概要
女性器の形成外科手術とは、女性器に生じた形態異常などを整える手術治療です。“婦人科形成”や“女性器形成”などと呼ばれることもあります。
血管腫やリンパ腫、直腸腟瘻など、何らかの病気が原因で女性器の形態が変化した場合や、腟閉鎖や副角子宮など、生まれつき女性器に異常が生じる病気などに対して行われることが一般的です。
近年は女性器の見た目に関する悩みを解消するために、自由診療で手術を受ける方もおり、この場合には費用を全額負担することになります。自由診療を検討する際は副作用や費用などについて、医師から詳しく説明を聞き、納得したうえで治療に臨むようにしましょう。
目的・効果
女性器の形成外科手術の目的や効果は、原因となっている病気や治療方法によっても異なります。
基本的には女性器の形態異常によって生じるトラブルを解消する目的で行われ、形態の異常を解消・改善したり、再発を防いだりする効果が期待されます。また、時には女性器の見た目に関する悩みの解消のために行われることもあります。
種類
以下では、主な女性器の形成外科手術について簡単に説明します。基本的にこれらの治療は保険適用で行われますが、目的や患者の状態によって自由診療となることもあります。詳しくは医療機関に相談しましょう。
処女膜切開術・処女膜切除術・輪状処女膜切除術
処女膜切開術・処女膜切除術・輪状処女膜切除術とは、処女膜閉鎖症や処女膜強靭症などに対して検討される治療方法です。
処女膜とは、腟口の付近にある靱帯でできた柔らかいひだのような膜のことをいいます。中央部は穴が空いており、膜で完全にふさがっているわけではありません。しかし、まれに生まれつき処女膜が腟口を完全にふさぐように存在している場合もあり、このような病気を“処女膜閉鎖症”と呼びます。また処女膜は性交渉などを機に破れることが一般的ですが、時に生まれつき処女膜が分厚く、性交渉時に腟口が広がらないことにより強い痛みを感じる方もいます。このような病気を“処女膜強靭症”といいます。
処女膜閉鎖症や処女膜強靭症の症状が強い場合、処女膜切開術・処女膜切除術・輪状処女膜切除術などの形成外科手術が行われることがあります。処女膜切開術では、処女膜の一部を切り広げることによって腟口を広げやすくします。また処女膜切除術・輪状処女膜切除術では、処女膜を丸く切り取ることによって腟口を広げやすくします。なお、切除後は基本的に抜糸不要の吸収糸で縫合します。
癒合陰唇形成手術
癒合陰唇形成手術は、陰唇癒合などに対して行われる治療方法です。
陰唇癒合とは左右の小陰唇、あるいは大陰唇が何らかの理由でくっついている病気を指します。子どものうちに炎症などをきっかけに生じることもあれば、閉経後に炎症や感染などが加わって生じることもあります。
塗り薬などの薬物療法で治療することもありますが、重症度が高い場合にはくっついてしまった陰唇を切り離し、再度癒着することがないように縫合する癒合陰唇形成手術を検討することがあります。
腟中隔切除術
腟中隔切除術は、腟中隔に対して行われる治療方法です。腟中隔とは、胎児期にうまく腟が形成されなかったことにより、腟内を隔てるように“中隔”と呼ばれる膜のようなものが生じる病気です。無症状で生理や性交渉には特に支障がないこともありますが、出産の際に問題になったり、中隔が腟の一部をふさいでしまっていると生理の際に血液がたまって留血腫が生じたりすることもあります。このように何らかの支障が現れている場合には、手術で腟中隔を取り除くことを検討します。
腟腸瘻閉鎖術
腟腸瘻閉鎖術とは、直腸腟瘻などに対して行われる手術治療です。直腸腟瘻とは、外傷や炎症性の腸疾患、悪性腫瘍、放射線治療、出産時会陰切開、お腹の手術などをきっかけとして直腸と腟がつながる穴が生じ、腟から便が排出されるなどのトラブルが生じている状態を指します。保存的治療で治ることもありますが、効果がみられない場合は腟腸瘻閉鎖術を検討することが一般的です。
腟腸瘻閉鎖術では、まず穴の周辺の傷んだ組織を取り除いて健康な組織同士を縫い合わせるようにして穴をふさぎます。これだけでは再び穴が空いてしまうこともあるため、ほかの部位から皮膚や皮下組織、筋肉などを移植してふさいだ穴の周辺を補強することも多くあります。
造腟術(腹腔鏡下造腟術)
造腟術は腟閉鎖症などに対して行われる治療方法です。腟閉鎖症とは、腟の一部、あるいは全体が形成されなかった状態を指し、後述する腟欠損症も含まれるほか、処女膜閉鎖症などもそのうちの1つに挙げられます。
腟欠損症とは、胎児期に腟が形成されなかったことにより生まれつき腟を持たない状態を指し、併せて子宮の欠損を持つ方も少なくない病気です。
造腟術ではS状結腸や直腸、腹膜などを移植して、人工的に腟管を形成します。なお腟欠損症のような重症例では“造腟術”が必要ですが、より軽症の処女膜閉鎖症などでは、処女膜を切り開くなどの切開手術が検討されることが一般的です。
会陰(腟壁)裂創縫合術
会陰(腟壁)裂創縫合術は、会陰裂傷などに対して検討される治療方法です。会陰裂傷とは、腟と肛門の間に位置する“会陰”が出産などを機に裂けてしまうことをいいます。重症の会陰裂傷では、裂けた部分を縫い合わせる会陰裂創縫合術が検討されます。基本的には抜糸の不要な糸で実施され、縫い合わせた面に空洞が生じないように縫い合わせます。
なお、出産時に生じた会陰裂傷・腟裂傷に対する会陰(腟壁)裂創縫合術は、分娩料として保険適用外となる場合もあるため、あらかじめ費用について医療機関に相談しておくとよいでしょう。
自由診療の場合
自由診療では女性器のうち、外性器の悩みを解消することを目的に手術が行われることがあります。具体的には、“小陰唇縮小術”“ クリトリス包茎術”“副皮切除術”“腟縮小術”“処女膜再生術”などがあります。
リスク
女性器の形成外科手術では、ほかの外科手術同様、リスクや合併症についても理解しておく必要があります。外科手術を受けるうえで代表的なリスクとしては、術後出血や傷からの感染(創感染)をはじめとした感染症や傷の痛み、縫合不全、移植組織の壊死などです。
考えられるリスクは病気や受ける手術方法、患者の状態などによっても大きく異なるため、まずは医師の説明をよく聞くようにしましょう。
適応
女性器の形成外科手術はさまざまな病気に対して検討されることがあります。対象となる主な病気は以下です。
女性器の形成外科手術が検討される病気
など
治療の経過
女性器の形成外科手術では、入院が必要になる場合や治療後の通院が必要となる場合などもあるため、治療前に医師の説明をよく聞き、分からないことがあれば質問するようにしましょう。
治療後の注意点
治療後は腫れや痛み、また一時的に患部に感覚の鈍さを感じることもありますが、自然に元に戻ることが期待できます。また、入浴や自転車に乗るなど患部が擦れる可能性のある行動、性交渉については、いつ頃から再開できるか医師に確認したうえで行うようにしましょう。
費用の目安
女性器の形成外科手術には、目的や患者の状態などによって保険診療となるものと自由診療になるものがあります。特に出産時の会陰(腟壁)裂創縫合術などは、保険適用とならないこともあるため、注意が必要です。
保険適用となる場合は医療費の10~30%を自己負担することになり、自由診療の場合は全額自己負担です。
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