インタビュー

写真でみる尋常性白斑-原因や治療指針、研究の最前線について専門家が詳しく解説

写真でみる尋常性白斑-原因や治療指針、研究の最前線について専門家が詳しく解説
鈴木 民夫 先生

山形大学 医学部皮膚科学講座

鈴木 民夫 先生

この記事の最終更新は2017年07月25日です。

皮膚の色が白く抜けてしまう疾患「尋常性白斑白斑)」。これまで尋常性白斑の研究は治らない、治療薬がない、研究者が少ないといった背景から、マイナーな研究分野とされていました。しかし近年、国内そして世界的に尋常性白斑の治療・評価指針の議論が進み、さらに研究においても大きな進歩がみられています。

尋常性白斑の治療指針や研究は、この数年でどのような変化を遂げているのでしょうか。本記事では、記事1に引き続き日本を代表して色素異常症の国際的な学術総会に参加されている山形大学医学部附属病院皮膚科教授 鈴木民夫先生にお話を伺い、尋常性白斑の治療方針と研究の最前線についてご解説いただきました。

▼色素異常症についてはこちらの記事をご覧ください。『色素異常症とは? 白斑を含む皮膚色に異常が現れる病気』

提供:PIXTA

尋常性白斑は色素異常症のなかではよくみられる疾患です。発症頻度は、日本人では人口の0.5%(1,000人に5人の割合)、性差はなく、アトピー性皮膚炎より少し罹患者数が多くなっています。

尋常性白斑は、一般的に「白斑」と呼ばれています。体中どの部位にも発生する可能性があり、完成した皮疹では完全脱色素斑を呈し、皮疹の境界は明瞭、形や大きさは不定形です。20歳前後の若年者が発症することが多くあります。

尋常性白斑には、白斑の分布によって分節型と非分節型、そしてその両型が1人の患者で発症する混合型に大別されます。それぞれの分類によって白斑のあらわれ方が異なります。

【分節型】

ある一定の神経の支配領域(分節)に沿って白斑があらわれる白斑を分節型白斑といいます。比較的若い方に発症することが多く、20歳ぐらいまでの方に好発します。10歳以下の方でも度々発症が認められます。

【非分節型】

分節型ではない尋常性白斑は、非分節型白斑と呼ばれます。非分節型の特徴は、あらゆる年齢層の方で発症し、症状が進行性であるという点です。

非分節型白斑はさらに3つの型(限局型、全身型、汎発型)があります。

  • 限局型・・・体幹四肢の一部のみに対称性に発生する白斑
  • 全身型白斑・・・症状が全身に発生する白斑
  • 汎発型白斑・・・症状が広範囲に発生する白斑

あらわれた皮疹が全身に渡るものを全身型、全身には渡らないものの分節に沿わず広がっているものを汎発型といいます。

【混合型】
非常に稀なタイプではありますが、典型的な分節型がまずは発症し、数年以上後に非分節型が発症することがあります。分節型は固定、あるいは、改善経過を示した後に非分節型の白斑が生じ、時間的、あるいは症状の経緯から考えて、非分節型では説明つかず、両型の混合型と考える症例が報告されています。
 

分節型、非分節型ではそれぞれ白斑の発症原因が異なると考えられています。

分節型では、神経領域に沿って白斑があらわれることから自律神経系の異常が発症の要因となっているのではないかと推測されています。

皮膚色を決める主要な色素「メラニン」を産生するメラノサイトという細胞は、表皮の基底層に存在しています。基底層にある細胞のほとんどはケラチノサイト(表皮細胞)ですが、7~8個に1つの割合でケラチノサイトの間に混じってメラノサイトが存在しています。このメラノサイトが存在していることで皮膚の色がつくられています。

このメラノサイトが存在して正常にメラニンを産生し続けるためには、メラノサイトの周囲の環境が重要だということがわかっています。しかし自律神経系に異常をきたすと、このメラノサイトが生存・活動するための環境が維持されず、その結果メラノサイトが存在できなくなってしまうのではないかと考えられています。これが分節型白斑の原因になっていると予想されています。しかしどのような自律神経の異常が表皮の環境を壊してしまうのかについてはまだわかっておらず、さらなる研究が望まれています。

メラノサイト

一方、非分節型白斑の場合には自己免疫疾患が原因になるのではないかと考えられています。しかしその詳細もまだ明らかになっておらず、免疫系の異常だけが原因になっているのか、それとも免疫系の異常以外にもさまざまな要因が合わさった複雑な病態になっているのかについてはまだわかっていません。こちらも原因を明らかにするための研究が続けられています。

尋常性白斑では下記のような治療選択肢があります。

【外用薬・軟膏】

  • ステロイド外用
  • 活性型ビタミンD3外用薬(保険適用外)
  • タクロリムス軟膏(保険適用外)

