我が国は平均寿命が延びて、世界有数の長寿国となっています。長い人生を得られることは歓迎すべきことですが、要介護状態になる65歳以上の方の増加が社会問題となっています。前の記事「ロコモティブシンドロームとは。定義を知って対策しよう」では、要介護状態になる方のうち、整形外科疾患が原因である方が20%を越えていることについてふれました。
この記事では、ロコモティブシンドロームについて啓蒙を続けておられるNTT東日本関東病院整形外科主任医長・大江隆史先生に、ロコモティブシンドロームの原因について解説していただきます。
ロコモティブシンドロームの原因は、筋力が低下しかねない生活習慣や、スポーツのやりすぎや事故による怪我、そして骨や筋肉の病気に対して適切な治療を行わないことです。「運動習慣のない生活」「痩せすぎや肥満」「活動量の低下」逆に「スポーツのやりすぎ」なども、運動器を傷めて、将来ロコモティブシンドロームにつながる可能性が高くなります。
若い時期から適切な運動を行って筋力を維持しなければ、将来ロコモティブシンドロームになる可能性が高くなります。ただし、運動をすればいいというものではありません。骨や関節を傷める激しい運動を行えば、同じくロコモティブシンドロームになる可能性が高くなります。
また、体の痛みやだるさを「年齢のせいだから」と放置していると、運動器の衰えに気づかず、さらに状態を悪化させる可能性もあります。運動器の疾患が起こると、歩行困難が起こる可能性時期が近づいている場合もありますから、早く適切な治療を開始することが重要です。
整形外科領域で一般的にみられる疾患で、ロコモティブシンドロームを引き起こし、歩行困難につながる病気は、実は多くありません。骨粗しょう症、関節の軟骨の変性症、脊柱管狭窄症の3つです。
骨粗しょう症は困ったことに、それにより骨折をしないかぎり患者さん自身が症状に気づくことがありません。骨密度が低下して骨折を起こしたときに医療機関を受診して、はじめて骨粗しょう症と診断される方が多いと思われます。
骨粗しょう症による骨折を起こした場合、人工の関節を入れる手術や骨接合術などをして治療します。骨折自体相応の痛みを伴いますから、治って数年は患者さんご自身が非常に気を付けることが多いです。そこで骨密度を高めるお薬を飲んだり、筋肉トレーニングに励まれますが、時間が経過すると大多数の方が忘れてしまいます。そのため、別の骨が折れたり、人工関節が入っている部分のすぐ下が折れたりして、再び病院で手当てを受けることになります。
関節の軟骨の変性症、脊柱管狭窄症も同様です。整形外科医の定期的な診察を受けて、治療が必要ならばしっかり治療を行うこと。治癒したら、良い状態を維持するための方法を医師と相談し、生活習慣を変えるように努力し、また適切なトレーニングを行う習慣を持ち続けることが大切です。
運動器というのは、神経や筋肉、軟骨、靭帯などの組織すべてで機能していますので、どのようなことを続ければ健康を維持できるのか、なかなか理解しにくいところです。しかし、運動器をいたわりながら80年使い続けることができれば、介護を必要とせずに快適な生活を送れるということでもあります。そのように意識を変えて対応することがとても重要です。
NTT東日本関東病院 院長、ロコモ チャレンジ!推進協議会 委員長
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