概要
コフィン・シリス症候群とは、知能や運動の発達の遅れ、薄い頭髪や厚い唇などの特徴的な顔立ち、手足の小指の発達異常など、さまざまな症状が生じる生まれつきの病気のことです。日本では難病の1つに指定されており、1970年に初めて報告したコフィン氏とシリス氏の名前にちなんでこの病名がつけられました。
コフィン・シリス症候群は、遺伝子の変異によって発症することが分かっており、原因となる遺伝子も特定されています。遺伝学的検査で確定診断されたコフィン・シリス症候群の患者数は今までに200人程度とされていますが、遺伝学的検査をしておらず診断がついていない人もいると思われるため、報告よりも患者数は多いと考えられています。
原因
コフィン・シリス症候群の原因については、複数の遺伝子の変異が関与していることが明らかになっています。原因となる遺伝子群は2012年に報告され、その後も新たな遺伝子が次々と発見されました。現在、主な原因遺伝子として、ARID1A、ARID1B、SMARCE1、SMARCB1、SMARCA4、SOX11、PHF6、DPF2などが同定されており、特にARID1B遺伝子変異に関連して発症することが多いとされています。
コフィン・シリス症候群は“常染色体顕性(優性)遺伝性*”の病気ですが、ほとんどの場合は病気(すなわち遺伝子異常)をもたない両親からの突然変異によって発症していることが分かっています。
*常染色体顕性(優性)遺伝:両親から1つずつ受け継いだ遺伝子の片方または両方に変異があった場合に病気を発症したり発症しやすい体質になったりする遺伝の形式。
症状
コフィン・シリス症候群の共通する症状として知能や運動の発達の遅れがあります。発達の遅れの程度はさまざまであり、重度の発達の遅れがある場合は発語が困難になることもあります。また、本疾患の特徴的な身体症状として、手足の小指の爪や先端の骨が小さい(もしくは欠損している)ことが挙げられますが、これらの症状は必ずしも全ての患者に認められるわけではありません。
そのほか、感染症に繰り返しかかったり、摂食困難などの問題から成長障害を引き起こしたりすることもあります。さらに心臓や胃腸、泌尿生殖器、目や聴覚などの生まれつきの障害、てんかんや筋緊張低下などを伴うこともあります。
検査・診断
コフィン・シリス症候群は遺伝子変異が原因で発症するため、基本的には遺伝学的検査を行うことにより診断が可能です。しかし、全ての患者に遺伝子変異が認められるわけではなく、変異が認められない場合は、知能や運動発達の遅れとともに特徴的な顔立ちや小指の形態異常といった症状が全てある場合にコフィン・シリス症候群と診断されます。
また、生まれつき起こる別の症状についての検査も検討されます。たとえば、先天性心疾患(生まれつき心臓の構造や機能に異常がみられる病気)の検査としては、心エコー、胸部X線、心電図などが行われます。
治療
コフィン・シリス症候群を根本的に治療する方法はなく、合併する可能性がある症状の早期発見・治療あるいは予防が治療の主体となります。症状は全身かつ多岐にわたるため、各分野を担う医療従事者がチームを組み、アプローチをすることが求められます。
具体的には、心疾患がある場合は病気に合わせて薬物療法や手術が検討されます。また、てんかんに対しては発作を抑えるため抗てんかん薬による薬物療法が行われます。
そのほか、難聴に対しては補聴器使用の検討など必要に応じた治療、目の異常に対しては眼鏡などによる視力矯正や手術が検討され、栄養必要量が足りていない場合は必要に応じて摂食療法や栄養補給療法などが行われます。
また、コフィン・シリス症候群は知能や運動に発達の遅れが生じるため、療育的支援(理学療法、作業療法、言語療法)を継続していくことも大切です。
予防
コフィン・シリス症候群は遺伝子変異によって引き起こされる生まれつきの病気です。そのため、発症を予防する方法はありません。
コフィン・シリス症候群は心疾患やてんかんなどのさまざまな合併症を引き起こすことがあるため、診断された場合は医師の指示にしたがって適切な治療や経過観察を行っていく必要があります。また、発達の遅れもあるため、できるだけ早い段階で療育的支援を受けることも大切です。
さらに、コフィン・シリス症候群は感染症に繰り返しかかりやすいのも特徴であるため、適正な時期に必要な予防接種をすることや、症状が重くなる前に医療機関を受診することも重要です。
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