変形性膝関節症は、加齢などによってダメージを受けた膝軟骨がすり減ることで膝関節に変形が生じ、痛みなどの症状が現れる病気です。年齢やO脚、肥満などが関与するため、誰でも発症する可能性があるとされています。また、重症度に応じて適切な治療法は異なります。変形性膝関節症の病態から症状の変化、検査の流れ、治療法について、熊本機能病院 副院長/人工関節センター長/臨床研究支援室長の高橋 知幹先生にお話しいただきました。
変形性膝関節症とは、加齢などの原因によって膝関節の軟骨に亀裂や摩耗が生じ、関節の形状が変化した結果、膝の痛みや歩行困難などの症状が現れる病気です。
変形性膝関節症の発症に大きく関わる原因は加齢で、50歳以上になると症状を自覚する方が増えてきます。そのなかでも変形性膝関節症は女性に多く、臨床的な男女比は男性:女性=1:4程度です。なぜ女性に多いのかは明確に分かっていませんが、遺伝的な要因やホルモンバランスなどが関与していると推測されています。
このほか、変形性膝関節症の発症には肥満、O脚、膝を酷使する仕事、外傷なども関係しており、一定の年齢を越えたら誰でも発症する可能性がある病気といえます。
O脚は足の形がO型に変形して大腿骨(太ももの骨)とすねの骨の角度が曲がった状態であるため、通常に比べて膝の内側に体重がかかっています。この形状は膝関節への負担となり、体重がかかっている膝の内側の軟骨が徐々にすり減っていき、やがて痛みを生じ、変形性膝関節症の悪化につながります。それだけではなく、膝の軟骨が減ることで、さらにO脚が進行する原因にもなります。つまりO脚であることは、膝軟骨の摩耗を促進させ、それによってさらにO脚が悪化するという悪循環を生んでしまうのです。
初期症状は主に動作開始時の足の違和感です。具体的には以下のような症状が現れます。
上記のとおり、歩くこと自体には支障がなく、日常生活での歩行中には痛みは治まることが発症初期の特徴です。痛みは一時的で休めば回復するので、「少し我慢すれば治まるから大丈夫」と、病院を受診していない発症初期の方もいらっしゃるのではないかと思いますが、歩き始めの痛みを自覚したら、なるべく早めに整形外科医を受診することをおすすめします。
変形性膝関節症が進行して膝関節の変形が進むと、歩き始めだけではなく、歩行中も痛みが継続するようになります。具体的には、初期症状に加えて以下のような症状が起こります。
基本的な検査はX線検査とMRI検査です。また、より正確な診断や鑑別診断をするために、関節液検査(関節液を採取し、その性状を調べる)や血液検査も実施することがあります。
変形性膝関節症が疑われる方に対しまず行うのはX線検査で、レントゲン画像で膝関節の変形の程度を確認します。このとき、別の病気が原因でないか、ほかの部分に異常が起こっていないかも合わせて調べます。
X線検査上で見た変形の程度は重症度を判断する指標になりますが、X線検査による所見は必ずしも痛みの程度に一致しないので注意が必要です。X線検査上では軽度の変形と判断できても激しい痛みを訴える患者さんもいれば、最重度の変形であってもあまり歩行時痛を感じない患者さんもいらっしゃいます。たとえば、年齢が若い方であれば高齢の方に比べて活動性が高いので、変形が軽くても強い痛みを頻繁に感じる傾向があります。
X線検査の結果、変形性膝関節症の可能性が高いと判断した方のうち、膝関節への衝撃吸収と安定化の役割を持つ半月板という組織の損傷が強く関与していると疑われる方は、MRI検査で半月板の損傷程度を調べます。一部の変形性膝関節症の初期段階では半月板損傷が合併しており、それが強い痛みの原因になっていることがあるためです。MRI検査で半月板損傷が見つかった場合は、後述する関節鏡手術という治療が適応されることがあります。
また、MRI検査は他疾患の鑑別や変形性膝関節症の重症度を確認するという意味でも大切な検査です。
膝が腫れて炎症を起こしている場合は、注射器で関節液を抜き取り、関節液の性状を見る関節液検査を行い、リウマチなどの関節炎症状を起こす病気との鑑別診断をします。通常、変形性膝関節症の場合の関節液は黄色透明ですが、リウマチなどによる関節炎では、関節液が黄色混濁しています。
変形性膝関節症の治療法は、保存療法と手術療法に大別されます。保存療法には、薬物治療・注射療法・物理療法などがあります。
主にNSAIDなどの消炎鎮痛剤(痛み止め)を使って炎症を抑え、変形性膝関節症による痛みを改善します。
関節の状態が悪くなっている場合はヒアルロン酸を注射します。ヒアルロン酸には、関節軟骨の被膜を保護する、滑りをよくする、軟骨を修復するといった作用があり、関節内の環境を整える効果が期待できます。
また、関節の炎症がかなり強く、膝に水がたまっている場合はステロイドを注射して強力に痛みを抑えます。
薬物療法は対症療法にすぎず、痛みは抑えられても関節の機能低下や加齢的な関節の変化は止められません。膝に痛みが出てくると膝関節をうまく動かせなくなりますが、膝が痛いからといって関節を動かさないと、筋力低下や関節の拘縮が起こりやすい状態になってしまいます。物理療法は、物理的な方法で膝関節機能の活性化を図る理学療法の総称であり、膝を温める温熱療法や膝の筋肉に電気を通す電気刺激療法、レーザー療法などがあります。
