突発性発疹症は基本的には自然治癒しますが、時に合併症を伴うことがあります。なかでも急性脳症は後遺症の心配が強い合併症としてよく知られています。急性脳症はけいれんや意識障害を伴う疾患で、特にアジア人が罹患しやすいことも知られています。今回は突発性発疹症による急性脳症について記事1に引き続き千葉市立海浜病院小児科部長の橋本祐至先生にお話いただきました。
多くの赤ちゃんが一度は罹患する突発性発疹症については記事1 『画像や写真でみる赤ちゃんの突発性発疹症―症状や感染経路は?』をご覧ください。
急性脳症とは、発熱・けいれんに伴って起こる意識障害を中心とした疾患です。小児救急外来にはさまざまな症状を抱えたお子さんが受診しますが、なかでも発熱、けいれんで受診された場合、考えるべき疾患は「熱性けいれん」「髄膜炎」そして「急性脳症」の3つです。
急性脳症の多くはけいれんを伴うため、運び込まれた段階では熱性けいれんなのか髄膜炎なのか、はたまた急性脳症なのかをすぐに判断することはできません。そのため、典型的な熱性けいれんとは異なる場合(けいれん時間が長い、けいれんを複数回繰り返している、けいれん後の意識の戻りが悪いなど)は入院してもらい、検査とその後の経過をみるようにしています。
急性脳症はアジア圏に罹患者が多く、欧米ではあまり発症しないということがわかっています。アジア人には、体温が高くなると働きが鈍くなり脳症との関連性があるとされるCPTⅡ遺伝子が発見されており、さらに神経細胞へのナトリウムの流入を調節するナトリウムチャンネルなどの遺伝子異常を持っている方の場合にも急性脳症を罹患しやすいことがわかっています。
急性脳症の症状は大きく分けて3つあります。
<急性脳症の主な症状>
急性脳症の場合、メインとなる症状は意識障害です。しかし一言に「意識障害」といっても患者さんによって意識のレベルにはかなり差があります。叩いてもつねっても目も開けられないお子さんもいれば、声をかければ目は開けるけれど、視点が合っておらずぼんやりとした状態になってしまうお子さんまで幅がありますので判断し難いかもしれません。しかし、保護者の方からみて、普段と比べ「いつもの様子と違う」と思えばすぐに小児救急外来を受診しましょう。
2010年に厚生労働省の難治性疾患克服研究事業として行われた急性脳症の全国調査結果によれば、急性脳症はさまざまな原因によって発症します。なかにははっきりとした原因がわからずに発症する場合もありますが、明らかになっている原因としては下記のような疾患が挙げられます。
<急性脳症を引き起こす疾患>
急性脳症の原因として最も多いものはインフルエンザですが、記事1『画像や写真でみる赤ちゃんの突発性発疹症―症状や感染経路は?』でお話しした突発性発疹症(つまりHHV6)もインフルエンザに次いで2番目に急性脳症を引き起こしやすい疾患といわれています。
とはいえ当院の小児救急外来のデータをみても、突発性発疹症による急性脳症は年に1〜2件ほどです。急性脳症自体が発症する確率の低い疾患ですので、そこまで頻繁に起こる疾患ではありません。
突発性発疹症の発症年齢に伴い、突発性発疹症による急性脳症の発症年齢も0歳から2歳に集中しています。特に1歳代の発症が最も多いとされています。
突発性発疹症による急性脳症の場合、死亡例は2%と少ないため、生命予後はよいといえます。また、完治し後遺症なく過ごせる方も50%ほどいます。
しかしながら突発性発疹による急性脳症を罹患した方のうち45%の方は、命が助かっても大小さまざまな後遺症が残ってしまいます。
急性脳症の後遺症には「知的障害」「運動性麻痺」「てんかん」などが挙げられます。とりわけ突発性発疹症による急性脳症の場合には前頭部が侵されることが多く、前頭部が司る自発性、発語などの知的能力に支障が生じることがあります。
特に突発性発疹に罹患する0〜2歳は言語面でもまだ発達段階であり、この時期に急性脳症を引き起こすとその後の言語面の発達が遅れてしまいがちです。急性脳症の度合いによって重傷度もさまざまですが、長期的に経過を観察していかなければなりません。
