概要
ロタウイルス感染症とは、ロタウイルスに感染することで生じる急性胃腸炎のことです。
ロタウイルスの主な感染経路は糞口感染(経口感染)で、感染者の便に含まれるウイルスが手指を介して口に入ることで感染し、激しい下痢、嘔吐、腹痛、発熱などの症状が現れます。
ロタウイルスはごく一般的なウイルスで、日本では毎年3月~5月に乳幼児を中心に流行し、5歳までにほぼ全ての子どもが感染するといわれています。2020年からワクチンの定期接種が導入され感染者は著しく減少しています。
初めて感染したときに症状が強く現れるため、特に乳幼児では脱水がひどくなったりして入院が必要になることもあります。
原因
多くの場合、感染者の便に含まれるロタウイルスが口に入ることで感染します。これを糞口感染といい、口から入ったロタウイルスが小腸の粘膜まで届き、そこで感染が起こります。そしてウイルスが小腸の細胞を破壊し、その結果として胃腸炎が引き起こされます。
感染した人の便中には大量のウイルスが含まれ、その数は便1gあたり1,000億~1兆個といわれています。ロタウイルスの感染力は非常に強く、10~100個ほどのウイルスが口に入ってしまうだけで感染します。
また、感染者の唾液や嘔吐物にもウイルスが含まれているという報告もあり、唾液や嘔吐物が直接あるいは間接的に口に入ることで感染する可能性もあります。
症状
ロタウイルスに感染すると、平均2~4日の潜伏期間を経て、典型的には激しい下痢(しばしば白色便)と嘔吐がみられます。発熱や腹痛が生じることもよくあります。
激しい下痢のために脱水症に陥ることもあり、その場合には元気がなくなる、顔色が悪くなる、唇や口の中が乾燥する、皮膚の張りがなくなる、脈が速くなる、尿量が減るなどの症状がみられます。時に重度の脱水症や、脳症、心筋炎などの合併症を起こし死に至ることもあるため、早めの受診が大切です。
ロタウイルスはごく一般的なウイルスで、生涯のうちに何度も感染する可能性があります。初めて感染したときに症状が強く出るため、乳児の場合は特に注意が必要です。一方、大人は何度も感染を経験するため、無症状で経過することがほとんどです。
検査・診断
ロタウイルス感染症では、症状や周囲の感染状況などから総合的に判断し、この病気が疑われると多くの場合、便を用いた迅速診断検査(イムノクロマト法)で診断されます。
迅速診断検査は便中にウイルスがいるかを確認する検査で、15~20分で結果が判明します。 ただし、結果がすぐに出る反面、感染していても陽性にならないこともあります。
そのほか、アウトブレイク時(通常の発生レベル以上に感染症が増加すること)には、ウイルスの型を特定するためにPCR法/核酸シークエンスが用いられる場合もあります。
治療
現在のところロタウイルス感染症に対して効果的な薬はありません。したがって、脱水にならないようにするための水分補給や、体力の消耗を抑えるための栄養補給など対症療法が治療の中心となります。
多くの場合このような治療によって3~5日程度で軽快しますが、脱水がひどい場合には点滴による輸液が必要になります。入院下での治療が必要になることもあります。
なお、ロタウイルス感染症では激しい下痢がみられますが、下痢止めを使用するとウイルスの排出を妨げてしまうことから、下痢止めを使用しないほうがよいでしょう。
予防
ロタウイルスの主な感染経路は便や吐物による糞口感染(経口感染)です。そのため、感染者の便や吐物を処理するときには使い捨てのゴム手袋などを使用し、オムツはポリ袋などに入れてほかの物につかないようにしましょう。
便や吐物が衣類についてしまった場合には、次亜塩素酸ナトリウム(家庭用塩素系漂白剤)を用いてつけおき消毒し、個別に洗濯しましょう。
また、手洗いの徹底も必要です。ただし、ロタウイルスはアルコール消毒が効きにくいため、流水とせっけんで30秒以上しっかりともみ洗いします。
しかし、ロタウイルスの感染力は非常に強く、このような取り組みを行っても完全に予防することが難しいものです。日本では乳児(生後8~15週未満)を対象とした2種類のワクチンが承認されているため、乳児に限ってはワクチンの接種を検討するのもよいでしょう。
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