
ピロリ菌は、それ自体が症状を起こすわけではありませんが、放っておくと胃潰瘍や十二指腸潰瘍、場合によっては胃がんのリスクにもなる菌です。ピロリ菌にはさまざまな検査があります。大まかに分けると「胃カメラをしなければならない検査」と「胃カメラをしなくてもできる検査」ですが、それ以外にもさらに細かく種類があり、全部で6種類があります。ピロリ菌の検査の特徴について、森下鉄夫先生にお話をお聞きしました。
以下の検査をするためには、上部消化管内視鏡(胃カメラ)を行う必要があります。その上で胃の粘膜を内視鏡により採取し(生検といいます)、検査をします。
ウレアーゼとは、ピロリ菌が持っている酵素で、試薬内の尿素を分解しアンモニアを生じます。生じたアンモニアによりpH指示薬に色調変化をおこり、この反応によって、ピロリ菌がいるかどうかを判定します。
採取した胃の粘膜に対して通常または特殊な染色をします。その後顕微鏡で観察して、ピロリ菌を見つけます。
採取した胃の粘膜をすりつぶします。その後「培養」と言う方法でピロリ菌がいるかどうかを調べていきます。5~7日ほどかかります。
以下の検査は、上部消化管内視鏡(胃カメラ)をする必要はありません。
呼気を用いる検査です。息を吐くだけでピロリ菌の検査をすることができます。最初に診断薬を飲まない状態で呼気を採取します。その後、診断薬を飲んだうえでの呼気を採取します。
ヒトはある菌などに感染すると、抗体というものを作りそれに対抗しようとします。ピロリ菌への感染でも同様に、感染後に抗体を作ります。その抗体があるかどうかを、血液や尿を調べることにより測定します。
糞便中にピロリ菌の抗原(ピロリ菌の細菌毒素や菌体成分のことを指します)がいるかを見ることにより、ピロリ菌の有無を調べる検査です。
このように、ピロリ菌にはたくさんの検査があります。また、施設によって設備があるか、ないかなどという問題もあり、行われる検査は異なりますし、選択できない検査もあります。ここからは少し難しい話になりますが、ピロリ菌の検査をそれぞれ比較していきます。ただし、どれがいいのか、どれが悪いのかという点は一概には言えないことを先に述べておきます。
検査は大まかに「胃カメラをする検査なのか、しない検査なのか」「面の検査(全体をみることができる検査)なのか、点の検査(部分をみている検査)なのか」という 2つの観点から比較します。
胃カメラをしない検査に関しては、簡便に行うことができるというメリットがあります。一方で、胃カメラをする検査にもメリットはあります。それは、胃カメラによって、胃の状態、萎縮性胃炎や胃がんなどがないかを一緒に見ることができるからです。これが胃がんなどの早期発見につながることもあります。
点の検査とは、そこに菌がいるのかいないのかを組織や検体の一部で調べる検査です。ここでは、内視鏡を用いて胃の組織を採取する「迅速ウレアーゼ試験」「鏡検法」「培養法」がそれにあたります。また、糞便抗原検査は糞便の一部分に抗原がいるかいないかを見るので、これも点の検査と言えます。その中でも鏡検法と培養法は菌そのものをみることができる唯一の方法と言えます。
以前は培養法がゴールドスタンダード(最適な方法)と言われていましたが、必ずしもそうとはいえません。培養法では、陽性であればそれでOKですが、陰性の場合には偽陰性(陰性でないのに陰性と判断されてしまうケース)が存在するため、疑いが出てきてしまうからです。つまり、胃の粘膜の一部をとり検査をした部分に菌がいなくても、ほかの部分にいる場合があるのです。これが点の検査の弱点でもあります。
一方で、尿素呼気テストは面の検査です。また、抗体測定も面の検査です。ある部分だけではなく、全体的に見ることができます。その反面、点の検査のように直接顕微鏡で菌の存在を確認することなどはできません。
以上が特徴です。繰り返しになりますが、どれもそれぞれのメリットがある検査であり、6種類すべてが採用されています。精度については以下を参考にしてください。感度・特異度のバランスが良いのは尿素呼気試験と糞便抗原測定と言えます。
記事1:ピロリ菌とは―なぜ危険?感染経路は?
記事2:ピロリ菌の検査いろいろ
記事3:ピロリ菌の治療―除菌について
慶應義塾大学医学部 客員教授
慶應義塾大学医学部 客員教授
日本内科学会 認定内科医日本消化器病学会 消化器病専門医日本消化器内視鏡学会 消化器内視鏡専門医・消化器内視鏡指導医日本消化管学会 胃腸科認定医日本ヘリコバクター学会 H. pylori(ピロリ菌)感染症認定医日本肝臓学会 肝臓専門医日本医師会 認定産業医・健康スポーツ医
慶應義塾大学、東京歯科大学市川総合病院内科学主任教授・副院長・3病院機能統括部長さらに山王メディカルセンター院長などを経て現在国際医療福祉大学で教授を務めた。胃や十二指腸、消化管疾患のエキスパートであり、ピロリ菌や感染性腸疾患では豊富な臨床経験だけでなく多数の研究業績を持つ。アメリカUCLA、フィリピン、バングラデッシュなど海外での医療・研究活動に加え、日本ーボリビア医療友好協会理事長、ボリビアキリスト教大学正教授を務めており、国際交流にも力を注ぐ。
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