院長インタビュー

医学、歯学、理工学の相乗効果でイノベーションを起こす 東京科学大学病院

医学、歯学、理工学の相乗効果でイノベーションを起こす 東京科学大学病院
メディカルノート編集部  [取材]

メディカルノート編集部 [取材]

目次
項目をクリックすると該当箇所へジャンプします。

東京都文京区にある東京科学大学病院は、医科と歯科を融合した包括的なヘルスケアで地域医療を担う総合病院です。2024年10月には東京工業大学と統合して東京医科歯科大学病院から“東京科学大学病院”へとリニューアルし、医学、歯学に加え理工学との相乗効果でさらなるイノベーションに取り組む同院の地域での役割や今後ついて、病院長である藤井 靖久(ふじい やすひさ)先生に伺いました。

当院は、世界最高水準のトータル・ヘルスケアを提供するため、2021年に東京医科歯科大学医学部附属病院と歯学部附属病院の⼀体化により誕生しました。医療、教育、研究、社会貢献からなる4つの価値観を軸に、患者さん中心の全人的医療を提供しています。また、人間性豊かな医療人の育成や高度な先進医療にも取り組み、地域の皆さんから信頼される病院を目指しています。

東京都文京区では、本学を含めた4つの大学病院やがん・感染症センターの都立駒込病院などが集まっており、ほかの地区と比べて医療インフラが充実しています。近年ではコロナ禍において、医療の地域ネットワークがしっかり機能していたように思います。今後は災害医療なども視野に入れて医療機関どうしの地域連携をさらに強化していきたいです。

当院は当初から積極的にコロナ診療を行い、都内で最多数となる重症の入院患者を治療しました。医療従事者の職場環境にも配慮して院内クラスターの予防を徹底し、困難な状況の中でも通常の診療を継続することができました。診療だけではなく研究においても一定の成果を挙げ“PNAS”などの権威ある専門誌にも掲載されました。今後のパンデミックに対応するため2023年11月に大学に「TMDU感染症センター」を設立しました。今後は、東京工業大学との統合や国立感染症研究所との連携により、新型コロナをはじめとする感染症の新たな診断および治療法を研究、開発する方針です。

当院のある東京都文京区は、東京23区のほぼ中心にありながら、小石川植物園などの歴史的な庭園が散見される緑豊かな街です。文京区では2038年ごろまで人口増加が続くと予想されていて、隣接する千代田区も2021年から2065年までに人口が約1.5倍になると言われています。少子高齢化と合わせて、ひっ迫する医療ニーズへの対応を急がなければなりません。

当院の救命救急センターは2007年からスタートし、現在も24時間365日体制で救急医療を提供しています。特に、重度の外傷急性腹症脳卒中、急性冠症症候群、重症呼吸不全(ECMOの必要な患者)など、高度な治療を必要とする患者さんの転院を積極的に受け入れています。

近隣エリアには、年間400件ほどドクターカーにて出動し、病院に搬送する前に応急処置などを行い救命率の向上に努めています。また臨床研究も積極的に行い、救急医療サービスの向上に取り組んでいます。

当院は、新時代の救急医療と高度先進医療の拠点として、2023年にC棟(機能強化棟)を開設しました。

C棟のER(救急外来)においては、手術室や重症処置室からなる全10室の救命救急センターのほか、救急室、ICU(集中治療室)、HCU(高度治療室)を設置した全30床のER病棟があります。感染症にも対応しており、ER病棟とは別フロアのICU・HCU病棟に25床の完全個室を設置し、感染症の広がりを防ぐよう徹底しています。また棟内の8室が陰圧(外よりも気圧が低い状態のこと)を保てる構造で、空気感染する感染症への対策も万全です。

急患対応を担うハイブリッドER室では、救急初期初療、緊急CT検査、緊急血管造影検査、緊急手術の4機能を1室に集約し、移動時間の短縮による迅速な救急医療を提供しています。また7室ある手術室は、ハイブリッド手術やロボット支援下手術にも対応し、低侵襲(からだへの負担が少ない)な治療を行っています。

