福岡県福岡市城南区にある福岡大学病院は、24診療科と13診療部、20診療支援部門が協力して幅広い疾患に対応することで、地域住民の健康を支えている特定機能病院です。2次救急、3次救急を積極的に受け入れるだけでなく、メディカルスタッフの育成や臨床研究にも取り組む同院の地域での役割や今後ついて、病院長である三浦 伸一郎先生に伺いました。
福岡大学病院は、福岡大学医学部開設に伴って1973年(昭和48年)に開設されました。以来、理念である“あたたかい医療”を胸に、福岡・糸島医療圏の中核として活動を続け、半世紀が経過しております。
2024年5月には、建て替えを進めていた新本館が完成。新本館には、手術支援ロボットを導入したハイブリッド手術室4室を含む全18の手術室、がんセンターや総合周産期母子医療センターなどが入っています。病床数も中央棟と合わせて771床となりました。
新本館屋上にはヘリポートも完備。これまでも、医師や看護師を現場に派遣するためのファーストメディカルレスポンスカー(FMRC)や、現場で重症患者の治療ができるECMO(エクモ)カーなど、救急医療を重視した設備を整えてきましたが、屋上にヘリポートを設置することでさらに緊急の対応が可能になりました。
検査部門・病理診断部では、より高い品質の医療を提供したい、患者さんが安心して治療を受けられるようにしたいとの思いから、国際規格ISO15189を取得しました。これは臨床検査室の能力と品質を証明する手段の1つです。また医療用画像管理システム(PACS)を更新したことで、AIによる画像診断が可能となり、画像検査から診断までの時間短縮につながっています。
理念である“あたたかい医療”は2003年に設定したものですが、「患者さんの不安を少しでも取り除くのが医療人の努めである」という思いは、開院当初から変わっていません。“患者さんにとって何がベストなのか”を考え続け、実践するとともに、大学病院として新しい治療法の開発を推進し、さまざまな先進医療にも意欲的に取り組んでいます。
新本館の完成で、手術支援ロボット“Da Vinci Xi”を導入した手術室が3室に増えました。これまでも当院では内科と外科が連携して、呼吸器、消化器、泌尿器、婦人科などさまざまな分野で手術支援ロボットを活用してきましたが、さらに対応できる症例数が増えると思われます。
技術の発展とともに、今後はますます手術支援ロボットが重要視されていくことでしょう。多くの症例数を手がけることで実績を積み、手術支援ロボットに対応できる医療スタッフの育成にも力を入れていく予定です。今後は九州地方でもトップクラスの症例数を目指す構えです。
また大動脈弁ステントや僧帽弁クリップなど、脳・心血管系の疾患へのカテーテル手術が可能なハイブリッド手術室も2室完備しております。近年はがんや心血管治療など、さまざまな分野での低侵襲手術が求められておりますが、そういった要望にも十分対応できる体制をとっています。
2024年5月の新本館完成に伴って、ERセンターを設立しました。救急患者をスムーズに受け入れるため、救命救急センターや集中治療室といった関連部門と密に連携するセンターです。
救急車からの受け入れ要請は2次救急として受け入れます。実際に救急患者を診察して、もっと高度な治療が必要となった際には3次救急に切り替え、迅速に治療に当たれるようになっています。
救急患者を医師が診察してトリアージを行い、適切な治療を提供するといったほうが分かりやすいでしょうか。手術が必要な場合に備えて、現在は全18室となっている手術室を受け入れ体制を強化するため将来的には20室まで増設する予定です。
これまでも婦人科、産科、小児科、小児外科の連携による総合周産期母子医療センターは設置しておりましたが、新本館完成を機にさらに機能を充実させたセンターとして再スタートを切りました。所属スタッフの人数から見ても、西日本屈指の規模といえるでしょう。
何らかの疾患を抱える新生児や、低出生体重の新生児への対応だけでなく、困難な出産が見込まれるハイリスク妊婦の方に妊娠時から来ていただき、より安全に出産できるよう尽力いたします。
日本国内で肺移植が可能な病院は限られていますが、当院では呼吸器外科の白石武史先生による肺移植の実績があります。肺高血圧症や肺線維症などで肺移植が必要になった患者さんは、地元だけでなく遠方から来院されることも少なくありません。肺以外にも、腎移植、角膜移植といった臓器移植治療、膵島移植など再生移植も行っています。
当院が2021年に導入した高精度放射線治療装置Halcyon(ハルシオン)は、さまざまながんに対して行われる強度変調放射線治療(IMRT/VMAT)を、より短時間で確実に行えるように開発されたシステムです。がんに対する放射線治療は、治療計画システム「Eclipse」によって正確な線量計算が行われ最適な治療計画が作成されます。Eclipseで設計した治療計画を、正確に再現するのがHalcyon(ハルシオン)です。
Halcyon(ハルシオン)によって、従来の放射線治療装置に比べ、高速で高精度の放射線照射が可能となりました。治療の品質が向上するだけでなく、放射線治療にかかる時間も短縮できるため、患者さんへの負担も軽減されます。
医療とは、患者さんの立場に寄り添って、個々の患者さんそれぞれに一番望ましい治療を、メディカルスタッフ全員が密に連携をとり、ひとつのチームとなって実現していくものだと考えています。それこそ、当院が理念として掲げる“あたたかい医療”です。
患者さんにとっては、何らかの疾患を抱えて病院にかからなければいけないというだけで、不安を感じることでしょう。その不安を少しでも減らすべく、当院では入退院支援センターを設置し、医師、看護師、薬剤師、管理栄養士、歯科衛生士、ソーシャルワーカー、事務など医療に関わるスタッフが連携して、患者さんやご家族の支援を行っています。
大学病院として高度な医療サービスを提供することはもちろんですが、なによりも患者さんの心に寄り添った診療を第一に考え、つねに進化していきたいと思っています。それこそが地域医療の中核を担い、地域住民の皆さんの健康を支える当院の役割だと信じています。