記事1『TORCH症候群(トーチ症候群)の症状と種類。母体から胎児に感染するリスクについて』では、TORCH症候群と呼ばれる6種類の母子感染症について神戸大学大学院医学研究科外科系講座 産科婦人科学分野 教授の山田秀人先生にお話いただきました。山田先生はTORCH症候群をはじめとする母子感染の第一人者で、その予防・啓発にご尽力されています。今回は実際に山田先生が感じられている課題や展望についてお話いただきます。
サイトメガロウイルスとトキソプラズマはTORCH症候群の中でも症例数が多く対策を急いでいます。
*各病原体による先天性感染児の推定出生数(日本全国の年間症例数)
T: トキソプラズマ-200
O: 梅毒-20
R: 風疹-0〜5
C: サイトメガロウイルス-1000
H: 単純ヘルペス-100
2011年、厚生労働省の研究班としてTORCH症候群の日本全体の症例数を調べました。全国の産科施設の74%から報告があり、先天性感染の症例数は下記の通りでした。
2011年は伝染性紅斑(りんご病)が流行したこともあり、この病気の原因となるパルボウイルスB19による被害が大きくみられます。このようにパルボウイルスB19感染や風疹などは、その年の流行によって症例数に大きくばらつきが出ることもあります。
TORCH症候群を予防するには、まず先天性感染症の認知度を上げ、お母さんから胎盤を通じて赤ちゃんに感染してしまう病原体があるということを知ってもらう必要があると私は考えています。2014年に妊婦さんを対象に行った知識調査では、TORCH症候群に含まれる病原体の中で、サイトメガロウイルス、単純ヘルペスウイルス、パルボウイルスB19が新生児に影響を及ぼすことを7割以上の方が知りませんでした。
TORCH症候群は新生児の先天異常の原因になり、実際多くの新生児がTORCH症候群に罹患していることから、この啓発は非常に重要です。先天性感染症の認知度を高め、これから妊娠を希望する方やそのご家族が予防方法をきちんと実践すれば、この数はもっと減らすことができるはずです。
トキソプラズマ感染や梅毒などは妊娠時の検査によって発見されれば、薬によって治療することも可能です。しかしながら、日本ではTORCH症候群に対する十分なカウンセリングと検査の体制が整っているとはいえません。
日本産科婦人科学会は妊娠中に行う感染症スクリーニング検査について「この検査は受けておくべきである」という推奨レベルをABCに分けてガイドラインに提示しています。これを見るとTORCH症候群に含まれる病原体全てを網羅していないことがわかります。梅毒や風疹はガイドライン推奨レベルA検査に属し、検査をすることを推奨されていますが、注意すべきトキソプラズマはガイドライン推奨レベルC、一番先天異常出生数が多いサイトメガロウイルスのスクリーニングは記載されていません。
妊娠中に行う感染症スクリーニング検査
日本産科婦人科学会ガイドライン推奨レベルA(全国実施率:99%)
○妊娠初期1回
・HBs抗原
・HCV抗原
・HIV抗体
・梅毒血清反応
・風疹抗体○妊娠30週まで
・HTLV-1抗体
ガイドライン推奨レベルC(全国実施率:49%)
・トキソプラズマ抗体
コンセンサスなし(全国実施率:5%)
・サイトメガロウイルス抗体
・新生児尿CMV DNA*全国実施率は2011年のもの
【引用:厚生労働省「母子感染の予防と対策」(研修会資料)より】
これだけ多くの新生児がTORCH症候群のいずれかに罹患して生まれてくるにもかかわらず、十分なカウンセリングと検査の体制が整っている施設はとても少ないのが現状です。神戸大学医学部付属病院では全国に先駆けて、サイトメガロウイルスやトキソプラズマ感染の妊婦スクリーニングと新生児検査を行っています。また検査を行うだけでなく、検査で陰性でも出産まで感染せず、安全に過ごしてもらうための予防方法の指導を行ったり、生まれた赤ちゃん全員にサイトメガロウイルスDNA検査を行うことで、先天性感染と障害の発生の抑制に努めています。
このように妊娠時の検査から予防、そして新生児の健康状態を確認することで、不安の多い妊娠出産のフォローをすると同時に、このデータを集めることにより、これから妊娠出産をする方たちにとって有益なデータが蓄積されていきます。少子化が進む中、妊婦さんが安心して妊娠・出産をできるよう、これからも研究を続けていきたいと考えています。
医療法人渓仁会 手稲渓仁会病院 不育症センター センター長 兼 オンコロジーセンター ゲノム医療センター長 、神戸大学医学研究科 非常勤講師
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