インタビュー

慢性特発性蕁麻疹(CSU)が起こる仕組みと治療のゴールについて

慢性特発性蕁麻疹(CSU)が起こる仕組みと治療のゴールについて

大阪医科薬科大学医学部 感覚器機能形態医学講座 皮膚科学 准教授、大阪医科薬科大学病院 アレ...

福永 淳 先生

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慢性特発性蕁麻疹(まんせいとくはつせいじんましん)(CSU)は、原因不明の蕁麻疹が長期にわたり繰り返される病気で、かゆみを伴う膨疹(皮膚の盛り上がり)により日常生活に支障をきたします。それでは、慢性特発性蕁麻疹ではどのようなゴールを目指して、どのような治療を行うのでしょうか。今回は、大阪医科薬科大学医学部 感覚器機能形態医学講座 皮膚科学 准教授 (兼任)アレルギーセンター  副センター長 福永 淳(ふくなが あつし)先生に、慢性特発性蕁麻疹のメカニズムや治療方法についてお話を伺いました。

そもそも蕁麻疹とは、皮膚がかゆみを伴って蚊に刺されたように膨らみ、ほとんどが1日以内で跡形もなく消えてしまう病気です。症状は出たり消えたりを繰り返し、その期間が6週間以内であれば急性蕁麻疹、6週間以上であれば慢性蕁麻疹とされます。また、蕁麻疹が出る原因や誘因を特定できないものは特発性蕁麻疹と呼ばれます。つまり、“慢性特発性蕁麻疹(CSU)”とは、原因や誘因の分からない蕁麻疹が6週間以上にわたって続いている場合を指します。

蕁麻疹で受診する患者さんのうち、70〜80%は原因不明の特発性蕁麻疹であり、約50%以上は慢性特発性蕁麻疹であるといわれています。急性蕁麻疹になる方が多いものの、ほとんどの方が短期の初期治療で治るため、実際に病院を定期的に受診するのは慢性蕁麻疹の患者さんが多いのが現状です。なお、急性蕁麻疹を発症した患者さんのうち一部(10%程度)は慢性蕁麻疹に移行するとされています。

一方で原因が特定できる蕁麻疹には、食物アレルギーによるもの、造影剤や解熱鎮痛薬などの薬品が体に合わずに出るもの、日光や寒暖差などの物理的な刺激によるものなどがあります。ちなみに、“蕁麻疹はアレルギーによるもの”というイメージがあるかもしれませんが、典型的なアレルギーによる蕁麻疹はごく一部に過ぎません。

蕁麻疹は基本的に命に関わることはありませんが、重症化すると唇やまぶたが腫れる“血管性浮腫”が起こることがあります。ときに腸管にむくみが生じることもあります。そのほか重症例では、血圧が下がったり意識を失ったりといったアナフィラキシーを起こすこともあるため注意が必要です。

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蕁麻疹は原因や症状の出方によって実にさまざまな種類があります。蕁麻疹かどうかの診断は比較的容易ですが、どのような種類の蕁麻疹かを診断するのはそう簡単ではなく、丁寧に診断を進めていくことが大切です。診断において重要な鍵となるのが、患者さんからの情報です。蕁麻疹の原因は、基本的に問診で患者さんとお話をしながら推定していくため、もし患者さん自身で思い当たる原因がある場合は、積極的に医師に伝えていただきたいと思います。患者さんの生活スタイルから大きなヒントが得られることもあるので、診断をスムーズに進めるためには医師と患者さんとのコミュニケーションがとても大切だと考えています。

また、専門的な医療機関では、体の中でどのような変化が起こっているかを探索するための血液検査を行うことも可能です。たとえば、最近では慢性特発性蕁麻疹の一部で自己免疫*が関連していることも分かってきたため、そうした反応が起こっていないかを調べます。また、食物アレルギーによる蕁麻疹を除外するための検査も行われることがあります。

*自己免疫:細菌やウイルスなどの異物から自分の体を守る役割を担う免疫が正常にはたらかなくなり、間違って自分の体の成分を攻撃してしまう状態。

診断で特に難しいのは重症度の判定です。蕁麻疹の膨疹は出てもすぐに消えてしまうのが特徴のため、軽症なのか重症なのかを判断する材料が少なく、膨疹の数や大きさではなかなか評価できません。そこで重症度を判断する際は、“診察室で蕁麻疹が出ているかどうか”が1つの目安となります。診察のときに症状が出ているということは、蕁麻疹を繰り返すスピードが遅く、症状が出ている時間が長いか蕁麻疹の皮疹の出現頻度や数が多いことを意味します。

ただし、蕁麻疹は夕方〜夜間に現れやすい病気であるため、重症であっても診察時には症状が出ていないこともあります。そのため、重症度を測るときにはUAS7(Urticaria Activity Score 7)やUCT(Urticaria Control Test)といった指標も活用しています。UAS7は、かゆみと膨疹を7日間測定して、その合計の数字でスコアを見るものです。UCTは、症状や治療効果に関する4つの質問項目について直近の4週間を振り返り、症状のコントロールができているかどうかを判定する指標です。