C棟では、大規模な災害が起きても医療を提供できるよう、大地震に備えた強力な免震装置のほか、約96時間の停電に対応できる非常用発電機や太陽光発電パネルを設置しています。さらに、停電時においても医療器材を滅菌処理できるほか、多数傷病者受け入れ時に、1階ホールなどで医療を提供するための配管を準備するなど、万全の医療体制で有事に備えています。

優れた医療スタッフの確保や医療体制の整備は、提供する医療サービスの質に直結する重要事項です。当院の一番の強みは、医師、歯科医師、看護師、歯科衛生士など優秀な医療スタッフがそろっていることです。2021年に医科と歯科が一体化したことで診療科を越えた連携意識が強まり、以前にも増して質の高い医療を提供できるようになりました。

一般的に大学病院では、診療科や病棟どうしの関係性が希薄になることが課題となります。そこで当院では医療スタッフどうしの横断的な連携に加え、中央管理による病床のコントロールを行い、全体最適となるような医療体制を構築しています。それによって患者さんの入退院や病状を把握し、緊急性に応じて病床を確保できるようになりました。

当院では大腸肛門外科と泌尿器科を筆頭に、多くの外科系診療科でロボット支援手術を取り入れています。日本で初めてロボット支援手術が行われたのは泌尿器科の前立腺手術ですが、今では多くの診療科で保険適応になりました。当院は、最近でも心臓血管外科にロボット支援手術を取り入れるなど、徐々に活用の範囲を拡大しています。

当院では、手術支援ロボット“ダヴィンチ”3台に加え、本学、東京工業大学、リバーフィールド株式会社の3者で共同開発した手術支援ロボット“Saroa”が稼働しています。“Saroa”は世界初の“触覚”を備えた画期的な手術支援ロボットで、“ダヴィンチ”と共に低侵襲な治療に役立てています。

当院は、2024年10月からは東京科学大学病院として再スタートを切り、医学、歯学、理工学の連携によってさらなる医療の高みを目指します。ロボット支援手術に止まらず、これまでにも増して医歯のあらゆる領域で日本をリードしたいと思います。社会のニーズに応えるため心移植の準備も進めています。

当院は、理念として掲げる社会貢献の一環として、災害医療も積極的に行っています。例えば、災害の超急性期より被災地に医療支援を行うDMAT(災害派遣医療チーム)や被災地の医療をより長期間に渡り支えるJMAT(日本医師会災害医療チーム)に多数の医療スタッフが所属しています。

これまでの主な活動として東日本大震災、関東・東北豪雨、熊本地震の災害医療に貢献するほか、海外各国の災害現場にも医療者を派遣しています。2024年1月1日に最大震度7を記録した能登半島地震においてもDMAT、JMAT、感染症対策チームを派遣し、災害現場での支援に尽力しました。

こうした経験を踏まえ、当院はDMAT隊員への研修も積極的に行い、災害医療の発展に努めています。もちろん当院だけで担える災害医療には限界がありますので、地域の医療ネットワークをさらに強化し、万が一首都圏で大規模な災害が起きてもスムーズに対応できるよう準備しています。

私は、2023年の病院長就任にあたり「力を合わせて患者さんと仲間たちを守る」と宣言しました。これは、患者さんを守ることを第一に据えながらも、当院で働く職員の幸せも同時に実現させたいという強い意思の表れです。

より良い医療を提供するためには、トップが率先して労働環境を整えることが大切です。当院が目指すのはフラットで主体的な組織です。例えば、本音を言い合える環境、置かれたポジションにとらわれず誰もがリーダーシップを発揮できる環境を実現したいと考えています。

当院は、2024年10月から東京科学大学病院として再スタートを切り、患者さんのためにさらなるイノベーションに挑戦します。「力を合わせて患者さんと仲間たちを守る」は新病院の基本方針の一つとしました。難病、感染症、災害医療、救急医療など課題は山積みですが、強みである優秀な医療スタッフと先進医療を武器に、今後も幅広い分野で地域医療と社会貢献に努めて参ります。

実績のある医師をチェック

Icon unfold more