【光線療法】

  • PUVA 療法
  • ナローバンド UVB 照射療法
  • エキシマレーザー/ライト照射療法

【内服薬】

  • ステロイド内服 (急速進行症例に対して)
  • 免疫抑制剤内服(急速進行症例に対して)

【外科療法】

  • 植皮・外科手術(少なくとも1年以上変化がない症例に対して)

【その他】

  • カモフラージュメイク療法

なかでも最も多く選択されているものは外用薬を用いた治療法です。また光線療法も近年有用性が報告されてきていることから、日本においても汎用されつつあります。また、白斑を目立たなくするカモフラージュメイク療法は多くの医療施設で行われているという報告があり、特に重症例の患者さんに対しては今後も行われていく治療法だと考えられています。

尋常性白斑の原因はまだ明確にはなっておらず、根治治療が確立されていない疾患です。そのため10年前までは診断・治療の方針を示すガイドラインが制作されていませんでした。

そのようななか2012年に日本皮膚科学会より「尋常性白斑診療ガイドライン」がついに発行されました。このガイドラインによってエビデンスに基づいた疾患の定義、分類、診断、治療の概要・推奨が示されました。このように日本における標準的な治療とその推奨度が提示されたことは、尋常性白斑の診療においてはとても重要なことです。

問診

現在、この尋常性白斑診療ガイドラインの改定(第二版)が検討されています。

改訂のポイントのひとつとなると考えられているのは光線療法施行の対象年齢についてです。光線療法を何歳から開始できるようにすることが望ましいのかという点が日本国内で議論されており、第二版の制作時に変更が検討されるポイントとなっています。

光線療法とはNB-UVB紫外線療法、PUVA療法などのことを指しています。これらの治療を行うことで白斑の色素再生が可能になることがこれまでに報告されていることから、非進行性尋常性白斑の患者さん、そして進行性尋常性白斑の患者さんのうち16歳以上の方の治療に光線療法を用いていくことが推奨されています。

ここで16歳以上と示されているのは、若年者に対する光線療法のリスクが報告されているためです。

これまでの白人の小児を対象とした研究報告によると、幼いころに重度の日焼けを負った回数が多いほど、成人になってからのメラノーマ悪性黒色腫という皮膚がん)の発症頻度が高くなることがわかっています。このことから、皮膚の細胞は新陳代謝によって入れ替わっていくにもかかわらず、幼少期のダメージが成人になったときにまで影響を及ぼすということは、「日焼け」というのは皮膚のどこかに記憶されているのかもしれない、ということがこの研究から示唆されています。そのため若年者に対しては、紫外線をあて治療を行う光線療法を積極的に行うべきではないのではないかという見解がなされているのです。

こうした幼少期における日焼けのリスクについて研究報告があることから、2012年に発行されたガイドラインでは若年者での光線療法を推奨しないことを目的に「進行性尋常性白斑の患者さんにおける光線療法は16歳以上とする」ことが記載されていました。

しかし光線療法を用いて治療を開始する年齢が16歳以上とするのが望ましいのか、それとも12歳、10歳ともっと年齢を引き下げることが適当であるのかについては、まだエビデンスが十分になく、議論がなされにくい点です。

こうしたことから「何歳から光線療法をするべきか」という点はこれからより論議を重ね、再度指針を示す必要がある部分です。ヨーロッパのガイドラインでは10~12歳の若年者に対する光線療法はしっかりとその治療のリスクとベネフィットを再考しながら進めることが推奨されています。また10歳以下の患者さんに対する光線療法というのは、推定されうるリスクが有益性を上回るとの判断により、国際的にも推奨されていません。現在、国内では10歳以下の若年者にも紫外線療法を施行している施設がありますが、30年以上後に患者に訪れるかもしれないリスクを見据えたうえでもそうした治療を続けていくべきなのかということを、しっかりと考えていかなくてはならないでしょう。我々は、世界の動向も参考にしつつ、より安全性の高い適切な治療指針を作っていくことが重要だと考えています。

近年、国内では尋常性白斑のガイドライン発行という大きなトピックスがありましたが、国際的にもいま尋常性白斑の研究やディスカッションが盛んに行われています。

たとえば2016年には東アジア尋常性白斑学会(East Asia Vitiligo Association:EAVA)が立ち上がり、その年に第一回となる東アジア白斑会議が全南大学皮膚科 李承哲教授を会頭として韓国・ソウル市で開催されました。第一回の開催地となった韓国は、東アジアのなかでも尋常性白斑の研究が盛んに行われている国です。この会議では尋常性白斑に関する最新知見について発表がなされ、議論が重ねられました。

