院長インタビュー

QOLの向上を優先し、粘り強く難病に立ち向かう静岡てんかん・神経医療センター

QOLの向上を優先し、粘り強く難病に立ち向かう静岡てんかん・神経医療センター
メディカルノート編集部  [取材]

メディカルノート編集部 [取材]

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静岡県静岡市葵区にある独立行政法人 国立病院機構 静岡てんかん・神経医療センター(以下、静岡てんかん・神経医療センター)は、全国から多くの患者さんが訪れる、てんかんをはじめ神経難病や認知症、重症心身障害などの診療に特化した病院です。

てんかん支援拠点病院などの役割を担い、質の高い医療を提供する同院の特長について、院長である今井 克美(いまい かつみ)先生にお話を伺いました。

先方提供
病院外観

当院の前身は、てんかんや重症心身障がいの診療を専門とする国立療養所静岡東病院、並びに神経難病を専門とする国立静岡病院です。2001年に両院が統合することにより、当院は国立療養所 静岡神経医療センターとして開院しました。その後、2004年に独立行政法人となり現在に至ります。

てんかんの治療においては、てんかん専門医(日本てんかん協会認定)24名のほか、小児神経専門医(日本小児神経学会認定)7名や臨床遺伝専門医(臨床遺伝専門医制度認定委員会認定)1名を中心に、多職種によるチーム医療で質の高い医療を提供しています(2025年1月時点)。また静岡県てんかん支援拠点病院として、専門領域で地域医療を支える役割も担うようになりました。

その一方で、地域の医療機関や訪問看護ステーションと連携して神経難病の治療に注力するとともに、静岡市の認知症疾患医療センターとして認知症の相談から治療まで幅広く対応しています。さらに重症心身障がいについては、およそ160名にのぼる入所児者(2024年4月時点)のケアに加え、通所支援や短期入所などのさまざまなサポート体制を敷いています。

てんかんの治療には、薬物療法によって発作を抑える対症療法や、症状を和らげるための緩和的な外科手術などがありますが、当院ではてんかんの完治を目指して積極的に根治術を採用しています。そのためには、一度の診断で最終的な判断をせず、定期的に診断を行って病気の原因をしっかり追及していくことが重要となります。

しかし、てんかんの診断は脳波検査による数値だけでは判断できないケースも多く、発作が起きていても明らかな病変が認められないことも多々あります。まだまだほかの疾患と比べて、医師の経験や腕前に頼るところが大きい分野であると言えるでしょう。

そこで当院は、てんかんの専門医を多数抱える層の厚い医療体制を生かし、多職種によるチーム医療で常によりよい治療方針を模索しています。小児科、脳神経内科、脳神経外科、精神科などの幅広い領域にてんかん専門医が在籍し、てんかんに精通した看護師や心理療法士(公認心理師・臨床心理士)、リハビリスタッフまで在籍している当院だからこそできる包括的な医療体制が強みとなっています。

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中央脳波室

また、当院独自の研修体制として、‟院内認定看護師”を設けていることも医療の質を高めることに大きく寄与しています。当院では学科試験と実技試験により、てんかん、重度心身障害、神経難病、認知症の院内認定看護師を育成し、看護師のスキルやモチベーションの向上に役立てています。

このような取り組みが実を結び、今では東海道沿線を中心に全国各地から多数のてんかん患者さんに来院していただけるようになりました。遠方から来られる患者さんは、てんかんの完治やQOL(生活の質)向上に対する期待が一段と強いため、当院としてもてんかん治療の最後の砦となれるよう、全力で治療に励んでいます。

小児てんかんの中でも特に点頭てんかんを発症した際は、対応が遅れると児童の発達に影響が出ることもあるため注意が必要です。当院では18台のビデオ脳波記録装置を活用し、患者さんを受け入れたその日に脳波検査を行い、診断結果までお伝えしています(2025年1月時点)。そのため、点頭てんかんなどの一刻を争う症例に対しては、早急に患者さんを受け入れられるように努めています。

もちろん、たとえ当院の専門領域であっても全ての症例に対応できるわけではありません。たとえば、指定難病の結節性硬化症については近隣の総合病院へ協力を仰ぐなど、それぞれの病院の強みを生かした連携体制を構築しています。

また、当院は国際医療に貢献できるよう、国際抗てんかん連盟や国際てんかん協会などとも連携しています。主な活動として中国、モンゴル、タイなどのアジア諸国からてんかん医の研修を受け入れたり、アジア各国での研修セミナーに医師を派遣したりしています。当院は、今後も国際交流を通じて医療技術のさらなる向上に努める方針です。

2011年に東日本大震災が起きた際、当院は医療活動を通じて被災地での支援に努めました。そこで、多くのてんかん患者さんの不安を耳にしたことから、てんかんに関するご相談にメールや電話で応じられるよう“てんかんホットライン”を開設しました。相談内容はさまざまですが、てんかんに関する一般的な内容や、生活に関するものから、対応の難しい専門的な内容まで全国から多数ご相談が寄せられています。

また当院からの情報発信として、医師や看護師などの医療職、保育士やソーシャルワーカーなどの福祉職、検査技師などの専門職を対象に、てんかんに関する職種別のセミナーをそれぞれ年1回のペースで開催しています。さらに当院は、てんかん治療の食事療法に取り入れているケトン食のレシピをホームページで公開するなど、患者さんに役立つような情報発信も積極的に行っています。

ケトン食のレシピはこちら

そのほかにも、3月26日に制定されているてんかん啓発の日“パープルデー”(一般社団法人 Purple Day Japan認定)に合わせ、2019年より静岡市役所葵塔をパープル色にライトアップするイベントを主催しています。パープルデーとは、てんかんに関する正しい知識を得て、てんかんを持つ患者さんを応援する意味を込めて、パープルのものを身に着けたり、飾ったりする日です。

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パープルデーの静岡市役所旧庁舎ライトアップの様子

当院は患者さんの満足度に配慮し、治療方針をケースバイケースで決めています。特に、小児のてんかんでは発達障害の併存率も高く、発作以外にもさまざまな症状が引き起こされるため総合的な判断が求められます。たとえば、発作を抑えようとするあまりに薬の量が増えてしまい、その副作用で記憶力や理解力が低下してしまっては本末転倒です。

そのような事態を防ぐため、当院では発作を抑えながらもQOLが低下しないような治療を徹底しています。てんかんをもつ方の生活をよりよくすることを優先し、患者さんやご家族のご要望にもしっかり耳を傾けなければなりません。

また、定期的に患者さんの状態を再検討することで、新たな治療の糸口が見つかることも十分に考えられます。当院はてんかんを含むさまざまな神経疾患に対して原因をしっかり追求し、薬物治療だけでなく外科治療や食事療法を含めた包括的な治療で根治を目指すとともに生活の質の改善を重視しています。このように、当院はこれからも難病を抱える患者さんと真しに向き合い、職員一丸となって責務を果たして参ります。

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