院長インタビュー

未来を切り開き地域とともに歩む慶應義塾大学病院

未来を切り開き地域とともに歩む慶應義塾大学病院
松本 守雄 先生

慶應義塾大学病院 病院長、慶應義塾大学医学部整形外科学 教授

松本 守雄 先生

目次
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慶應義塾大学病院は初代病院長である北里 柴三郎先生の革新的な精神を今も受け継ぎ、先端技術を用いたさまざまな取り組みを意欲的に行う一方、日常的な病気に対する治療まで幅広く対応する大学病院です。

同院の特徴や強みについて、病院長の松本 守雄(まつもと もりお)先生にお話を伺いました。

慶應義塾大学病院は、東京都新宿区に位置する大学病院であり、高度医療の提供や開発、研修を行う特定機能病院です。当院がある東京都の区西部医療圏(新宿区・中野区・杉並区)は人口およそ130万人を数え、他地域と同様高齢化が進んでいますが、いまなお小児も含めて人口が増えつつあることが特徴です。

当院は大正9(1920)年に北里 柴三郎博士を初代病院長として開院しました。「基礎・臨床一体」とは北里博士の言葉ですが、意味するところは基礎的な研究の成果を新しい医療として患者さんに還元することであり、現在も当院の信条です。実際、当院は全国に15か所ある臨床研究中核病院(国際水準の臨床研究や医師主導治験で中心的な役割を果たす病院)の1つであり、多くの研究を通じてエビデンスを得て、新しい医療の開発や先端的医療の提供、ガイドラインの作成などに活かしています。その一方で一般的な病気に対しても丁寧に診療し、大学病院だからと敷居を高くせず、患者さんに寄り添った治療を行えるよう心がけています。

北里博士が当院に残した言葉は他にもあり、「各診療科の分立をやめよ」というものもその1つです。この精神のもと、当院は開院当初から診療科同士の垣根がない治療を行うことを信条としており、現在も複数の診療科が連携するさまざまな“センター”による医療を推進しています。“センター”には診療施設としての“センター”と各診療科・職種が連携してチーム医療を行う診療クラスターとしての“センター”があります。

診療施設部門としての“センター”

腫瘍センター、内視鏡センター 、輸血・細胞療法センター 、スポーツ医学総合センターなど13のセンターがあります。

たとえば、当院の“腫瘍(しゅよう)センター”は外来化学療法、放射線治療、緩和医療、低侵襲(ていしんしゅう)療法研究開発、リハビリテーション、ゲノム医療の6つのユニットからなり、さまざまながんの治療を専門とする医師、看護師、薬剤師などが1つのセンターに集い知見を共有しながら医療を提供しています。がんのような複雑な病気の治療に対しては、診療科や職種の枠を超えた患者さん中心のチーム医療こそが重要だと考えており、その意味で腫瘍センターが果たしている役割はとても大きいと思っています。

さらに当院は、難治性疾患や稀少疾患、診療に高度な技術を要する疾患に対する治療を行う、“診療クラスター”を設けています。ここでは複数の診療科の専門家がメディカルスタッフとともに横断的・複合的に連携して高度な医療を行っています。

診療クラスターの1つである臓器移植センターでは、泌尿器科で行う腎臓移植、外科で行う肝臓移植や小腸移植を診療科横断的に行っています。そもそも臓器移植にはさまざまな診療科が関わる面があり、このように診療科の垣根なくノウハウを共有し円滑な連携を行うことは、より安全な臓器移植を行うことにもつながると考えています。

ほかにも、指定難病である潰瘍性大腸炎クローン病の治療を消化器内科・外科、小児外科、小児科、産婦人科が連携して行うIBDセンター、パーキンソン病に対して神経内科、脳神経外科、精神・神経科、リハビリテーション科などから多職種が参加し、チーム医療で治療にあたるパーキンソン病センターなどが“診療クラスター”として挙げられます。

