インタビュー

コフィン・シリス症候群とはどんな病気?原因、症状、検査について

コフィン・シリス症候群とはどんな病気?原因、症状、検査について
大橋 博文 先生

埼玉県立小児医療センター 遺伝科 科長

大橋 博文 先生

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この記事の最終更新は2018年07月31日です。

コフィン・シリス症候群は、発達の遅れに加えてさまざまな体の症状が生じる可能性のある生まれつきの病気で、指定難病のひとつです。まれな病気で認知度が低く、診断のついていない方もいると想定されています。しかし、原因となる遺伝子が発見されたことにより、近年では病気に対する理解が深まってきています。

今回は、コフィン・シリス症候群の概要について、埼玉県立小児医療センター 大橋博文先生にご解説いただきました。

コフィン・シリス症候群とは、発達の遅れに加えてさまざまな体の症状が生じる可能性のある生まれつきの病気で、指定難病のひとつです。この病名は、1970年に報告したコフィンとシリスという人物の名前にちなんでいます。また、小指の末節と爪が小さいという特徴から、第5指症候群(Fifth Digit Syndrome)とも称されていました。

指の末節…指の先端から1つ目の関節までの部分。

コフィン・シリス症候群を有する患者さんについては、世界で200例未満の報告があります。昔から存在する病気ではありますが、原因遺伝子が発見されて日が浅いこともあり、まだ診断のついていない患者さんがいると考えられています。

コフィン・シリス症候群の原因は、突然変異による遺伝子異常です。突然変異であることから、コフィン・シリス症候群を発症しやすい人種などはなく、どの民族にも同じように起こると考えられています。また、発症率に男女の差はありません。

突然変異…両親から受け継いだ変異ではなく、突然発生した変異のこと。

コフィン・シリス症候群の発症に関連する遺伝子は、複数の種類が知られています。2018年時点で報告されている原因遺伝子としては、SMARCB1、SMARCA4、SMARCE1、ARID1A、ARID1B、PHF6、SOX11の7遺伝子があります。これらの遺伝子のうち、いずれかに異常が起こることによって発症すると考えられます。

また、これらの遺伝子は、がんの発生に関わる遺伝子としても知られていますが、コフィン・シリス症候群の患者さんが特にがんを合併しやすいということはありません。

コフィン・シリス症候群の原因遺伝子として報告されている遺伝子は、DNA上に保存されている遺伝子情報が適切なタイミングではたらくために重要な「SWI/SNF」というタンパク質にかかわっています。

SWI/SNFタンパク質は、ARID1A、ARID1B、 SMARCB1、SMARCE1、SMARCA4などの遺伝子が協調することで形成される物質です。そこで、これらの遺伝子に異常が起こると異常なSWI/SNFタンパク質が産生され、DNA上の遺伝子情報が不適切な形で使用されることになります。その結果、コフィン・シリス症候群の各種症状が出現すると考えられます。

コフィン・シリス症候群は、病気をもった親から子どもへ50%の確率で遺伝する可能性があります。ただし、実際には親からの遺伝ではなく、病気のない両親から生まれた子どもが突然変異によって病気を発症したという家族がほとんどであると考えられます。

お子さんがコフィン・シリス症候群と診断された場合、次のお子さんも同じ病気にかかることは、基本的にはありません。先に述べたように、病気をもっている親からその子どもへと遺伝することはありますが、親が病気をもっていない場合は突然変異による発症となるためです。

ただし、次のお子さんも同じ病気が再発する確率は完全に0とはいい切れません。それは、突然変異が偶然に連続して発生する可能性や、あるいは親が生殖細胞(精子や卵子)にモザイクの状態で異常をもつ可能性(性腺モザイク)もあるためです。しかしながら、このようなことは非常にまれであると考えられています。

モザイク…正常な細胞と異常な細胞とが混ざり合った状態。

先天異常が起こる確率とは?

子どもが何らかの先天異常(生まれつきの病気)をもって生まれてくる確率は、一般に約5%(20人に1人)です。このことは、どの夫婦にとってもあてはまります。

発達の遅れは中等度から重度であることが多く、軽度の患者さんもいます。発達の状態はお子さんにより異なります。たとえば、言葉の発達については、遅れが重度の場合には発語できない方が多く、会話での意思疎通は困難です。中等度の場合には、「パパ」「ママ」などの単語や簡単な言葉ならいえる方が多くみられます。軽度の場合には、会話が可能な方もいます。

髪の毛が薄い、眉毛が濃い、くちびるが厚いなどの顔貌の特徴がみられます。また、髪の毛が薄いという特徴がある一方、全体としては多毛傾向にあります。まつげが長い方や、おでこの産毛が多い方などがよくみられます。そのため、同じく発毛の多い病気であるルビンシュタイン・テイビ症候群と間違えて診断されることがあります。

ルビンシュタイン・テイビ症候群…16番または22番染色体にある遺伝子の異常により発症する病気。

手足ともに小指の爪や先端の骨(末節骨)が小さいという特徴があります。重度の場合には、小指そのものがない(欠損する)方もいます。コフィン・シリス症候群が第5指症候群とも呼ばれていたのは、このような小指の特徴が多くの患者さんにみられるためです。

コフィン・シリス症候群は、成長障害のひとつである低身長になりやすい病気です。これは体質の特徴であって、食生活の問題や栄養不良のために身長が伸びないわけではありません。

行動や性格について特有の性質がみられることがあります。たとえば自閉症スペクトラムの特徴や、多動傾向、強いこだわりなどが現れる可能性があります。

自閉症スペクトラム…生まれつきの脳機能障害により発症する発達障害のひとつ。

発達の遅れがみられる病気では、呼吸器の感染症が起こりやすいとされています。上手に飲み込むことができずに誤嚥(ごえん)したり、風邪をひいたときに痰が切れなかったりして、感染症の病状が重くなりやすいためです。コフィン・シリス症候群の患者さんも、幼い頃は呼吸器の状態に注意が必要です。

全身を強直させる「強直(きょうちょく)発作」や、熱が出たときに起こる「熱性けいれん」などのけいれん発作を起こす可能性があります。けいれん発作を起こす確率は約50%です。

先に述べた以外にも、起こる可能性がある症状の種類は多岐にわたります。ただし、ひとりの患者さんにすべての症状が現れるわけではありません。

たとえば、生まれつきの症状としては、胃食道逆流や便秘などの消化管異常、心疾患(心臓の構造に問題がみられる病気)、泌尿生殖器の異常、口蓋裂(上あごに割れがみられる病気)などがみられることがあります。他の症状としては、斜視近視乱視などの眼科異常、脊椎側弯、聴覚障害ヘルニアなどがみられることがあります。

コフィン・シリス症候群は多くの場合、身体所見(診察で体の異常をみること)から診断がつけられます。このような診断方法を臨床診断といいます。コフィン・シリス症候群では多くの場合、顔貌や爪の特徴が診断の参考となります。

その他、コフィン・シリス症候群だけにみられる特別な症状は特になく、初めからこの病気の可能性を疑って受診されるケースはほとんどないでしょう。実際には、お子さんに発達の遅れがみられたことをきっかけに受診される親御さんが多く、病院ではお顔の特徴をみたり小指を確認したりすることで診断されます。

コフィン・シリス症候群は、検査の対象となる遺伝子の種類が多いため、一般的な遺伝子検査で診断することは難しいと考えられます。

近年では、多くの遺伝子を同時に解析する方法が利用されるようになってきており、コフィン・シリス症候群の検査として有効と考えられます。ただし、本疾患の遺伝子検査は保険適用されておらず、検査を受けられる医療機関は限られているのが現状です。

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