てんかんとは、発熱などがなく突然手足がガクガク・ビクビクと震えたり、突然ぼーっとしたりするなどの症状が現れる病気のことで、これらの症状をてんかん発作といいます。てんかんは小児期に発症することが多く、1歳未満の乳児期から、幼児期や学童期、思春期の全年齢の子どもに起こります。てんかん発作にはけいれんを伴うものもあれば、けいれんを伴わず意識だけなくなったり、目だけが左右のどちらかに寄ったりする非けいれん性発作など、さまざまな種類が存在します。
今回は埼玉県立小児医療センター 神経科 科長の菊池 健二郎先生に、小児におけるてんかんの種類とその原因についてお話を伺いました。
てんかんとは、大脳の神経細胞が突如、異常に興奮したり過剰に興奮したりすることによって、意識障害やけいれんなどの発作を起こす脳の病気です。患者さんは約100人に1人の割合でいるとされており、日本全国にはおおよそ100万人が推定されています。
子どもに発病するてんかん(小児てんかん)をもたらす原因は多彩で、脳に構造的な異常がある場合、生まれつき(先天性)の代謝異常症、遺伝子の異常、周産期の異常などさまざまな原因が挙げられます。発症は1歳未満の乳児から、1歳代の乳児や学童期、思春期といった全ての年代にみられます。
抗てんかん薬により、約7割の患者さんが発作をコントロールすることが可能ですが、残りの約3割の患者さんは難治に経過します。
ここで用語の整理をしますと、てんかんは病気の名前で、てんかん発作は症状であり、その発作にはさまざまな種類があります。後ほどあらためて説明しますが、脳全体が同時に興奮して起こるてんかん発作(全般起始発作)では、いきなり全身がガクガク・ビクビクするけいれん性発作や急にぼーっとして動作が突然ピタッと停止する非けいれん性発作などがあります。一方、脳のある特定の部分から脳の異常な興奮が始まるてんかん発作(焦点起始発作)では、脳のどの部分から起こるかによって発作の始まりの様子やその後の発作の様子(発作型)が異なります。発作によっては、始まりはぼーっとして意識がなくなり、その後けいれん性発作へ移行することもあり、患者さんによってその発作型はさまざまです。
てんかん発作について知っておいていただきたいのは、けいれんはてんかん発作で起こる症状の一部であり、けいれんを起こさない“非けいれん性”のてんかん発作もあるということです。けいれんがなければてんかんではないというわけではなく、また逆に、けいれんが起こっても全てがてんかんによるものではありませんので、正しい判断が必要です。
てんかんを分類する基準は、2017年に国際抗てんかん連盟から新しい分類の枠組みが提唱され、てんかん発作型、てんかん病型、てんかん症候群と段階を追って分類し、それに加えててんかんの原因(病因といいます)や患者さんが持ち合わせている学習や精神・心理、行動の問題(併存症)も考えるようになりました。
まず、どこから発作が起こるかで分類します。体のある部分から発作が始まる場合を“焦点起始発作”、突然体全体がつっぱったり、手足が一瞬ぴくっとしたり、はたまた突然ぼーっとして意識がなくなったりする発作を“全般起始発作”、どちらか判断できない場合は“起始不明発作”と分けます。
次に、てんかん発作をもとにてんかん病型の分類をします。焦点起始発作を起こす場合は“焦点てんかん”、全般発作を起こす場合は“全般てんかん”に分けられ、焦点てんかんと全般てんかんが混合した病型もあります。
最後に、てんかん発作型やてんかん病型に加えて発症年齢、特徴的な発作型の種類、特徴的な脳波所見、画像所見などにより、てんかん症候群を確定していきます。実際にはてんかん症候群が確定されず、単に“てんかん”という病名がつくことが多いことも事実です。さらに、てんかんの原因、患者さんが持ち合わせている運動障害、知的発達症(知的能力障害)、発達障害などの併存症を評価します。
このように、発作型、病型、症候群などをある程度分類することで、それに応じた治療を計画していくことができます。
小児てんかんを起こす原因は多彩で、以下のものが考えられています。
子どもに特有の代表的なてんかん症候群に以下のようなものがあります。
