岐阜県内の2つの国立病院が統合し、2005年に設立された長良医療センター。呼吸器の診療に強みがあり、小児や重症心身障害児(者)に対する専門的な診療を行っている病院です。2023年には新たに緩和ケア病棟を開設し、“その人らしく『生きる』を支える”との理念のもとに地域に根ざした医療を展開しています。
そんな同院が担う役割や今後の展望について、院長である加藤 達雄先生にお話を伺いました。
当院は、昭和の時代から岐阜県にあった長良病院(1927年開設)・岐阜病院(1939年開設)という2つの国立病院が統合したことにより、2005年に誕生いたしました。長良病院はかねてより小児や重症心身障害児(者)の診療に強みがあり、岐阜病院は呼吸器・循環器領域の診療を得意としていました。両者の流れをくむ当院は“生命を育み 未来を大切に”との理念のもと、小児医療、重症心身障害児(者)医療、周産期医療に加えて、呼吸器系の病気に対する専門的な診療を行う病院としてスタートいたしました。
その後2021年に当院の周産期医療は終了となり、現在は小児、重症心身障害児(者)、呼吸器系の診療を柱にしています。内科と外科を合わせて20の診療科を有してさまざまな病気やけがに対応すると同時に、少子高齢化が進む地域に必要とされる医療をご提供するべく取り組んでいるところです。
産科の医療資源の集約に伴い、2021年より周産期部門の機能が岐阜県総合医療センターへ移行しました。このため新たな診療の柱として2023年1月に緩和ケア病棟(やすらぎ病棟)を開設し、高齢者医療にも力を注ぐようになりました。緩和ケア病棟では医師や看護師に加えて薬剤師、理学療法士、心理療法士、管理栄養士、ソーシャルワーカーなどの多職種がチームとなって患者さんの療養生活をサポートしています。
こうした病院機能の変化を踏まえて、私が院長に就任した2024年4月に病院の理念も一新いたしました。職員からもアイデアを出してもらい、最終的に “その人らしく『生きる』を支える”という理念に決定いたしました。
小児の神経や筋肉の病気、発達障害などは、病気と上手に付き合っていく必要があります。また診療の柱の1つである呼吸器の病気の中には、完治が難しい病気もあります。そうした現実を前にして私たちができることは、患者さんご自身・ご家族の考えを尊重し、お気持ちに寄り添っていくことです。個々の患者さんが“その人らしい人生”を送れるように支えていくことが当院の役割だと考えています。
呼吸器は当院の診療の柱であると同時に、私の専門分野でもあります。私が所属する呼吸器内科にはそれぞれに専門性を持った医師が複数在籍しており、病気の種類を問わず呼吸器全般の診療を行える体制が整っています。中でもCOPD(慢性閉塞性肺疾患)についてはCOPD地域連携パス(患者さんのCOPD治療の計画書)を導入するなど、地域の開業医の先生方と緊密な連携体制があります。また、呼吸器外科は京都大学医学部から医師(小松 輝也統括診療部長)に来ていただき、肺がんに対する低侵襲(体への負担が少ない)手術を行っています。
最近ではより大きく検体を採取できる凍結生体組織検体採取(クライオバイオプシー)の導入準備を進めているほか、2025年には新たな放射線治療機器を導入する予定です。呼吸器内科/外科は岐阜病院が開設された1939年から80年以上続く歴史ある診療科であり、その実績や伝統をもとに今後も診療体制のアップデートを図りつつ、より質の高い医療の提供に努めてまいります。
当院のもう1つの柱となっているのが小児の診療です。小児科は岐阜市北部エリアの中核的な病院としての役割を担い、日常的な病気の治療から高い専門性が求められる領域まで幅広く診療しています。神経小児科では、てんかんをはじめとした小児神経疾患に加えて発達障害に対する専門的な診療も行っているため、近隣の開業医の先生方からも多数ご紹介をいただいています。神経小児科、小児科は、成人系診療科と協力し、重症心身障害児(者)・筋ジストロフィー等の専用病床(180床)でセーフティネット医療を担っています。
小児外科は、脳神経外科・心臓血管外科・整形外科の領域を除く外科疾患を担当し、低出生体重児や重症心身障害児(者)、進行性筋萎縮症の患者さんにも対応しています。
私は岐阜大学医学部を卒業後、研修を経て1988年に当時の国立療養所岐阜病院に赴任いたしました。それ以降、国立療養所が国立病院機構となり、岐阜病院と長良病院が統合されて長良医療センターとなるまで、医師人生のほぼ全ての時間を“国立病院一筋”で過ごしてまいりました。国立病院のミッションとして、新型コロナウイルス感染症の患者さんを岐阜県で最初に受け入れたことは記憶に新しいところです。
当院は小児・重症心身障害児(者)・呼吸器系の診療を柱にしておりますが、このうち私の専門は呼吸器です。近年の医学の進歩は目覚ましいものがあり、たとえば肺がん1つとっても免疫療法や分子標的薬などの新しい治療法が次々と世に出てきています。もしも病気になったとき、治療法や治療の流れについて知っていれば、患者さんご自身に納得できる治療をお選びいただけるのではないか……。そのように考えて、当院では岩砂病院・岩砂マタニティの協力のもと、“どう生(逝)きるかい(会)”と題した市民公開講座を開催しています。
“病気になったらどうするか”“どのような最期を迎えたいのか”といったことは、普段の生活の中で避けてしまいがちな話題ではないでしょうか。しかしいざ病気になったとき、十分な知識がなければ戦うことはできません。ぜひ一度足を運んでいただき、健康や病気について考えるきっかけにしていただけたら幸いです。
当院では今後も、上記のような地域に根ざした医療を積極的に行っていきます。地域住民の皆さんのご理解とご支援、ご協力をお願い申し上げます。
*診療科や医師、提供する医療の内容等についての情報は全て2024年8月時点のものです。