そうした議論の場は、もちろん東アジアにとどまらず、世界レベルで展開されています。約5年前にはヨーロッパの先生方によって尋常性白斑に関するグローバルミーティングをやろうと呼びかけがあり、主要各国の研究者があつまる会議を年に数回、さまざまな学会の開催をきっかけとして行われています。尋常性白斑の研究者数は、アレルギーなどの他の分野の研究者数に比べると少ないです。研究室のメインテーマとして活発に研究している独立研究者は、世界中でみても50~60人ぐらいでしょうか。グローバルミーティングで顔を合わせるのはいつも同じ研究者の方々です。、いつも活発な終わることのない議論がなされています。

こうしたグローバルミーティングでは、現在このような点が議論されています。

  • 尋常性白斑という疾患名称の定義について
  • 白斑の評価方法について
  • 新規治療薬として登場が期待されている生物学的製剤やJACK阻害薬について

特に白斑の評価方法については、いま大きな論点となっています。これから生物学的製剤やJACK阻害薬といった新たな尋常性白斑の治療薬が登場した場合、その治療効果や適応患者を適切に判断していくためには白斑の評価方法を確立させていくことが必要です。しかし、たとえば体のどこにでもあらわれる白斑の面積を明らかにして評価する、人種差を考慮しながら白斑の重症度を評価する、といったことは現状難しいとされています。

そこでいくつかの有用な評価方法が話題に挙がっています。たとえば白斑の写真を撮って、それをコンピューターに取り込むことで白斑の面積を簡単に算出できるものも登場しています。こうしたものを活用することで白斑の評価をより正確に、簡便にしていくことができます。しかしコンピューターを備えることができる環境がどの国、どこの施設でも整うわけではないことから、もっと安価で簡便な方法がよいのではないかという議論もなされています。

新規治療薬によって尋常性白斑の治療が大きく変容する時代が近いうちにきます。その大きな変化の波に対応していけるよう、いま世界レベルで尋常性白斑の研究が盛んに進められているのです。さらにこれからは東アジア共同で進める尋常性白斑の大規模研究が計画され始めています。このように国内に留まらず世界で研究することで人種差を超えた、母数の大きなデータが集まり、より信頼性が高い結果を得ることができます。こうした研究が世界を舞台に進められることで尋常性白斑の研究は大きく進んでいくことになるでしょう。

これまでご紹介したような尋常性白斑の治療指針・評価基準を打ち出していくことも重要なことですが、まだ不明であるこの疾患の発症原因を明らかにしていくことも非常に重要であり、そうした基礎研究も活発化しています。

たとえば近年では人間の皮膚と同じように「日焼け」をする実験用マウスが開発されました。

新規の治療薬の効果を明らかにする、疾患の発症機序を明らかにするという際にはマウスをモデルにして研究を進めることがありますが、尋常性白斑の場合ではマウスを使った実験が困難とされていました。その理由はマウスの耳としっぽにはメラニンをつくるメラノサイトが存在するものの、それ以外の皮膚にはメラノサイトが存在しなかったためです。そのため通常のマウスの体部分の皮膚に紫外線を照射しても、人間と同じように日焼けを起こすことはなく、マウスを使った色素異常症の研究は困難とされていました。

そうしたなか体の部分にもメラノサイトをもつマウスが開発されました。しかし、当初開発されたモデルマウスは、皮膚にメラノサイトが発現しすぎたことで、真っ黒な皮膚色になってしまいました。

そこで2013年、新たに日本人と同じ皮膚色になるモデルマウスが開発されました。このモデルマウスは当研究室で開発されたマウスです。こうして人間の皮膚とおなじように反応するマウスをつくれたことで、尋常性白斑を発症するマウスを作ることができました。いまこの尋常性白斑を発症するマウスを持つのは世界で当教室のみです。

こうしたマウスが開発されたことは、尋常性白斑の発症初期の病態を明らかにするうえで非常に大きな進歩といえます。研究が進めば尋常性白斑の原因を解明できる可能性も出てくるでしょう。さらに人間の皮膚と組織的に近い皮膚をもつマウスが開発できたことで、尋常性白斑以外の疾患のモデルマウス開発を進められる可能性が出てきます。たとえばメラノーマのモデルマウスを作ることができれば、光とがん発症のメカニズムなどの解明も進んでいくでしょう。

鈴木民夫先生

尋常性白斑の研究者は世界的にみても少なく、これまでマイナーな研究領域とされてきました。しかし近年世界レベルの共同研究が活発化しており、さらに新規治療薬の登場にも期待が集まっています。こうした動きはこれからさらに活発化し、尋常性白斑の治療開発や原因解明を大きく推し進めていくでしょう。

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