乳幼児期にみられるてんかん症候群です。寝入りばなや授乳中に、突然1秒間ほど首にグッと力が入って、座っていれば頭が前方に倒れ(頭部前屈)、手足にもグッと力が入ったりする“てんかん性スパズム”と呼ばれる発作が5〜40秒ごとに10〜50回程度繰り返され、この繰り返し(シリーズ)が5〜10分程度続きます。発作と発作の間は不機嫌で泣いていることもあります。このシリーズが徐々に増えてきて、1日5〜6シリーズ認められることもあります。最初はこのグッと力が入る症状が分かりにくいため、てんかん性スパズムとして認識されずに診断が遅れてしまうケースもあります。この症候群では知的発達が遅れてしまうことがあるので、てんかん性スパズムが起こってから、できれば1か月以内には診断および治療が開始できることが望ましいです。
起きているときに、突然10秒ほどぼーっとして意識がなくなる欠神発作が特徴です。けいれんを起こしたり、突然倒れたりはしませんが、会話の最中や食事中に突然意識がなくなり、急に動作が止まってしまいます。欠神発作は1日に数回から数十回の頻度で出現し、6~7歳の児童、男児より女児に多くみられます。
寝入りばなや朝の寝起きに、片側の顔、特に唇がピクピクけいれんしたり、しびれたりするといった症状が現れます。その後、よだれが垂れる、言葉がうまく話せなくなるなどの症状があり、お子さんによっては全身にけいれんが起こる場合もあります。通常は2~3分で自然に止まります。7~10歳頃に発症し、その後15~18歳頃に自然に治ることが多く、必ずしも治療をする必要はありませんが、発作の回数が多い、または昼間の活動時に発作を起こすといった場合には、治療を行う必要があります。大脳の中央部から横にあるローランド溝の近くに棘波(ローランド棘波)が脳波検査で認められるため、以前はローランドてんかんと呼ばれることもありました。
発症時期は12~18歳頃で、一瞬手足がぴくっとするミオクロニー発作と、全身が初めにつっぱり(強直発作)その後ガクガクする(間代発作)が続く強直間代発作を特徴とするてんかんです。ミオクロニー発作は持っている物を落としたり、投げ出したりと、手に起こることが多い症状ですが、一瞬の動きであるため、本人や家族もてんかんによる発作であることに気付かれにくく、意識をなくして全身の強直間代発作を起こして初めて病院を受診するといったケースも多くみられます。睡眠不足や疲れなどで発作が起こりやすいとされています。抗てんかん薬による治療で発作をコントロールできますが、治療を中止すると再発することが多いため、長期の治療を必要とする病気です。
新生児期に発症するてんかんには、家族性のてんかんを起こす場合もありますが、遺伝子の異常を原因とした小児てんかんはそれほど多くありません。近年、遺伝子の異常を原因としたてんかんは数多く発見されていますが、遺伝子の突然変異により家族の中でそのお子さんだけてんかんを発症する場合が多いです。
小児てんかんでは、その子ども本人が本来持っている脳の特性として知能に影響が出てくる場合と、てんかんを繰り返すことで知能や発達に影響が出てくる場合の2パターンがあります。もともと知能や発達の遅れのあるお子さんがてんかんを発症した場合は、てんかんが直接関係しているとは判断できません。一方で、てんかんを発症する前までは知的な遅れはなく発達が正常であったお子さんで、てんかんを発症してから知能や発達に影響が出てくる場合は、てんかんそのものが影響している可能性を考える必要があります。さらに、抗てんかん薬による治療の副作用によって、知能への影響が出る場合もあります。したがって、てんかんに対する薬物治療は発作が治まるかだけに注目するのではなく、薬によってお子さんの知能や発達に影響を与えていないかどうかを評価することも重要です。
埼玉県立小児医療センター 神経科 科長
「てんかん」を登録すると、新着の情報をお知らせします
本ページにおける情報は、医師本人の申告に基づいて掲載しております。内容については弊社においても可能な限り配慮しておりますが、最新の情報については公開情報等をご確認いただき、またご自身でお問い合わせいただきますようお願いします。
なお、弊社はいかなる場合にも、掲載された情報の誤り、不正確等にもとづく損害に対して責任を負わないものとします。
「受診について相談する」とは?
まずはメディカルノートよりお客様にご連絡します。
現時点での診断・治療状況についてヒアリングし、ご希望の医師/病院の受診が可能かご回答いたします。