がんの中でも特に女性が多く罹患する乳がん。罹患率は年々増加しているものの、早期に治療できれば治りやすいがんであるため、定期的に検査を受けて早期発見することが大切だといわれています。今回は、乳がんの検査の種類や、受診すべきタイミング、乳がん検診の重要性などについて、菊名記念病院 乳腺外科部長の井手 佳美先生に伺いました。
本記事では、乳がんに関するさまざまな疑問についてお答えします。以下の項目をクリックすると回答にジャンプします。
A:「セルフチェックで異常に気付いたら」
A:「乳がん検診の重要性――乳がんを早期発見すべき大きな理由」
A:「乳がん検診を受けるべきタイミング」
A:「超音波検査とは」
A:「細胞診、マンモトーム生検とは」
A:「乳がんの診断が付いた方に向けて」
A:「マンモグラフィとは」
日本人の2人に1人が生涯でがんになるといわれていますが、がんの中でも女性が一番かかりやすいのは乳がんです。罹患率としては40歳代後半から60歳代後半に発症のピークがあります。若い年代でも発症する可能性があるとともに、閉経後の方でも罹患率の高い病気です。
しかし乳がんは、早期発見して必要な治療を適切に行えば治癒率の高い病気でもあります。女性乳がんの10年相対生存率は、ステージ(病期)Iでは99.1%、ステージIIでは90.4%となっています*。このように、できる限り早く発見して治療を始めることが大切ですが、実はほとんどの早期乳がんには痛み・しこりなどの自覚症状が伴いません。早期発見するには、定期的に乳がん検診を受けることが重要になります。
*“がん診療連携拠点病院等院内がん登録 2008年10年生存率集計 報告書”. 国立がん研究センター. 2021-04.
乳がんのセルフチェックとして、乳房に触れてしこりの有無を確認する方法が知られていますが、がんが小さい段階では触れられないことが多々あります。小さなしこりを触診で見つけることは医師でも難しいため、早期発見の観点ではあまり適した方法ではないといえるでしょう。乳がんの中には乳首から分泌液が出たり乳首がただれたりすることが発見のきっかけになるタイプもあるため、視診は必要ですが、特に重要なのは乳がん検診などで行われるマンモグラフィや超音波(エコー)検査による画像診断です。
乳がんの診断をするためには、主に次のような検査が行われます。
マンモグラフィは、乳房を圧迫しながらX線を用いて撮影する検査方法です。硬い乳がんのしこりがあると上手く厚みが押しつぶされないため、透過性の上がらない部分が白く見える仕組みです。
円形に広がっている乳房を折り畳み、プラスチックの板で圧迫して撮影するため、多少の痛みを感じることがあります。乳房を折りたたむ際、均等に伸ばすべきところにシワが寄ると痛みが生じやすくなるため、当院ではマンモグラフィの撮影に習熟した技師が撮影にあたっています。
乳房が大きい人、小さい人は痛みがより強いといわれることがありますが、私の経験上、痛みの感じ方は患者さんによってさまざまです。大まかにいって若い方のほうが痛みを訴える傾向があります。若い方では、マンモグラフィではなく超音波検査で代替して差し支えない場合もよくありますので、痛みが強い場合はご相談いただければと思います。
超音波検査は、ゼリー状の薬剤を乳房に塗って体の表面に超音波を当て、体内の臓器から反射する超音波を利用して画像化する検査です。エコー検査とも呼ばれます。40歳代の女性を対象とした試験では、マンモグラフィ検診と超音波検査を併用することで、マンモグラフィ検診単独よりも早期の乳がん発見率が上がることが示されています。
マンモグラフィや超音波検査を行って、良性か悪性かを調べる必要のある病変が確認された場合には、針を使って組織や細胞を採取して調べる検査を行います。これには、細胞を見る“細胞診”、組織を見る“針生検”、“マンモトーム生検”という種類があります。マンモトーム生検は針生検と似ていますが針が太く、針の中に連続して組織を採取する仕組みが付いているためより多くの組織を吸引して採取できる方法です。
皮膚に残る傷あとは小さくて済み、もっとも針が太いマンモトーム生検でも4、5mm程度です。また、歯科で用いられるような細い針で局所麻酔をかけて痛みを抑えるため、薬が入るとき以外の痛みはほとんどありません。
