概要
先天性低ガンマグロブリン血症とは、体を細菌感染などから守る“免疫ガンマグロブリン”の量が生まれつき少なかったり、正常に機能しなかったりする病気のことです。一般的には、血液中に含まれる免疫ガンマグロブリンの量が健常児の20%以下の場合、この病気と考えられます。
この病気では細菌感染から体を守る免疫ガンマグロブリンが生まれつき十分にないため、さまざまな細菌感染を起こしやすくなります。しかし、生後間もない頃は母体から受け継がれた免疫ガンマグロブリンが存在するため、それらが体内から消失し始める生後6~12か月頃から中耳炎、副鼻腔炎などを起こしやすくなり、重症な場合には肺炎、敗血症、髄膜炎などを発症して命の危機に瀕することも少なくありません。また、悪性リンパ腫などのがんを発症しやすいともいわれています。
治療は不足した免疫ガンマグロブリンの投与のほか、細菌感染などを防ぐための予防的な抗菌薬の内服など厳密な管理が必要です。
原因
先天性低ガンマグロブリン血症の主な原因は、遺伝子の異常によるもの、免疫ガンマグロブリン以外の免疫に関与する細胞の異常によるものがあります。それぞれの特徴は次のとおりです。
遺伝子の異常によるもの
免疫ガンマグロブリンは、体内に侵入した細菌などの病原体を攻撃して体を守るはたらきを持つ“抗体”のことです。この“抗体”を正常に生成するための遺伝情報は、X染色体(性別を決定する性染色体の一種)上にあるBTK(ブルトン型チロキシナーゼ)と呼ばれる遺伝子に含まれているとされています。このため、このBTKに異常が生じるとうまく免疫ガンマグロブリンを産生することができなくなり、先天性低ガンマグロブリン血症を発症するとされています。なお、BTKの異常による先天性低ガンマグロブリン血症のことを“X連鎖低ガンマグロブリン血症”と呼び、男児が発症しやすいことが分かっています。
免疫ガンマグロブリン以外の細胞の異常
ヒトの体内で免疫に関わる細胞にはT細胞とB細胞と呼ばれる2種類の細胞があり、上で述べたX連鎖低ガンマグロブリン血症は、ガンマグロブリンのもととなるB細胞がうまく成熟しなくなることによって引き起こされるものです。
一方で、T細胞の異常によって免疫ガンマグロブリンが不足することもあります。また、T細胞・B細胞ともに正常であっても、生後6か月頃から一時的に免疫ガンマグロブリン値が低下する“乳児一過性低ガンマグロブリン血症”、乳児期以降も低値が続く“分類不能型免疫不全症”や“X連鎖リンパ増殖症候群”などの病気も低ガンマグロブリン血症を引き起こすことが知られています。
症状
上で述べたとおり、先天性低ガンマグロブリン血症はさまざまな原因によって引き起こされますが、免疫グロブリンが不足することにより感染症を起こしやすくなるという症状は共通しています。
一般的には生後6~12か月頃から風邪を引きやすく、中耳炎や副鼻腔炎、気管支炎などを繰り返すようになり、一度発症すると治療をしても回復まで時間がかかるといった特徴が目立ち始めます。なかには肺炎や敗血症、脳炎など重篤な感染症に進行することも少なくありません。
このような状態が繰り返されるため、発症した子ども には体重増加不良や発育不良が見られることも多く、炎症を繰り返すことで気管支拡張症などの後遺症を引き起こし、日常生活に大きな制限が生じるケースも多いとされています。さらに、健常者の50~100倍ほど悪性リンパ腫などのがんにかかりやすくなることも分かっています。
この病気を発症している子どもがBCGなどの予防接種を受けると、骨髄炎や重篤な肺炎などを発症することもあるため、家族歴などがあるときは注意が必要です。
検査・診断
先天性低ガンマグロブリン血症が疑われた場合、第一に行うのはIgGやIgA、IgMなどの量を調べるための血液検査です。この病気では、これらの免疫グロブリンは正常値の20%以下の数値となっています。そして、これらの免疫グロブリンが低値であることが分かった場合、血液中のT細胞とB細胞(リンパ球)などの量を調べる検査が行われます。
多くはこれらの血液検査の結果によって診断が下されますが、遺伝が関与していると考えられる場合は遺伝子の異常を調べる遺伝子検査を行って確定診断がされるケースも少なくありません。
治療
先天性低ガンマグロブリン血症の第一の治療は、免疫の作用を高めるために不足した免疫グロブリン製剤を投与する“補充療法”です。補充療法は感染症にかかったときだけでなく、感染症を予防するために定期的に行われます。
また、感染症予防を目的として抗菌薬の予防的な内服治療を行うこともあります。特に中耳炎などの感染症を繰り返すようなケースでは、予防的な内服も非常に重要な治療です。
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