概要
ライ症候群とは、ウイルス感染症に続発する肝障害を伴う急性脳症のことを指します。
一般的にインフルエンザウイルスや水痘帯状疱疹ウイルスに感染した後にみられ、多くは感染症にかかっている間に解熱鎮痛薬の1つであるアスピリンを服用した子どもに生じます。
発症するとウイルス感染症の症状に続き、脳浮腫や頭蓋内圧の上昇によって激しい吐き気・嘔吐、けいれん、意識障害などが起こり、死に至ることもあります。
重症の場合には死亡率が高く、治療によって急性期を乗り越えたとしても後遺症が生じることが少なくありません。しかし、ライ症候群は1970年代まで欧米でよくみられたものの今では発生頻度が大きく減少し、日本においても非常にまれな病気となっています。
原因
ライ症候群は主にA型あるいはB型インフルエンザウイルスや、水痘(水ぼうそう)の原因である水痘帯状疱疹ウイルスに感染した後に発症し、感染中にアスピリンなどのサリチル酸系薬剤を内服することで発生リスクが35倍高まるとの報告があります。
原因はまだはっきりと分かっていませんが、ウイルス感染とサリチル酸系薬剤の内服をきっかけに肝臓のミトコンドリア(体に必要なエネルギーを作る細胞小器官)が障害され、その結果として肝機能障害や高アンモニア血症をきたし、脳症が起こると考えられています。
なお、インフルエンザの合併症としてインフルエンザ脳症があり、ライ症候群もインフルエンザ発病後に生じることがありますが、この2つは同じものではありません。
症状
ライ症候群に先行して起こる主なウイルス感染症は、インフルエンザと水痘です。インフルエンザでは高熱、喉の痛み、鼻水、頭痛、関節痛、全身倦怠感などが出現し、水痘では発熱や赤みを伴う発疹や水ぶくれがみられます。
このようなウイルス感染症の症状に続いて1週間以内に吐き気・嘔吐、悪心などが現れ、そこから1日もしないうちに精神症状が現れます。精神症状には以下のようなものが挙げられ、これは頭蓋内の圧力が上昇することで起こります。
- 健忘(過去のことを部分的または完全に思い出せない)
- 嗜眠(反応が鈍くなり眠ったような状態になること)
- 見当識障害(今いる場所や時間が分からなくなる)
- 錯乱(感情や思考が混乱する)
- 興奮
など
このような精神症状に続き、けいれん発作や昏睡(完全に意識が失われる)、呼吸停止が起こり、死に至ることもあります。また、肝臓が正常に機能しなくなることで、消化管出血がみられる場合もあります。
検査・診断
病歴や症状からライ症候群が疑われると、診断を確定するために血液検査や肝生検、頭部の画像検査(CT検査またはMRI検査)などが行われます。頭部の画像検査が正常な場合は、背中に針を刺して脳脊髄液を採取する腰椎穿刺が行われることがあります。
検査で診断を確定させ、症状と検査結果から病気の重症度も判明します。重症度はステージI~Vの5段階に分類され、ステージVが最も重症となります。
近年、ライ症候群は激減した一方、脂肪酸代謝異常症やミトコンドリア異常症、尿素サイクル異常症などの先天代謝異常症に、ライ症候群と似た症状が現れる(ライ様症候群)と報告されています。これらの病気は高アンモニア血症や意識障害、けいれんなどの症状を起こすことが多く、以前はライ症候群の一部と診断されていた可能性も指摘されています。そのため、乳幼児で意識障害や高アンモニア血症がみられる場合は、ライ様症候群である可能性も考えられます。
治療
現在のところ、ライ症候群に対する特別な治療方法はありません。したがって、症状の軽減や再発予防を目的とした薬物治療が主体で、脳のむくみを改善する薬や、けいれん発作がある場合には抗けいれん薬、ウイルス感染に対する反応を抑えるステロイド薬などで対処します。
重症の場合には速やかに全身状態の安定を図る必要があるため、気管挿管(気管内にチューブ挿入して気道を確保する方法)による人工呼吸管理や体温管理、循環管理、中枢神経管理、血糖・電解質管理、栄養管理などの集中治療が行われます。致死率はかつて80%以上にも達しましたが、治療の進歩により近年では10~30%にまで下がっています。しかし、生存例には神経学的後遺症も多く報告されています。
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