当院には主にがんの手術に使われる腹腔鏡下での手術支援ロボット “da Vinci(ダヴィンチ)”や“hinotori(ヒノトリ)”、整形外科の手術で使われる“Cori(コリ)”による治療のノウハウや新情報等を各診療科と連携しながら集約する診療クラスター、“ロボット支援手術センター”があります。このように整形外科のロボットまでも包括し、患者さんにより低侵襲(体への負担が少ない)で安全な治療の提供を目指しているのが当院の特徴的と言えると思います。当院では6月にもロボットの台数を増やしたところであり、今後ますます増加するロボット支援手術による治療の質向上に、当センターが果たす役割はとても大きいと考えています。

当院は内閣府の支援を受けてAI/ICTを導入し、AI問診、自動運転システムの患者用車いすや搬送ロボット、立位CTやコマンドセンターの試験運用など、さまざまな分野で病院機能のデジタル化を進めています。

いずれも安全性や患者サービスの向上や業務効率化に結びつく取り組みですが、例えば2021年から始めたコマンドセンターは効率的なベッドコントロールを行うもので、病床の稼働状況、スタッフの負担度、患者の重症度などを中央で把握するものです。現在複数の病棟でトライアルとして稼働させ有効性を検証しているところですが、将来的には対象を全病棟に広げて、スタッフの負担軽減や無駄をなくした病床運用などに役立てたいと考えています。

大学病院として、当院は医療人材の教育にも力を入れています。

当大学が行うカリキュラムに、“グループアプローチによる患者中心の医療実践教育プログラム”という医療系三学部合同での取り組みがあります。当大学には医学・看護医療学・薬学の学部があるため、各学部の学生同士でコミュニケーションをとりながら共同作業を行います。

近年の医療では専門化が進む一方でチーム医療の重要性は高まっています。学生のときからチーム意識をもつことは有意義であり、円滑なチーム医療を行える医療人に成長することを期待しています。

長年使用していた病院建物を10年以上かけて新しく建て替えました。病棟として1号館を新築し、2号館を改修した後、2022年にはエントランス棟と外構を整備したことで建て替えは完了し、駐車場も約200台分確保してグランドオープンを迎えています。

新病院は“KEIO FOREST, 慶應義塾の(もり)”というデザインコンセプトを持っており、院内や外構は杜をイメージした優しい雰囲気となっています。病院という緊張しやすい状況の中で、少しでも患者さんが穏やかになれる環境を提供できればと願っています。

建て替えの際に、以前正面玄関脇に植えていた泰山木(タイサンボク)は植え替えが難しい種類の木だったため伐採したところ、ご来院の皆さまから多くのお叱りの投書をいただいてしまいました。医療だけでなく、病院のすみずみまで見ていただき、また良い病院としてのあり様を考えてくださっていると受け止めています。ご意見を心にとめ患者さん視点でより良い病院に成長するよう努めてまいります。

当院は地域の先生方とのつながりを大切にしており、都内を中心に約1,400もの医療機関とパートナーシップを結び、ホットラインを開設しています。ホットラインは救急科の医師に直につながっており、急ぎの治療を要する患者に関しての相談に丁寧に対応しています。当院は今後も大学病院として壁を感じていただくことなく、地域のさまざまな医療機関、先生方と連携し、患者さんに寄り添った地域医療を展開していきます。

医療は病院の中だけでは完結しないものです。患者さん一人ひとりが末永く健康的に生きていくために、まず病気にならないよう予防することを心にとめていただければと思います。北里博士も予防医療は医学の根本だと言っており、それは現代でも変わりません。

当院では3号館に高いリピート率を持つ“予防医療センター”を設置していましたが、2023年秋に東京都港区麻布台にオープンした麻布台ヒルズに拡張移転しました。移転にあたっては新しい診断機器を導入し、予約枠も増やすとともに、個々の受診者にパーソナライズされた検診メニューを提供し、生活や人生に寄り添ったアドバイスをおこなうなど、多くの方に新しい形の予防医療を提供できるようになっています。ぜひご利用ください。

慶應義塾大学病院は、患者さんやご家族の方、地域の皆さまに対し広く門戸を開いて、丁寧な診療を行うことをモットーとしています。当院に受診された方には必要に応じて複数の診療科が結集し、様々な議論をしながら患者さんにとって適切な診療を行います。

当院は地域の皆さんにとって頼られる存在を目指し、これからも安全で質の高い医療を提供し、医学の発展に寄与できるよう努力してまいります。

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