院長インタビュー

国の安心と地域の健康を支える「最後の砦」として――自衛隊中央病院が体現する、急性期医療と人材育成の使命

国の安心と地域の健康を支える「最後の砦」として――自衛隊中央病院が体現する、急性期医療と人材育成の使命
メディカルノート編集部  [取材]

メディカルノート編集部 [取材]

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東京都世田谷区、緑豊かな三宿エリアに位置する自衛隊中央病院。防衛省・自衛隊の職域病院としての顔を持ちながら、地域に開かれた総合病院として高度な急性期医療を提供しています。

有事の際の「最終後送病院」としての機能を備え、ダイヤモンド・プリンセス号への対応や大規模災害訓練など、常に「いざ」という事態を見据えた研鑽を積んでいる同院について、泌尿器科を専門とし、国際貢献や被災地での支援などの豊富な現場経験を持つ院長の鈴木 智史(すずき さとし)先生に詳しく伺いました。

病院外観(自衛隊中央病院ご提供)
病院外観(自衛隊中央病院ご提供)

自衛隊衛生の歴史は、自衛隊の前身である警察予備隊や保安隊が発足した1950年〜1952年頃にさかのぼります。当時は隊員の健康状態が必ずしも良くなく、特に結核が多かったり、訓練中の怪我が出たりと、医療体制をしっかり整える必要がありました。そこで新しい病院が必要であるという話が持ち上がり、1956年にこの三宿の地に自衛隊中央病院が開院いたしました。ここにはかつて駒沢練兵場があり、広い土地が確保できたのです。

開院当時の建物は、日本武道館や京都タワーなどを手がけた建築家の山田守氏が設計した5階建てでした。当時は周囲に高い建物がなく、渋谷からも見えるほど先進的な病院だったと聞いています。

開院当初は、自衛隊員とそのご家族を診る職域病院としてスタートしました。また当院ならではの特徴として、公務で障害を負った自衛隊員の社会復帰を支援する「職業能力開発センター(旧・職能補導所)」を自衛隊で唯一、早期から併設し、長年にわたり部隊復帰の促進と円滑な社会復帰に取り組んできた歴史があります。

とはいえ職域病院という性質上、患者さんの病気に偏りが出やすかったため、隣接するKKR三宿病院と連携しながら、医療従事者はさまざまな病気の治療に対する修練を積んでまいりました。その後当院は1993年に保険医療機関となり、地域から紹介を受けた一般の方も受診できる仕組みへと変わりました。現在では、外来の約4割、入院の約6割を一般の患者さんが占めるようになり、地域に開かれた総合病院として定着しております。

病院内
病院ロビー(自衛隊中央病院ご提供)

当院は、自衛隊の医療機関として医療従事者を育てるという大きな役割も担っています。開院から間もない時期から高等看護学院(1958年)や診療放射線技師養成所(1962年)を併設し、自衛隊の医療を支える人材として、看護師及び診療放射線技師を養成してきました。現在も診療放射線技師の養成は続いており、また医師・歯科医師の初期臨床研修や専攻医の研修も積極的に受け入れています。

さらに新たな取り組みとして、今年(2026年)の4月から当院に准看護学院を設立し、30名の学生を受け入れることになりました。自衛隊では、何か事態が起こった際、前線で救護を行う隊員(衛生救護員)が必要となるため、継続的に育成・確保しなければなりません。この30名は全国の自衛隊員の中から選抜しており、非常に志の高い隊員たちが手を挙げてくれています。

准看護学院での准看護師資格取得後は、一部の者は救急救命士の資格の取得も可能であり、その後も長く自衛隊で活躍できる道が開けることになります。過酷な環境下で行動し、負傷者の痛みがわかる医療従事者を育てることは、有事における質の高い救護、ひいては国の安心に直結していると考えています。

地域医療においては、急性期の総合病院としてできる限り高度な医療を提供することを目指しています。
当院は「いざ」という時に前線で怪我をした人をしっかり診るために外傷を含めた救急医療に力を入れており、年間約6000台の救急車を受け入れ、急性期医療に日々取り組んでおります。

また、2017年に第一種感染症指定医療機関に指定されたこともあり、感染症診療にも尽力してきました。
たとえば、新型コロナウイルス感染症が発生した当初は武漢からのチャーター便の検疫官として当院の看護師が最初に向かいました。ダイヤモンド・プリンセス号の集団感染の際には最大102名の患者さんを受け入れ、各地域の自衛隊病院からの応援も得ながら全力で対応いたしました。
ダイヤモンド・プリンセス号の患者さんは日本人だけではありません。そこで、語学の特技を持つ隊員の力を借りて外国人患者さんとのコミュニケーションを円滑にしました。というのも、感染症病棟ではナースコールが鳴っても、まずは感染を防ぐための防護服(PPE)をしっかりと着用しなければならず、患者さんの元へすぐには駆けつけられません。

そうした時間的な制約がある中で、語学の特技を持つ隊員がナースコール越しに患者さんの要望を的確に聞き取ってくれたことは、現場にとって本当に大きな助けとなりました。また、当院では日頃から防護服の着脱や患者受け入れの訓練を重ねていたこともあり、当時の未知の事態にも迅速かつ的確に対応できたと自負しています。

コロナ時
コロナ時の様子(自衛隊中央病院ご提供)

災害対応への備えも当院が果たすべき重要な役割の1つで、特に首都直下地震を想定した訓練を世田谷区や東京都、地域の医師会やDMATの皆様と連携して複数回実施しています。当院は災害拠点病院ではありませんが、免震構造を備えており、救急にもしっかり対応できることから、地震発生時には近傍に緊急医療救護所が設置されることが計画されるとともに、当院で中等症以上の被災傷病者を受け入れる役割が期待されています。
また、地域からの要望もあり、屋上のヘリポートを医療搬送の拠点として活用する訓練も進めています。当院は有事に備えて普段から病床に余裕があるため、いざという時には9階の1病棟を、地域あるいは広域医療搬送の拠点として活用し、そこで受け入れた重症患者さんを10階にあたる屋上からヘリコプターで域外へ搬送するという実践的なシミュレーションを行っております。このようなゆとりのある療養環境と独自の構造が、災害時に支援病院としての真価を発揮するはずです。

訓練の様子
訓練の様子(自衛隊中央病院ご提供)

高度な医療を提供し続けるためには、環境整備も欠かせません。当院ではここ数年で、放射線治療装置やMRI、血管造影装置などの古い機器を新しいものに更新いたしました。さらに、来年には手術支援ロボット「ダビンチ」の運用も開始する予定です。ガイドラインに示された標準的な治療を院内で完結できる体制を整えることは、患者さんのためであると同時に、防衛医大を卒業した若い医師たちの経験やモチベーション向上にもつながっています。
自衛隊中央病院は、前方で発生した傷病者が治療を受けながら最後にたどり着き、根治的な治療を受けられる「最終後送病院」です。有事の際、この病院が最後の砦として機能することが、国民の皆様の安心や安全、そして日本という国を守ることにつながるはずです。
そのためには、何よりもまず、地域の総合病院としてしっかりとした日常診療を行うことが前提となります。入口に守衛が立っているため少し入りにくいというお声をいただくこともありますが、一度中に入っていただければ親しみやすい普通の病院であることがお分かりいただけるはずです。
当院はこれからも地域の先生方としっかり連携しながら、救急や感染症診療、さらに災害対応を通じて、皆様の信頼と期待に応えられる病院であり続けたいと切望しています。
 

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