫症1型が疑われる方の一部は、カフェ・オ・レ斑のみが症状として出てくる別の病気の可能性があります。こうした患者さんについては、遺伝子検査などを行って見分けられることもあります。

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提供:PIXTA

神経線維腫症1型の症状に対しては、必要に応じて経過観察や外科的治療が検討されます。ここでは、患者さんやご家族からご相談をいただくことが多いカフェ・オ・レ斑と、生活上の問題となりやすい叢状神経線維腫の治療について説明します。

カフェ・オ・レ斑を改善する方法としては、レーザー治療や、ファンデーションの使用が選択肢として挙げられます。ただ私としては、レーザー治療はあまりおすすめしていません。一部を薄くすることができても、正常の皮膚のようにはなりにくく、かえってまだらになってしまうこともあるためです。そのため、私はファンデーションで目立たないようにする対応がよいと考えています。

叢状神経線維腫の治療は、従来は経過観察と外科的治療の2つの選択肢に限られていました。しかし近年、細胞の増殖を抑制する作用を持つ新しい薬“セルメチニブ”が登場したことで、3歳から18歳の子どもに関しては内服薬という選択肢が増えました。ただしセルメチニブには、叢状神経線維腫を外科的に切除することが困難な場合に用いるといった制限や、継続して服薬を行う必要があるなかで副作用などの注意点もあります。治療法を選択する際には、メリットとデメリットについて医師から十分に説明を受けたうえで、治療方針についてよく相談することをおすすめします。

内服薬のデメリットや注意点は?

セルメチニブの副作用としては、吐き気や下痢が起こることがあります。そのほか、とてもまれですが、重篤な副作用として心臓の収縮力の低下も報告されています。治療の際は心臓のエコーの検査を受けるなど、副作用に注意をしながら使用することが大切です。

また、セルメチニブは病気の根本的な原因である遺伝子の変化を治すものではないので、服用を中止するとまた腫瘍が大きくなる可能性があります。そのため、たとえばある程度腫瘍が小さくなったら服用を止めて経過観察をし、腫瘍が大きくなる場合は服用を再開するなど、投与は慎重に行います。

そのほかの注意点として、今のところ内服薬の剤形にはカプセルしかありません。セルメチニブのカプセルは開けたり割ったりして服用することができないため、お子さんがカプセルの薬をどうしても飲めないといった場合は内服治療を行いません。

外科的治療のデメリットや注意点は?

叢状神経線維腫の治療においては、可能であれば腫瘍が大きくなる前に外科的治療を検討します。ただし、正常な箇所との境界が不明瞭なため完全な切除は困難なことが多く、切除後に再び増殖してきたり、重要な神経が集まる部分にできていたりすると切除が難しくなることや、切除すると神経症状が出てしまう可能性があることなど、いくつかのリスクがあります。さらに、大きな腫瘍に対して外科的治療を行うと、出血量が多くなる傾向にあります。こうしたリスクやデメリットをあらかじめ医師に確認して理解しておく必要があります。

また、症状が出てから治療をするのが基本となりますが、腫瘍が発生した部位や状態によっては例外もあります。たとえば、腫瘍が脊髄の近くにあり圧迫症状が生じてきたときには、神経損傷のリスクがあっても外科的治療以外の選択肢がなくなります。このように、腫瘍の部位によっては症状が出てくるのを待たずに内服治療を始めたほうがよいケースもあります。

なお、悪性化して悪性末梢神経鞘腫瘍となった場合には、できるだけ早めに外科的治療を行えるよう、異常を感じたら早めに受診していただくのがよいと思います。

神経線維腫症1型では、治療の時期や方法を的確に判断するために、小児科、皮膚科、外科的治療を実際に行う診療科などの複数の医師と相談したうえで治療方針を決定できるとよいでしょう。例として、治療法で悩まれていた患者さんのケースを紹介します。

目の周りの叢状神経線維腫の治療選択

まぶたのあたりに叢状神経線維腫があり、外科的治療で腫瘍の減量をしたものの、まぶたが少し垂れた感じになっている患者さんがいました。腫瘍がさらに大きくなるようであれば投薬したほうがよいかと検討していましたが、数年後のMRI検査の結果でも、腫瘍の大きさはほとんど変わっていませんでした。そのため、患者さんと相談し、薬による副作用のデメリットなどを踏まえて、経過観察を続けることになりました。

足の神経線維腫の治療選択

足に神経線維腫があり、触れると痛むような状況の患者さんがいました。腫瘍は広範囲にあり、外科的治療で全て切除することは難しいと考えられました。そのため、出血が多くなるリスクも考慮したうえで、セルメチニブによる内服治療を行うことになりました。

セルメチニブに関して「叢状神経線維腫以外の症状には効果がないのですか」という質問を患者さんやご家族からいただくことがあります。薬についてはまだ分からないことが多いのですが、現在開発中の治療薬も含めて、薬の作用から叢状神経線維腫だけでなく神経線維腫などの症状にも適応する可能性があるのではないかと期待されており、現在も研究が進められています。ただ、薬の効果が認められたとしても、治療法を検討する際にはその効果と副作用を照らし合わせて考える必要があるでしょう。

また今後、神経線維腫症1型を専門に診療している医師としては、叢状神経線維腫の治療を始めた患者さんの症状の経過を追えるように、登録制度を作りたいと思っています。症例を蓄積することで、治療によるほかの部位や症状への影響がないか調べることができたり、副作用が現れたときにもより迅速に対処できる可能性が高まったりすると考えられるためです。個人情報の管理などの課題もありますが、患者さんにとって有用な情報をどのように収集して活用していくべきかを検討していけたらと思います。

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神経線維腫症1型には多様な症状があります。治療するにあたり、心配事があれば、どんなことでも医師に聞くことが大事です。インターネットなども上手に活用しながら、神経線維腫症1型を専門に診療している医師をはじめ、できれば複数の医師の意見を聞き、治療方法などを判断するのがよいと思います。

また、先に述べたように、小児期では発達障害を合併している患者さんが多く見受けられます。集団生活や学習面で困り事を抱えることがあるため、小学校や中学校に入学する前のタイミングで検査を受けて、苦手分野などを把握しておくとよいでしょう。ただ、必ずしも発達障害の診断をつけなくても構いません。本人の特性をしっかり理解したうえで、適切にサポートできる環境を整えていくことが大事だと考えています。

神経線維腫症1型を発症したら、定期的な通院が必要になります。合併している症状にもよりますが、子どもは半年に1回、大人は1年に1回ほどのペースで診察を受けている方が多いです。

また、自分の体を守るために、年に1回でもよいので定期健診を受ける習慣を作ることが大切です。小児期はご家族が付き添うことも多いかと思いますが、大人になると自分で判断し、ケアをする必要があります。私たち小児科医は、その移行期の患者さんが自発的に健診を受けられるように支えることも大事にしています。

インターネット上で病気についての情報を集めているうちに不安を感じられる患者さんも多いと思いますが、必要以上に心配しなくてよいということをお伝えしたいです。新しい治療法も出てきていますので、希望を持って治療に臨んでいただければと思います。もし不安があれば、担当の医師にしっかり相談するとよいでしょう。また、定期的な通院や健診を継続していただくことも大切です。

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