患者さんを中心にした地域連携型病院を目指す――金沢市立病院

石川県の金沢市立病院は創立から120年以上の歴史があり、近年のコロナ禍では陽性患者を積極的に受け入れるなど、長きにわたり地域住民の健康を支えてきました。急性期医療に注力する一方、自治体病院として医療情報の発信や啓蒙活動にも力を注いでいます。

そんな同院が担う役割や今後の展望について、病院事業管理者である髙田 重男(たかた しげお)先生にお話を伺いました。

金沢市立病院の概要

当院は1900（明治33）年3月に金沢市伝染病隔離所として開設されました。その後、感染症に加えて産科の診療も行うようになり、1959（昭和34）年に現在の金沢市立病院へと名称を改めました。

感染症診療所がルーツということもあり、当院は結核病棟を有する第二種感染症指定医療機関になっています。コロナ禍においては最大40床をコロナ病床として運用し、陽性患者さんを積極的に受け入れてまいりました。総合病院として幅広い診療を行う中でも、感染症（呼吸器内科）や脳梗塞(のうこうそく)をはじめとした脳血管疾患（脳神経外科）に強みがあります。

自治体病院として地域の方々の健康をサポートするのはもちろんですが、未来を担う医療者を育成することも私たちの大事な役割です。今後は学びの場をさらに充実させることにより、質の高い医療を安定してご提供できる体制づくりにも取り組んでまいります。

救急医療・感染症医療・災害医療が3本柱

当院は二次救急医療機関に指定されており、救急患者さんを積極的に受け入れています。2022年に日本救急医学会専門医が着任したのを機に救急車の受け入れ台数が大きく増え、2024年は救急車の受け入れ台数が2,400台程度になることが予想されています。

感染症の診療は主に呼吸器内科が担当し、結核やインフルエンザなどの感染症の治療はもちろん、睡眠時無呼吸症候群の診断・治療にも対応しています。呼吸器内科には日本呼吸器学会専門医・指導医が複数在籍しており、間質性肺炎に対する専門的な治療を行えることも強みです。

災害医療については院内にDMAT（災害派遣医療チーム）を2チーム編成しており、副院長と整形外科科長を兼務する森川先生は石川県DMATチームのリーダーを務めています。DMATはコロナ禍のクラスター発生時に大いに活躍してくれたほか、2024年1月1日発生した能登半島地震の際にも現地で医療活動を行いました。

市民参加型の“安らぎの医療”を実践

当院では金沢美術工芸大学とのコラボレーションにより、2009年から“ホスピタリティアート・プロジェクト（HAP）”という取り組みを行っています。これは医療施設の一角に、アートを用いて心落ちつく空間を生み出そうという試みです。第13回目の開催となった2023年は『たからさがし』と題し、1階待合ホールに面した大きなガラスをステンドグラス風に仕立てることで“光の回廊”を登場させました。

また2012年からは“市民がつくる安らぎの医療”をメインテーマに「ホスピタルギャラリー」を開催しています。患者さんに作品を出展していただいたり、作品づくりにご参加いただいたり……。アートを鑑賞することによって患者さんに前向きな気持ちで治療に取り組んでいただけたら幸いです。またこうした催しを実施することにより、市民の皆さまが当院をより身近に感じていただけることを期待しています。

みんなにやさしい“インクルーシブデザイン”

当院では高齢の患者さんや障害のある方にも利用しやすい病院を目指して、インクルーシブデザインを取り入れています。インクルーシブデザインとは、デザインを考える段階からご高齢の方や障害のある方にご参加いただき、皆さんから寄せられた意見をもとにモノづくりを進める包括的（インクルーシブ）なデザインのことをいいます。当院はこうした手法を取ることにより、どのような立場の方にも快適にご利用いただける環境づくりを進めています。

インクルーシブデザインの代表例が洗面台の手洗い場です。きっかけとなったのは、車いすを使用している方から寄せられた「通常の流しが高くて使いにくい」という声であり、「鏡を使用しているときに、ほかの人の目線が気になる」というご意見でした。この課題を解決するため手洗い場の高さを3段階に変えられるようにし、洗面台ごとに間仕切りを設けております。

髙田 重男先生からのメッセージ

当院は“市民の生命と健康を守るため、地域のニーズを反映し市民に信頼される質の高い病院をめざす”との理念のもと、患者さんを中心にした地域連携型病院を目指しております。24時間体制の救急医療、災害医療、感染症医療に尽力する一方で、ホスピタリティアート・プロジェクトや減塩レシピ本の出版などに取り組んでいることも、市民の皆さまに当院をより身近に感じていただきたいという思いからです。コロナの流行によりお休みしていた“まちなかサロン健康講座”についても2024年6月21日より再開をしました。

自治体病院である当院の使命は、市民の皆さまが毎日不安なく過ごせるよう、医療提供体制の維持・充実に努めることです。病気やけがの治療を行うのはもちろんのこと、各種検診や予防接種などの予防医療にも取り組み、皆さまの暮らしをしっかりと支えてまいります。

^＊写真提供：金沢市立病院

^＊診療科や医師、提供している医療の内容等についての情報は全て、2024年7月時点のものです。