インタビュー

エコノミークラス症候群とも呼ばれる静脈血栓塞栓症ってどんな病気?

エコノミークラス症候群とも呼ばれる静脈血栓塞栓症ってどんな病気?
丹羽 明博 先生

平塚共済病院 顧問

丹羽 明博 先生

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この記事の最終更新は2018年12月10日です。

エコノミークラス症候群」という言葉を聞いたことがある方も多いのではないでしょうか。エコノミークラス症候群とは、飛行機の搭乗など長時間動かずにいることで足の血流が悪くなり、静脈の中に血栓(血の塊)ができてしまう病気を指します。この足にできた血栓が肺に到達し肺の動脈につまると、息切れなどさまざまな症状が現れます。

このエコノミークラス症候群は、静脈血栓塞栓症と呼ばれる病気の通称です。静脈血栓塞栓症とは、どのような病気なのでしょうか。今回は、静脈血栓塞栓症を専門とし、診療ガイドラインの作成にも携わっていらっしゃった平塚共済病院の丹羽 明博先生に、静脈血栓塞栓症の特徴についてお話しいただきました。

深部静脈血栓症とは、足の静脈に血栓が生じることによって静脈の閉塞が起こり、足の腫れや赤みなどが現れる病気です。この深部静脈血栓症によって生じた血栓が歩行などをきっかけに血流に乗り肺に到達すると、肺動脈を閉塞し息切れや失神などの症状が現れる肺血栓塞栓症が起こります。

この深部静脈血栓症と肺血栓塞栓症は、一連の病気と考えられ、まとめて「静脈血栓塞栓症」と総称されます。なお、静脈血栓塞栓症は、通称「エコノミークラス症候群」と呼ばれることもあります。

肺血栓塞栓症の90%以上は、足の静脈に血栓ができる深部静脈塞栓症から生じることがわかっています。そのため、2018年現在、肺血栓塞栓症と深部静脈血栓症は、一連の病気として静脈血栓塞栓症と総称されているのです。

ただし、深部静脈血栓症の中には、肺血栓塞栓症にいたらないケースもあります。また、まれではありますが、上肢の静脈に生じた血栓が肺に到達することで肺血栓塞栓症が生じることもあります。

深部静脈とは上肢の深いところにある静脈(鎖骨下静脈など)も指す

静脈血栓塞栓症は、すべての年代で起こる可能性がありますが、特に60〜70歳代で起こりやすいといわれています。

60〜70歳代で起こりやすい要因としては、加齢と共に日常の活動領域が減り、動くことが少なくなった結果、静脈がうっ滞しやすくなると考えられています。さらに、加齢に伴いさまざまな病気を生じる可能性が高くなります。それらの病気によって血液が凝固しやすくなった結果、血栓が生じ、静脈血栓塞栓症の発症につながる可能性が考えられています。

また、男女差についてお話しすると、日本では3対1の割合で女性の症例が多いことがわかっています。

うっ滞:滞ること

先述した通り、「エコノミークラス症候群」は、静脈血栓塞栓症の通称です。もともとは、飛行機のエコノミークラスに搭乗したときに、長時間、狭い場所で座ったままの状態になることが原因で静脈血栓塞栓症を発症するケースを指していました。

航空機内

2018年現在、エコノミークラス症候群は、飛行機のエコノミークラスへの搭乗によって生じるもののみを指しているわけではありません。たとえば、長時間にわたる車の運転やバス旅行、車中泊、災害時の避難所への滞在など、あらゆる場面で発生する静脈血栓塞栓症を指します。そこで、旅行者血栓症や、車中泊血栓症といわれることもあります。

また、肺血栓塞栓症にいたらない深部静脈血栓症でも、エコノミークラス症候群と呼ばれます。

この「エコノミークラス症候群」は通称ではありますが、一般的に知られており病気のイメージがわきやすいため、我々医師が診療時の患者さんへの説明で用いることもあります。

静脈血栓塞栓症の原因は、主に、静脈のうっ滞、血管内皮障害、血液凝固異常の3つです。中でも、静脈のうっ滞がもっとも多くみられる要因であるといわれています。静脈血栓塞栓症は、これら3つの要因が関わりあって起こると考えられています。

血管内部

静脈のうっ滞とは、静脈の血液の流れが悪くなることです。たとえば、旅行時の移動や災害時の避難所生活などで足を動かさない状況が長時間続くと、下肢の筋肉ポンプが使われず、静脈血の流れが悪くなり静脈血栓塞栓症を生じることがあります。

ただし、どれくらいの時間、動かずにいると静脈血栓塞栓症につながるか明確な数値まではわかっていません。航空機移動では、6時間以上がひとつの目安といわれています。

血管内皮障害とは、血管の壁が傷付き障害されることを指します。手術や外傷、中心静脈カテーテル留置などによって血管の壁が傷害されると、修復するために血液を固める凝固系のはたらきが活性化し血栓を生じやすくなります。その結果、病気の発症につながることがあります。

また、炎症性腸疾患など深部静脈に近い部位の体に何らかの炎症が生じると、血管内皮にも炎症が波及して血液凝固異常を起こし、血栓ができやすくなることがあります。

なお、血管内皮障害を引き起こす先天的な要因としては、高ホモシステイン血症と呼ばれる病気があります。

先天的な病気がもとになって血液凝固異常が起こり、血液が体内で固まらないようにするはたらきに異常が生じ、血液が固まりやすくなることがあります。

たとえば、アンチトロンビン欠乏症やプロテインC欠乏症、プロテインS欠乏症などの生まれつきの病気が原因となり、血液凝固異常が起こることがあります。ただし、この凝固因子に関しては研究が進むにつれて、新しい原因が解明されてくる可能性も考えられます。

中心静脈カテーテル留置:治療の一環として栄養輸液や治療薬などを中心静脈から投与する際に投与ルートとなるカテーテルを中心静脈に留置すること

炎症性腸疾患:腸に炎症を起こす病気の総称

静脈血栓塞栓症は無症状のまま経過するケースもありますが、症状が現れる場合には、主に以下のような症状が現れます。なお、現れる症状や、症状の程度は患者さんによって異なります。

足の静脈に血栓を生じると、片足が腫れたり、赤くなったりすることがあります。両方の足に血栓が生じることもありますが、多くは片方の足に血栓が生じます。そのため、症状も片足に現れることが多いでしょう。

血栓が肺に到達し肺動脈につまると、主に息切れや胸の痛みなどが現れます。また、ふらつきやめまい、失神などの意識障害もよく経験する症状です。

めまいを起こす女性

静脈血栓塞栓症の進行のスピードは、非常に速い場合もあれば、緩やかな場合もあり、さまざまです。血栓が肺に到達し、肺血栓塞栓症を生じたとしても、血栓が小さければ特に症状が現れないまま経過するケースもあります。

一方、肺に到達する血栓が大きければ、瞬間死や1時間以内で亡くなるケースもあります。つまり、症状が現れる間もないまま突然亡くなることもあれば、息切れやふらつき、めまいなどの症状が現れた後に亡くなるケースもあります。

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