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変形性股関節症の手術について――人工股関節置換術とは?

変形性股関節症の手術について――人工股関節置換術とは?
大嶋 浩文 先生

NTT東日本関東病院 整形外科 医長/人工関節センター長

大嶋 浩文 先生

目次
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変形性股関節症(へんけいせいこかんせつしょう)の手術には、大きく分けて関節温存手術と人工股関節置換術があります。近年、傷んだ関節を人工関節に置き換える人工股関節置換術の治療技術や部品の耐久性が向上し、より多くの患者さんが人工股関節置換術を選択されるようになりました。今回は、変形性股関節症に対する手術方法の選択のポイント、特に人工股関節置換術の特徴や手術後の生活などについて、NTT東日本関東病院 整形外科医長・人工関節センター長の大嶋 浩文(おおしま ひろふみ)先生に伺いました。

関節温存手術は、骨の一部を切除したり移動させたりすることで自身の骨を温存しつつ股関節の機能を改善する方法です。主に次のような種類があります。

  • 骨切り術……骨盤の骨を切り、浅くなっている関節を正常に戻す手術
  • 関節鏡視下手術……関節鏡を用いて異常を取り除く手術

関節温存手術は、変形性股関節症が進行すると適応になりません。早めに実施する必要があることから、多くの場合は若い患者さんの治療で関節温存手術が検討されます。なお、入院期間は約1か月、治療後のリハビリテーションには3か月~半年ほどの期間を要します。

人工股関節置換術は、傷ついた股関節を人工股関節に置き換える手術です。

この方法では、手術の翌日から全体重をかけて歩くリハビリテーションを行うことができ、入院期間も10日~14日間と短く済みます。退院直後でも平地であれば歩けるようになるため、適応がある方は人工股関節置換術を選択されることが増えています。

ただし、人工股関節の部品(インプラント)の経年劣化が主なデメリットとなります。将来的に部品交換の手術が必要となりますが、その頃には患者さんが年齢を重ねていて追加手術を行うリスクが高くなるためです。人工股関節置換術を選択する場合はリスクを十分に理解したうえで、手術を行うタイミングを医師とよく相談することが大切です。

金属アレルギーなど、気になることは医師に相談を

人工股関節置換術を検討している方で、アクセサリーや時計を着けると肌が赤くなるという方は医師にお伝えください。問診や皮膚科で行うパッチテストで問題ないことが分かれば手術に進みますが、金属アレルギーの方は、実際に体に入るインプラントを使って詳しい検査を実施します。人工股関節はアレルギーの報告例が少ない素材でできており、多くの場合で手術が可能です。

MN作成
人工股関節

人工股関節置換術は、痛みのある部分を取り除いて人工股関節で再建する治療方法であり、除痛できることが大きなメリットとなります。また痛みを取るだけではなく、股関節の機能を回復することも重要になるため、手術によってできる限り正常な状態の関節に近づけることが求められます。

人工股関節置換術においては“Forgotten Hip”と呼ばれる、手術したことを忘れて普段の生活を送れるくらいの状態が治療の目標となります。具体的には、次のような状態を目指します。

  • 痛みが取れる
  • 正常に歩ける
  • 健康な方の関節と同じくらい動かせる
  • 足の長さに左右差がない

近年では、人工股関節の部品の性能が向上していることや、『変形性股関節症の治療――Makoシステムとは?』で詳しく説明するロボティックアーム支援手術“Makoシステム”が登場したことにより、よりよい治療が期待できるようになってきています。

人工股関節の部品は研究・開発が進み、摩耗への抵抗性が飛躍的に向上しています。部品中のポリエチレンの性能がよくなり、手術してから約20年以上、再手術せずに過ごすことが期待できるようになりました。そのため、最近では比較的若い方であっても人工股関節置換術が行われるようになってきています。

また、患者さんの骨の形状に合うか、若いうちに人工股関節を使う必要があるのか、認知機能が問題となる高齢の方に使用してよいのかといった、患者さんのさまざまな状況を考慮したうえで機種を組み合わせることが可能です。

