原発性胆汁性肝硬変は、病名に肝硬変とあるため肝硬変へと移行する病気だと思われていることも少なくありません。実際には、肝硬変へと進行することは少なく、約8割の患者さんは自覚症状がないままに経過します。そのため、病名の変更が現在議論されているのだそうです。福岡山王病院で難病治療に取り組む石橋大海先生に原発性胆汁性肝硬変における日常生活での注意点などについてお話を伺いました。
原発性胆汁性肝硬変(PBC)は、症状のない「無症候性」と、症状を呈する「症候性」の二つのタイプに分類され、「無症候性」から「症候性」へ進みます。PBCと診断された患者さんの7~8割は自覚症状がない無症候性タイプで、多くの方は診断後も無症状のまま生活されます。
PBCは、その進行の度合いによって、「緩徐進行型」「門脈圧亢進症先行型」「黄疸肝不全型」の3つのタイプに分けられます。緩徐進行型というのは、長い期間無症候性のまま徐々に進行するタイプのもので、PBCの患者さんの約7~8割がこのタイプにあたります。門脈圧亢進症先行型は、黄疸が現れることなく、食道静脈瘤が比較的早くに出現するタイプで、黄疸肝不全型は、早期に黄疸が出現して肝不全に至るというタイプのものです。
ほとんど症状がない無症候性PBCの患者さんの場合、日常生活を送る中での制限といったものはほとんどありません。このタイプは血液検査で、胆道系酵素であるアルカリホスファターゼ(ALP)やγGTPの上昇や、PBCに特有の抗ミトコンドリア抗体(AMA)が陽性であるだけで、治療の第一選択薬であるウルソデオキシコール酸(UDCA : ursodeoxycholic acid)を内服することになります。
UDCAが治療として使われるようになって、PBCの経過は明らかに改善しました。ほとんど症状のない無症候性の患者さんにおいては、UDCAを飲み続けることで、病気ではない人と同じような日常生活を送ることが可能となりました。
UDCAは、昔から使用されている薬で、もともと体内にある成分でできているため比較的安心して使用できる薬剤です。1日に6錠、基本的に生涯飲み続けなければならないという負担はありますが、副作用も少なく、値段も安価な薬です。
安静にする必要もなく、仕事を続けることも可能です。むしろ肥満に注意してもらう必要があります。最近では、食事のエネルギー制限や適度な運動といったことについて指導を行っています。
ただ、注意しなければならないこととしては、処方された薬をきちんと服用するということです。勝手な判断で服用を中断したり、量を減らしたりすると病気が進行する可能性がありますので、主治医の先生の指示をしっかりと守るようにして下さい。
病気が進行して、肝硬変の状態になった場合には、食事や運動など、日常生活における注意が必要になってきますので、この点についても主治医の先生と相談するようにして下さい。
無症候性PBCの約10~40%、5年間では約25%の患者さんは症候性PBCへと移行します。黄疸期になると予後は不良になります。5年生存率は、血清ビリルビン値が2.0mg/dlでは60%、5.0mg/dlでは55%、8.0mg/dlを超えると35%となっています。
メイヨーモデル(米メイヨークリニックで使われている予後を判断する指標)の生存予測は、年齢とビリルビン値、アルブミン値、プロトロンビン時間、浮腫の有無から計算されます。一方、日本肝移植適応研究会では、ビリルビン値とAST/ALTで判断されます。症候性PBCの死因については、肝不全と食道静脈瘤の破裂による消化管出血が大半を占めています。
PBCは、病名に「肝硬変」とあるため、肝硬変様の症状が現れると思っている方も少なくありません。現在は有効な薬も現れ、服用することで肝硬変へと進行する方は少なくなりました。そのため、病名を変更してほしいという世界的にも患者団体からの申し出があり、現在、病名の変更に向けた議論が進められているところです。有力な候補としては、「原発性胆汁性胆管炎」です。英語表記では「Primary biliary cholangitis」ですので、PBCはそのまま使用することができるということです。
国際医療福祉大学 名誉教授
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