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乳がん手術で失った乳房を新しく作る、乳房再建術とは?

乳がん手術で失った乳房を新しく作る、乳房再建術とは?
山本 康 先生

独立行政法人 労働者健康安全機構 横浜労災病院 形成外科部長

山本 康 先生

目次
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この記事の最終更新は2018年06月13日です。

乳がんの手術で乳房を失ってしまったとき「乳房再建術」という手術があることをご存知ですか。乳房再建術には、お腹や背中の組織を乳房に移植する方法と、インプラントという人工乳房を使用する方法があります。今回は独立行政法人労働者健康安全機構 横浜労災病院形成外科の部長である山本康先生に、乳房再建術についてお話を伺いました。

乳がんの手術治療で失った乳房を新しいものに作りかえる「乳房再建術」には、大きく2種類の方法があります。

<乳房再建術の方法>

  • 自家組織(腹部または背中の組織)によるもの
  • インプラントによるもの

自家組織による乳房再建術では、腹部または背中の組織を使用して乳房の再建を行います。

腹部の組織を使用する乳房再建術

腹部の組織を使用する乳房再建術には、腹直筋穿通枝皮弁法(ふくちょくきんせんつうしひべんほう)と腹直筋皮弁法(ふくちょくきんひべんほう)があります。

腹直筋通枝皮弁法とは、腹筋のなかを走っている血管を皮膚や皮下脂肪につけたまま採取し、胸骨の裏の動脈や背筋の動脈に顕微鏡下で吻合する方法です。

一方、腹直筋皮弁法は、血管を切り離さずに腹筋ごと移植する方法です。血管トラブルが起こりにくい方法ですが、片方の腹筋をすべて使用してしまうため、一時的な筋力低下や将来的な腹壁瘢痕ヘルニアなどの症状がでることがあります。

腹部組織による乳房再建では、ボリュームのあるお腹の皮下脂肪を使用できるため、大きな乳房を再建する際には第一選択となることが多いです。しかし、将来的に妊娠・出産を希望している女性の場合、腹部組織を採取することは好ましくないため、後述するいずれかの方法で乳房再建を行います。

背中の組織を使用する乳房再建術

背中の組織を使用する乳房再建術では、広背筋という大きな筋肉と表面の皮下脂肪を使用します。脇の下にある栄養血管を軸にして、乳房に移植することができます。そのため、血管を切り離す必要がなく、血管トラブルが起こりにくいことが特徴です。また、広背筋の機能を代償してくれる筋肉が他にあるため、機能的な問題も少ないこともメリットといえます。

しかし、腹部ほど大きなボリュームを取ることができないため、大きな乳房再建を行う場合で腹部の組織が使用できない場合には、インプラントを併用することもあります。

インプラント(人工乳房)による乳房再建術は2回に分けて手術を行う必要があります。

インプラント(人工乳房)による乳房再建術

1回目の手術では、エキスパンダーという皮膚を膨らませる風船を挿入します。病院によっては乳がんの切除術と同時にエキスパンダーの挿入をしている施設もあり、横浜労災病院でも乳がんの切除術と同時に行っています。

エキスパンダーは、大胸筋の下を剥離して作成したポケットに挿入します。このとき、感染回避のために、傷が開いてもエキスパンダーが露出しないようにすることが重要です。

エキスパンダーを挿入したら、2〜3週間ごとに数回に分けて生理食塩水の注入を行い、皮膚を膨らませていきます。

2回目の手術でインプラントを挿入します。このとき、乳房の形やインプラントの位置を微調整しながら手術を行います。インプラントの挿入時期は、当院の場合1回目の手術から約8か月後です。これは、エキスパンダーで伸ばした皮膚が十分に再構築されるのに約8か月かかるためです。

乳房再建を行うにあたり、自家組織を使用するかインプラントを使用するかは、乳房の形やサイズ、患者さんの身辺環境やリスク許容度などに合わせて選択します。また、患者さんのニーズに合わない乳房再建は理想的ではないため、患者さんの希望を十分に考慮したうえで、再建方法を決定します。

自家組織の大きなメリットは「自然に揺れる乳房」を作ることができる点です。乳房は体を起こしていれば下に、寝れば横に流れるという流動性があり、これはインプラントでは再現することはできません。また、術後長期のメンテナンス検診や破損などによるトラブルに心配がないことも自家組織のメリットです。

一方、デメリットは乳房以外の正常な部分に大きな傷がつく点です。また、手術時間や術後の安静期間が長く、身体的な負担が大きいデメリットもあります。

さらに、血管吻合を伴う術式の場合には、血管が詰まり再建した乳房を失うリスクがわずかにあります。このようなデメリットを患者さん自身が許容できるかどうかが、自家組織による乳房再建術を選択するための大きな条件になります。

インプラントのメリットは、手術による身体的な負担が少ないことです。乳がんの手術で必要な切開以外に傷がつくことはありませんし、手術時間や術後の安静期間が短いことは大きなメリットです。

デメリットとしては、2回の手術が必要になることです。また、既製品のインプラントを使用するため、厳密な対称性が期待できないデメリットもあります。

山本康先生

乳房は、女性特有の機能を持つ臓器であるとともに、女性の輪郭を表現するための象徴的なものでもあります。そのため、乳がんの治療は命を救うという目的に加えて、患者さんが女性であり続けるためのサポートを行うことも重要な治療目的です。

乳房再建は本物の乳房を作る技術ではありませんが、「本来あるべき形があるべきところのある」という安心感は、長い乳がん治療を乗り越えていくにあたり、大きな心の支えになるのではないでしょうか。

また、乳がん術後から長い時間が経っていても乳房再建を行うことは可能です。そのため、「あのとき乳房再建をすればよかった」と思っている方は、ぜひ乳房再建術を行っている病院で一度相談してみていただきたいと思います。
 

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