治療
感染性腸炎や炎症性腸疾患が原因で下痢による切迫性便失禁を生じている場合は、その原因疾患の治療を行います。それ以外では、以下の治療を体に負担の少ない順番に行っていきます。
食事指導
切迫性便失禁では、明らかな原因がなくても軟便や下痢になっていることが多いので、まずは食物繊維の摂取量を増やす食事指導をします。
薬物療法
食事指導でも切迫性便失禁が改善しない場合は、ポリカルボフィルカルシウムという薬を内服して便の硬さを正常化します。
ポリカルボフィルカルシウムは、過敏性腸症候群の治療薬でもあります。目標は、食べ頃のバナナか、それよりもやや硬い程度です。ポリカルボフィルカルシウムの内服でも十分に便が硬くならない場合は、ロペラミド塩酸塩という下痢止めを内服しますが、内服量が多いと便秘になる危険性があるため、最初は細粒による少量内服から開始し、必要に応じて増量します。
骨盤底筋収縮訓練・バイオフィードバック療法・直腸感覚正常化訓練
外肛門括約筋機能低下が切迫性便失禁の原因である場合は、外肛門括約筋は随意筋であるため、肛門括約筋を締めて収縮力を高める骨盤底筋収縮訓練が効果的です。また、骨盤底筋収縮訓練を効果的に指導するバイオフィードバック療法も有用です。
さらに、過敏性腸症候群などで直腸感覚過敏が切迫性便失禁の原因になっている場合は、直腸バルーンを用いた直腸感覚正常化訓練が有効な場合があり、バイオフィードバック療法に併せて施行します。
経肛門的洗腸療法
専用の器具を用いて1~2日に1回,経肛門的に300~1,000mlの微温湯で洗腸し、大腸を空虚化することによって便失禁や便秘の症状を軽減する治療法です。
洗腸には手間と時間がかかるため、ほかの保存的療法で症状が十分に改善しない重症の便失禁や便秘症の患者が対象で、現時点では、直腸手術後を除く脊髄障害が原因の難治性排便障害だけが保険適用です。
肛門括約筋形成術
経腟分娩時肛門括約筋損傷が切迫性便失禁の原因になっている場合は、断裂した肛門括約筋を縫合して修復する肛門括約筋形成術が有効です。
症状改善率は手術後1年で約80%と短期成績は良好ですが、次第に悪化・再発して5年後には約50%に低下するので、長期成績があまりよくないことが問題です。
仙骨神経刺激療法
手術で神経刺激装置を皮下に植え込んで、排便に関与する仙骨神経を持続的に電気刺激することで便失禁を改善する外科治療です。保存的療法では便失禁症状が十分に改善しない患者が対象で、低侵襲で、試験刺激で有効症例を選別でき、試験刺激で無効なら刺激リードを抜去して元の状態に戻れる可逆性などが特徴です。
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