保存療法を行っても病状が改善しない場合は手術を検討します。主な術式は、関節鏡手術、骨切術、人工膝関節置換術の3種類です。
関節鏡手術は、関節鏡という内視鏡によって関節内の環境を整え、傷んだ半月板や炎症部位を部分的に取り除く手術です。軟骨の変形が軽度ですり減った部分が少なく、なおかつ半月板損傷によって痛みの症状が強く出ている方が適応になります。ほかの要素が痛みの原因になっている方には効果がみられません。
手術は通常、膝の2~3か所に1cmずつの小さな傷をつけて行います。標準的な入院期間は当院の場合、数日から1週間程度です。
骨切術は、O脚を改善し、重心がかかる位置を膝の外側に移動させるための手術です。O脚は膝の内側に重心が偏っている状態であるため、その重心線を外側に移すことで、すり減った軟骨への負担を減らします。膝の角度を変えるため、手術後はO脚が改善されて見た目上はまっすぐになります。
骨切術はO脚が原因で膝に痛みが生じている方で、なおかつ関節の変形が重度ではない方が対象です。O脚ではない方や、重度の変形性膝関節症の患者さんにはあまり効果がみられないため、適応されません。
変形が進行し、関節の機能が著しく低下して2次的な症状が現れ、激しい痛みで日常生活動作への支障が出ている方には、人工膝関節置換術が適応されます。この手術では関節を人工物に置き換えて痛みを改善し、さらに術後には継続的なリハビリテーション(以下、リハビリ)を行うことで膝周囲の機能を回復させます。
人工膝関節置換術のメリットは、関節を入れ替えるので痛みの改善が期待できることと、関節機能の回復によるQOL(生活の質)向上が目指せることです。デメリットとしては、人工関節に耐久性という時間的制限があること、人工物を挿入するために感染症を起こす可能性があること、膝に可動域制限がかかることなどが挙げられます。
なお、かつては耐久性の観点から、若い方に対する人工膝関節置換術は推奨されていませんでした。しかし最近では、人工関節の改良により耐久性も改善されてきていること、さらには、若い方の活動性の高さを考慮すると早急に手術で痛みを取り、元の活動性を取り戻すほうがよいという考え方が主流になりつつあります。そのため現在は、保存療法を行っても痛みが改善しない方であれば、年齢にかかわらず手術をすることが一般的になってきています。
また、関節の機能が残っている段階で人工膝関節置換術を行ったほうが、将来的な関節の機能を保持できるとも考えられています。
当院では、ロボティックアームという手術支援ロボットを用いた人工膝関節置換術(ロボット支援下人工膝関節置換術)を行っています。なお、人工膝関節置換術には片側置換と全置換という2つの術式がありますが、2020年現在、ロボット支援下での人工膝関節置換術が適応になるのは全置換術のみです。
通常の人工膝関節置換術は、実際の手術時に患者さんの骨の形状を見てから術者の頭の中に設計図を組み立て、骨を切る角度を決めます。あくまでも術者のイメージを基にして手術を進めるため、どうしてもごくわずかな誤差が生じてしまいます。
これに対してロボット支援下人工膝関節置換術は、3DCTで撮影した骨の情報に人工関節のインプラントを照合し、どの位置に人工関節を入れるかという事前計画を立ててから手術を行い、手術中に事前計画を立てたCT情報を実際の患者さんの骨情報とマッチングさせるため、極力誤差をなくして切ることが可能です。
このようなロボティックアームの特徴を生かし、当院ではロボット支援下人工膝関節置換術を用いることで、重症度や症例にかかわらず、どのような患者さんに対しても確実な手術を行うことを目指しています。また、通常の人工膝関節置換術に比べて手術による侵襲性(患者さんの身体的な負担)が小さいため、患者さんが感じる術後の痛みも減らすことが期待できます。
当院が変形性膝関節症の患者さんを治療するなかで大切にしているのは、手術だけではなく、術後のリハビリにも力を入れることです。繰り返しになりますが、人工膝関節置換術が適応になるほど重度の変形性膝関節症では、膝の機能回復のためにも手術後のリハビリが非常に大事になります。しっかりとリハビリをしないと関節の機能が回復しないだけでなく、痛みの改善や日常生活動作の回復も難しくなってしまうからです。だからこそ当院では、手術と同じくリハビリを重要視し、多職種で患者さんの治療にあたっています。
また、近年の高齢化社会に伴い変形性膝関節症の患者数が増えたことから、現在では多くの施設が人工膝関節置換術を実施しています。ところが数十年前までは、人工膝関節置換術が“難しい術式である”というイメージが強く、積極的にこの手術を行っている施設は今ほど多くなかったのです。そのようななかでも、当院は病院開設時の1982年から、年齢を問わず適応になる方に対して人工膝関節置換術を行ってきたという歴史があります。そのような長い期間をかけて、1人でも多くの患者さんのお役に立つため、診療体制やリハビリプログラムの改訂、スタッフの教育などといった工夫を積み重ねてきました。
次のページでは、当院が変形性膝関節症の患者さんに対して行っているリハビリについて詳しく解説します。
熊本機能病院 副院長・理事長補佐・人工関節センター長・臨床研究支援室長
高橋 知幹 先生の所属医療機関
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