人工股関節置換術では、先述したMakoシステムと呼ばれるロボティックアームを用いることで、より正確に人工股関節の部品を設置することができます。

たとえば背骨と股関節は連動して動くため、年齢を重ねて腰が曲がってくると人工股関節を入れるポジションも変化します。このように、人工股関節の適切な設置位置(セーフゾーン)は患者さん一人ひとり異なることが分かっています。

どの位置にどのような部品を入れるとよいのか、患者さん個人の特性によって術前計画をどのように立てるべきかを研究することが、近年の人工股関節置換術におけるトピックスです。

ご提供写真
NTT東日本関東病院 Makoシステムを用いた手術の様子

まずは手術日を決定し、そこから逆算して手術の準備を進めていきます。手術の約1か月前から、全身麻酔を受けられるかどうかなど健康状態を確認する術前検査、合併症の管理、手術そのものの準備などを行います。

手術の前日に入院となりますが、血液をサラサラにする薬(抗凝固薬)を服用している方などは少し早く入院していただきます。また当院の場合、手術の前日に軽いリハビリテーションを実施します。全体重をかけて歩く本格的なリハビリテーションは手術の翌日から始まります。

基本的に入院期間は10日から14日程度です。多くの方は平地の歩行や階段の上り下りができるようになったタイミングで退院します。

仕事に復帰するタイミングは職場の環境や仕事内容によって異なるため、医師にご相談ください。十分に回復してから復帰したい、歩行ができるので早々に復帰したいといった個々の状況に合わせて検討します。

術後の合併症としては、感染(化膿)、血液の(かたまり)(血栓)が生じる深部静脈血栓症、血栓が肺の血管に詰まってしまう肺塞栓症(はいそくせんしょう)、無理な姿勢を取ったことによる人工股関節の脱臼などが知られています。当院では、術後に急な痛みや熱が出てきたらタイミングを逸することなく治療を行えるような体制を取っています。

先述のようにMakoシステムを導入している当院で手術を受けた患者さんには、日常生活での動作制限はほとんどないとお伝えしています。

ただし、転倒には十分な注意が必要です。転んだ際に人工股関節の周りを骨折してしまう危険性があるため、散歩や体操などの適度な運動をしたり、手すりを付けるなど環境改善に取り組んだりといった転倒予防を行うことをおすすめします。

ゴルフやテニスなど適度な運動は問題なくできます。転倒や転落の恐れがあるスポーツ、競技者の間で接触があるスポーツ(コンタクトスポーツ)、跳躍を必要とするスポーツなどは、股関節に強い衝撃がかかることから耐用性および事故の観点で危険性があります。具体的には、バレーボール、バスケットボール、サッカーなどは注意が必要です。スキーが趣味という方もよくいらっしゃいますが、転倒すると脱臼や骨折の危険性があるので十分注意していただきたいと思います。

軽いジョギングはハイキング程度であれば問題ありませんが、毎日10km以上など長い距離を走るとなると股関節の負担が大きくなります。耐用性の高い特殊なインプラントを使用する選択肢もありますので、医師と相談することをおすすめします。

退院直後は1か月に1回程度、術後は3か月、6か月、12か月で受診していただくことが基本です。以後は問題がなければ、通院できる方は1年に1回は外来に来ていただくようお伝えしています。長期耐用性の問題があるほか、高齢になってからは転倒・転落のリスクも出てくるためです。

人工股関節置換術は、生活の質をよりよいものにする治療方法です。信頼できる施設が見つかったら、あまり気負わずに一度話を聞いてみてください。診断がついてから手術するかどうかを考える時間がありますので、患者さんにはできるだけ疑問点や不安なことを払拭していただきたいと考えています。疑問を感じながら治療を受けるよりも、治療のことは任せようと思ってもらえるほうが、成績にもよい影響が出てくるだろうと思います。

不安なことや分からないことがあれば、手術を受ける前に主治医とよく相談してください。私たちも質問にはできる限りお答えして対話を大切にするよう努め、患者さんとコミュニケーションをしっかり取りながら治療を進めていきます。治療に関して患者さんが準備することは特にありません。手術に対する心構えを持って臨んでいただければと思います。

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