急性脳症にはけいれんのパターンに応じていくつかの種類があります。ここでは突発性発疹症による急性脳症の際によくみられる2つのけいれんの違いについてご説明します。
突発性発疹症による急性脳症の場合、うち60%以上はこちらの二相性脳症による急性脳症であるといわれています。
二相性脳症とは発熱時にけいれんを引き起こし、一旦けいれんがおさまった患者さんが、その後3〜4日経過して解熱・発疹期に差し掛かった際、再度けいれんを引き起こしてしまうことです。
解熱・発疹期にけいれんを起こすということは、発熱から24時間以内に発症するといわれている熱性けいれんと異なることは明らかです。しかも、二相性脳症の解熱・発疹期のけいれんは、短いけいれんを何度も繰り返し群発するという特徴があります。
二相性脳症における最初のけいれんは持続時間の長いけいれん重積から、通常の熱性けいれんと思ってしまうような短いけいれんまでさまざまです。そのため、1回目のけいれんで「熱性けいれんだから心配いらない」と診断され安心していても、帰宅後、解熱・発疹期に再度けいれん群発を引き起こしてしまい、実は急性脳症(二相性脳症)だったというケースもしばしばあります。
そのため当院では発熱、けいれんで運ばれ、年齢から突発性発疹症によるものと考えられる患者さんに対し、意識が改善していても完全でない場合や、けいれん時間が長かった場合は、解熱・発疹期まで入院してもらうことがあります。実際は解熱・発疹期を迎えてもけいれんを起こさず、元気に退院していくお子さんのほうが多いのですが、けいれんに対する家族の不安は強いため、万が一のことを考え対応することが大切です。
ご家庭でも解熱・発疹期にけいれんがあった際には、すぐに病院を受診するようにしましょう。
一方でけいれん重積といって発熱時に30分以上の長時間のけいれん(近年は病院受診までけいれんが続いていれば、けいれん重積ということもあります)を引き起こし運び込まれた患者さんで、けいれんを止めてもなお意識が戻らない、またはその後も再度けいれんを繰り返すなど、最初のけいれんエピソードからそのまま急性脳症と診断されるケースもあります。
突発性発疹症による急性脳症の場合には、このような急性脳症の確率は二相性脳症に比べて少なく、全体の30%程度ですが、長時間のけいれんやけいれんを繰り返す際にはすぐに病院を受診しましょう。
突発性発疹症による急性脳症は未だ効果的な治療が確立されていません。
現在、急性脳症の治療として行われているのは下記に挙げる2つの方法です。
ステロイドパルス療法とは、ステロイドを3日間大量投与する治療方法です。インフルエンザによる急性脳症ではガイドラインに掲載される、第一に行われる治療方法です。しかし実は突発性発疹症による急性脳症の場合には、この治療方法に本当に効果があるのかわからないという見方もあります。
しかし、現在行われている治療のなかでは最も有効とされている治療ですし、予後の事を考えるとステロイドパルス療法を行わないという選択はなかなか難しいのが現状です。
突発性発疹症による急性脳症はステロイド以外に免疫グロブリンという薬剤の大量投与によって治療されることもあります。この治療には今の所明確なエビデンスがありませんが、後遺症が多く残ってしまう疾患ですので、治療をしっかり行いたいという医師、ご家族の思いもあり、この治療をステロイドパルス療法に併用して行なうことがあります。
急性脳症は予防が難しく、誰にでもかかる恐れのある疾患です。後遺症を防ぐためには早期発見・早期治療が必要です。
近年、突発性発疹症による急性脳症に多い二相性脳症に対し、1回目のけいれんの段階で、このけいれんが熱性けいれんなのか、それとも二相性脳症による1回目のけいれんなのかを識別するためのいろいろな研究報告を学会などで耳にします。しかし、現時点ではまだそれを明確に判断できる検査や要因ははっきりしていません。識別が可能になれば先行して治療も行えるようになり、より後遺症を患う患者さんが少なくなるかもしれません。
うさぴょんこどもクリニック 院長、千葉市立海浜病院 小児科 非常勤医師
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