ぴろりきんかんせんしょう

ピロリ菌感染症

同義語
ヘリコバクター・ピロリ感染症,H. pylori 感染症,ピロリ菌感染
監修:

概要

ピロリ菌感染症は、ヘリコバクター・ピロリ菌(H. pylori)(以下、ピロリ菌)と呼ばれる細菌が胃に感染することで引き起こされる病気です。

ピロリ菌は胃の粘膜に感染し、感染が続くと胃に炎症を引き起こします。通常、細菌は胃酸の影響により胃内での生存が困難ですが、ピロリ菌は特殊な酵素(ウレアーゼ)を生成し、アルカリ性を呈するアンモニアを作り出すことで胃酸を中和し、生存することができます。

感染経路は主に口からの感染(経口感染)です。特に乳幼児期に感染しやすいことが知られ、感染した親から子への口移しや食器の共有などが主な感染原因として考えられています。

ピロリ菌に感染しても通常は症状がなく、また感染者全員に何らかの病気が発生するわけではありません。しかし、長期の感染により、慢性胃炎胃潰瘍(いかいよう)十二指腸潰瘍胃がんなどの病気を発症するリスクが上昇します。

治療ではピロリ菌の除菌治療が行われます。これにより胃潰瘍・十二指腸潰瘍の再発や胃がんなどの病気の発生リスクを軽減させる効果が期待されています。

               図:ピロリ菌の感染

               イラスト:PIXTA

原因

ピロリ菌感染の主な原因は経口感染です。ピロリ菌が口から体内に入り、胃粘膜に定着し感染します。

ピロリ菌が入った吐物や便が上水に混入して、飲み水による経口感染する水系感染が感染経路の1つと考えられています。しかし、上下水道が整備された現在では、家族内特に母子あるいは父子感染が多くみられ、親がピロリ菌に感染している場合、子どもも同様に感染する可能性が高くなります。特に5歳くらいまでの乳幼児期において、ピロリ菌に感染した親から子への口移しや、同じスプーンや箸の使用など、唾液を介した感染が多いと考えられています。

日本のピロリ菌感染者は現在およそ3,500万人と推定されています。高齢者ほど感染率が高く、若年層には著しい低下がみられます。感染率には出生時期が影響し、たとえば1940年生まれの日本人の感染率は約64%、2000年生まれは約7%と報告されています。これは前述のように子どもの頃の衛生環境の違いが主な要因と考えられています。

一度感染したピロリ菌が自然に消失することはまれで、胃粘膜への感染は生涯にわたって持続することが一般的です。

症状

ピロリ菌に感染しても多くの場合は無症状であり、感染に気付くことは難しいですが、感染が持続して胃に炎症が起こり、胃もたれや胃の不快感などの症状が現れることもあります。また、健康診断人間ドックで受けた検査や胃がんリスク層別化検診(ABC検診)でピロリ菌感染を指摘されることもあります。

 ピロリ菌感染と関連のある病気

ピロリ菌の感染による炎症が長期間に及ぶと、胃の慢性的な炎症状態を背景として胃粘膜の萎縮すなわち萎縮性胃炎を発症し、さまざまな病気を発生するリスクが高くなります。

そのうち特に重要なのは胃がんです。ピロリ菌陽性者が生涯で胃がんになる割合(罹患率)は少なくとも男性17%、女性8%との報告もあり、胃がんの発症に深く関わっていると考えられています。

ピロリ菌感染に関連する主な病気には以下のようなものがあります。

など

検査・診断

ピロリ菌感染の検査には、内視鏡(胃カメラ)を用いる方法と用いない方法があります。複数の検査を組み合わせてピロリ菌感染の有無を確認します。

内視鏡を用いた検査方法

内視鏡検査は、口や鼻から先端にカメラがついた内視鏡を通し、直接胃の粘膜を観察したり、胃の組織を採取したりする検査です。

  • 培養法:採取した胃粘膜の組織を培養し、ピロリ菌の存在を確認します。
  • 迅速ウレアーゼ試験:組織中のピロリ菌が持つウレアーゼ酵素の活性を検出し、菌の存在を確認します。
  • 組織鏡検法:胃粘膜の組織を染色し、顕微鏡でピロリ菌の存在を確認します。

内視鏡を用いない検査方法

患者から呼気、血液、尿、便を採取し、ピロリ菌の有無を確認します。

  • 尿素呼気試験法:検査薬の服用前後で呼気を採取し、ピロリ菌の持つウレアーゼ酵素の活性を検出し、菌の存在を確認する検査です。
  • 抗体測定:血液検査や尿検査でピロリ菌に対する抗体の有無を確認します。
  • 糞便中抗原測定:糞便中に含まれるピロリ菌の抗原を検査します。

治療

ピロリ菌感染症には除菌治療を行います。除菌治療では、通常、胃酸の分泌を抑制する薬(プロトンポンプ阻害薬またはカリウムイオン競合型アシッドブロッカー)を1剤と抗菌薬の2剤を合わせた3剤の治療薬を組み合わせて1日2回、7日間飲み続けます。治療終了から4週間以上経過したら再びピロリ菌の検査を行って、除菌されているかどうか確認します。

最初に行う除菌を1次除菌といい、1次除菌でピロリ菌の除菌が不十分だった場合には2次除菌を行います。多くは抗菌薬が効かないピロリ耐性菌が原因で除菌に失敗するため、2次除菌では抗菌薬の種類を変えて行います。

薬を飲み忘れたり、自己判断で薬を減らしたりすると耐性菌ができやすくなり、成功率が下がります。そのため、用法・用量を守って薬を飲むようにしましょう。1次除菌と2次除菌の成功率はおよそ80~90%といわれています。なお、1次除菌と2次除菌までは保険診療で行えますが、3回目以降は自費となります。3回目以降の治療を希望する場合はピロリ菌外来でご相談ください。

なお、20~30歳代までに、できれば50歳までに除菌治療を受けることが望ましいとされています。

1次除菌(初回の除菌治療)の組み合わせ

  • ボノプラザン(カリウムイオン競合型アシッドブロッカー)またはラベプラゾール(プロトンポンプ阻害薬)など
  • アモキシシリン(抗菌薬)
  • クラリスロマイシン(抗菌薬)

2次除菌(2回目の除菌治療)の組み合わせ

  • ボノプラザン(カリウムイオン競合型アシッドブロッカー)またはラベプラゾール(プロトンポンプ阻害薬)など
  • アモキシシリン(抗菌薬)
  • メトロニダゾール(抗菌薬)
最終更新日:
2025年08月19日
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2025/08/19
更新しました
2017/04/25
掲載しました。

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