概要
挫滅症候群とは、長時間にわたり手足や臀部を圧迫され続け、その後解放されることで起こる病態です。圧迫された部位や時間などによっては、圧迫の解除後、急性腎不全やショックを起こし、死に至ることもあります。
筋肉が豊富な足などの部位が、4~6時間にわたり圧迫され続けることで発症すると考えられており、地震や戦争など、特殊な状況下で発生することが多いといわれています。ただし、1時間以内の圧迫で圧挫症候群を発症した例もあります。日本では1995年の阪神淡路大震災の際に多発したことで知られています。
なお、挫滅症候群という病名のほかに、英名のクラッシュ・シンドローム(Crush Syndrome)、あるいは圧挫症候群という名称が用いられることもあります。
原因
倒壊した家屋に挟まれるなど、何らかの重量物に圧迫され続けた傷病者が、救助後に挫滅症候群を発症し、急性腎不全やショックを起こすことがあります。この原因は、圧迫により血流が遮断され、筋肉の障害が起こった後、再び血液が全身を巡ることにあります。
圧迫され続けている筋肉の細胞では、細胞膜が破壊され、内容物の流出が起こります。これを横紋筋融解といい、具体的にはクレアチンキナーゼやミオグロビン、カリウムなどの物質が筋細胞の外へ流れ出し、圧迫された部位付近に滞留します。
その後、重量物が取り除かれて圧迫が解除されると、停滞していた物質は血流に乗って全身を巡るようになり、高カリウム血症などが起こります。血液中のカリウム濃度が高くなる高カリウム血症が進行すると、致死的な不整脈を起こしやすくなり、心停止に至ることがあります。
また、血液中に流出したミオグロビンが尿細管を塞いでしまい、急性腎不全をきたす原因となります。急性腎不全を発症することで、先述の高カリウム血症が助長されることもあります。圧迫により組織が障害され、血流の再開により血液中の水分が血管の外へと急速に漏れ出てしまい、血圧が低下してショックが起こることがあります。
また、水分の漏出により下肢が腫れていきます。足などの局所では、重度の腫れによりコンパートメント症候群を併発することもあります。
症状
挫滅症候群を発症した場合、以下のような身体所見がみられます。
- ショック、血圧低下:血管内皮が障害され、血管外へと水分が漏れ出ることで循環する血漿(液中の液体成分)量が低下します。ただし、意識や血圧などのバイタルサインが正常な場合もあるといわれています。
- 損傷した手足(四肢)の著しい腫脹
- 圧迫された手足(四肢)の運動・感覚神経障害:両足に麻痺が起こっている場合は、脊髄損傷との鑑別が必要です。脊髄損傷による下肢の麻痺の場合は、肛門括約筋の弛緩や持続的な陰茎の勃起が認められます。
- 褐色尿(ポートワイン尿):圧迫され障害された筋細胞から漏れ出たミオグロビンが尿中に排出され、尿の色が褐色や黒色になります。
検査・診断
挫滅症候群を発症する方のなかには、救出までは意識もはっきりしており、比較的元気に話すことができる方もいます。そのため、圧迫を受けていた方が救出されたときには、医療者が積極的に挫滅症候群を疑って検査を行なうことが重要とされます。
挫滅症候群を発症している場合、血液検査などを行なうと、以下のような所見がみられることがあります。
治療
腎不全の進行を防ぐための治療
大量輸液
循環する血漿(血液中の液体成分)量を維持することで、ショックの是正と腎不全の予防を行います。輸液製剤は、生理食塩水や1号輸液など、カリウムを含有しないものを使うことが理想的です。
重炭酸水素ナトリウムの投与
大量輸液ではコントロールが難しい場合、重炭酸水素ナトリウムを静脈内注射で投与することがあります。これによりカリウム値を低下させ、尿をアルカリ化(pH6~7)させることで腎不全を防ぎます。尿のpHが6.5になると、ミオグロビンの腎毒性を低下させることができるとされています。
高カリウム血症の治療
- 50%ブドウ糖とインスリンの注射
- 前述のように炭酸ナトリウムの投与によるアシドーシスの補正
- カリウムの吸着をするケイキサレートの投与
低カルシウム血症の治療
カルシウムの投与は高カリウム血症の治療でもあるため、グルコン酸カルシウムなどカルシウムの投与を行います。
不整脈の治療
カリウムやカルシウムの異常は不整脈を引き起こしやすいため、心電図でのモニターを常におこないます。また、心室細動や心室頻拍が起きた際には除細(電気ショック)を行います。
上記の方法でコントロールできない腎不全や高カリウム血症に対する治療
血液透析
乏尿性腎不全に至った場合、救命のために血液透析が必要になります。血液透析は、アシドーシス、高カリウム血症の是正、水分の出納管理、老廃物除去に有効です。ただし、ミオグロビンを除去する効果はありません。
挫滅症候群の治療と管理は、多くの場合、集中治療室で行われます。しかし、大規模な震災などにより多数の患者が発生した場合、被災地となった医療機関で大量の水やエネルギーを確保することは困難になると考えられます。そのため、状況によっては、ためらうことなく早期に被災地外の医療機関に搬送する判断が必要であるといわれています。
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