そのほかの検査としては、オンコタイプDX乳がん再発スコアプログラム、遺伝性乳がん卵巣がん症候群(hereditary breast and ovarian cancer syndrome : HBOC)を診断する遺伝学的検査などがあります。
オンコタイプDX乳がん再発スコアプログラムは、乳がんの患者さんの約7割を占めるホルモン受容体陽性HER2陰性(Luminal type:ルミナールタイプ)と呼ばれるタイプについて、抗がん剤治療が必要かどうかを遺伝子的に調べる検査です。一般的な乳がんの組織の検査はタンパク質を診断するものですが、ルミナールタイプは腫瘍内の遺伝子を調べることでタンパク質よりも的確に抗がん剤の必要性を評価できることが分かっています。現在は健康保険の適用外ですが、2021年8月に厚生労働省より承認を取得し、近日中に保険診療となることが期待されています。
遺伝学的検査とは、遺伝性乳がん卵巣がん症候群の原因遺伝子であるBRCA1とBRCA2について、異常の有無を調べる検査方法です。家系的な乳がんのリスク背景を持っている可能性があるなど、条件に当てはまる方は保険診療で実施が可能です。
乳がん検診は、各自治体が補助を行って無料あるいは受診者の一部負担で、40歳以上の女性は2年に1回定期的に受診できるような制度が整っています。自覚症状のない早期にがんが発見される可能性を高められるよう、2年に1回の受診が適切と考えられます。しかし、中には急速に進行するタイプの乳がんもあるため、検診のほかにもセルフチェックとして自己触診を行うことが推奨されています。
乳がんの主な症状としては次のようなものがあります。
月経周期などのタイミングによっては乳房が固くなり、しこりのように触れるときがあります。しこりがあると感じたら1週間後にまた確認してみて、やはり触れるという場合には受診するとよいでしょう。
乳房の痛みや違和感は、乳房の病気とは関連していないこともあります。しかし、直接は関連しない症状での受診をきっかけに乳がんが発見されることもありますので、前回の検診から1年経つなど「しばらく検診を受けていない」と思ったら受診することをおすすめします。
産婦人科や乳腺外科は女性がよく受診する診療科ですが、それぞれ役割が異なります。産婦人科では、若い方は子宮頸がん、年齢を重ねてきたら子宮体がんの検診を受けましょう。乳腺外科では乳がんの検診を行っています。乳がん検診を受けて要精密検査となった方、セルフチェックをして異常があると気付いた方は、早めに乳腺外科にご相談ください。
定期的に乳がん検診を受けている方は、“異常なし”の結果が続くと受診した意味がないと思われるかもしれません。また、「乳がんかもしれない」と思うと急に不安になり、抗がん剤治療を受けたり手術で傷が残ったりするのが不安だからと、検診に行くのをためらってしまう方もいらっしゃるようです。しかし、検診は“異常なし”の積み重ねが大事です。乳がんになったとき早期発見できるよう、検診を習慣づけていただくことが大切だと思います。
40歳頃から乳がんは増えてきますが、40歳代~50歳代前半だと「自分ががんになるとは思ってもみなかった」という方も多いでしょう。今まで元気だった方はなおさらだと思います。しかし、がんは誰でもなり得る病気であり、乳がんの罹患率は増加していることを、まずはよく認識していただくことが大切だと考えています。早期発見できれば治療可能な病気だからこそ、定期的に乳がん検診を受けることが重要です。
検査して異常が見つからなかったとしても、私たちは「大した病気ではないのに受診するなんて」とは決して思いません。皆さんに安心を得てもらうことも私たちの大事な仕事です。異常がないと確認することも大切ですので、検診を身近に捉えていただけたらと思います。
当院は『乳がん検診の受診率向上のために――菊名記念病院 乳腺外科の取り組み』でも述べるように、検診の際は女性スタッフが対応するなど、受診しやすい環境づくりに取り組んでいます。ぜひ、お気軽にご来院ください。
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菊名記念病院 乳腺外科 部長
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