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慢性特発性蕁麻疹は完治までに年単位の治療が必要な患者さんが多いといわれています。治療期間は患者さんによって大きく異なりますが、おおよそ5〜6年ほど続けている方が多い印象です。1年ほどで治る患者さんもいらっしゃいますが、まずは治療に長い年月がかかることを患者さんに理解してもらう必要があります。

治療では、患者さんの生活の質(QOL)の向上を目指します。蕁麻疹が出たり治まったりを繰り返している状態よりも、無症状の状態が長く続くほうが、患者さんは日常生活をより快適に送れるはずです。薬を使って症状がない状態をキープしながら徐々に薬の服用間隔を空けていき、最終的に薬がなくても蕁麻疹が出ない状態を実現するのが治療のゴールです。

薬の服用方法については、症状が出たら薬を飲むよりも、予防的に薬を飲み続けるほうが改善率は高いというデータがあります。そのため、基本的には予防的に薬を飲み続けて症状が出ない状態を長く続けられるようになったら、徐々に薬を飲む間隔を延長していきます。薬の調整は、1か月程度の単位で行うのがよいと考えます。

しかし、仮に薬を飲まなくても症状が出ない状態になったとしても、蕁麻疹が出やすい体質は残っていると私は考えています。おそらく、普段は蕁麻疹が出ないようにブレーキがかかっていて、ストレスや感染症などによりブレーキがうまく効かなくなると蕁麻疹が出てしまうのではないかということです。たとえば、野原にガソリンを撒いた状態で火をつけると、一気に燃え広がってしまいます。しかし、ガソリンを撒いた部分の草を刈っておけば、火が燃え広がることはありません。これと同じで、薬を飲み続けることでガソリンが撒かれた箇所の草を刈り続けておくことが大切なのです。

また、慢性的な炎症は、症状が出たときに薬を飲む対処法を繰り返していると、悪循環のサイクルが作られてしまいます。後述するように、慢性特発性蕁麻疹で近年使用されている非鎮静性の第2世代抗ヒスタミン薬は副作用が少ないので、悪循環のサイクルを断ち切るためにも服用を続けるのがよいでしょう。

慢性特発性蕁麻疹は治療薬の種類が少ないうえに、現在その多くは保険適用がない状態です。その背景には、症状が出るメカニズムが完全に解明されていないため、新たな治療薬を作りにくいという課題があります。

また、標準的な治療から逸脱した治療が行われているケースがあることも課題です。たとえば、蕁麻疹診療ガイドライン2018では“長期的にステロイドの内服を続けるべきではない” “ステロイドの外用薬は推奨されない”とされています。実際にはステロイドの内服薬が用いられているケースは少なくありませんが、ステロイドの内服を漫然と続ける、ステロイド外用薬を使用するなど推奨されない治療法は避けることが望ましいでしょう。

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慢性特発性蕁麻疹の治療薬には主に“非鎮静性の第2世代抗ヒスタミン薬”と“生物学的製剤”があります。

慢性特発性蕁麻疹の治療でまず用いられるのが、非鎮静性の第2世代抗ヒスタミン薬です。眠気の副作用を起こしにくく、価格も抑えられているのが特徴です。少ないリスクで効果が期待できるため、慢性特発性蕁麻疹治療の第一選択とされています。効果が十分に得られなかった場合は、他剤への変更、2倍量までの増量、2種類の併用を検討します。

非鎮静性の第2世代抗ヒスタミン薬では効果が不十分な場合、次に検討される治療薬の1つに生物学的製剤があります。生物学的製剤は近年登場した新しい治療薬で、注射により投与します。生物学的製剤には複数の種類があり、効き目が早く出やすいものもあれば、比較的ゆっくりと効果を示すものもあります。なお、注射薬なので痛みを伴うことや、価格が高いことはデメリットといえるかもしれません。

患者さんに適した治療法を提案するために、まずは慢性特発性蕁麻疹の状態を的確に評価することが大切です。UAS7やUCTの指標を用いたり、患者さんからお話を伺ったりして評価します。蕁麻疹が出ているときの状態をスマートフォンで撮影しておいてもらうことも、治療効果の判定に役立ちます。

そのうえで、蕁麻疹が生活にどの程度支障をきたしているのか、治療の頻度や価格はどの程度までなら許容できるのか、注射への抵抗感は強いかなどを患者さんと話し合います。私たちから治療方法の提案をしたうえで、それぞれの治療方法について患者さんがどう感じているかを共有してもらいながら、治療方針を決定していきます。生物学的製剤の使用にあたっては、合併している病気や価格、キットの使いやすさなどを考慮しながら、どの薬を用いるかを決定します。

慢性特発性蕁麻疹を引き起こすメカニズムの中心になるのは、マスト細胞(肥満細胞)です。マスト細胞の中には、ヒスタミンという物質が蓄えられています。血液中のIgEと呼ばれる物質などによりマスト細胞が刺激されると、ヒスタミンがマスト細胞から放出され、膨疹やかゆみを引き起こします。

放出されたヒスタミンは、血管や神経にはたらきかける物質です。血管にはたらきかけると、血管が拡張して皮膚に赤みが出たり、血管の中を流れている血漿(けっしょう)という液体が血管の外に漏れ出すことで、蚊に刺されたときのような腫れが起こったりします。また、ヒスタミンがかゆみの神経にはたらきかけると、脳にかゆみを感じる信号が伝わってかゆくなります。これが蕁麻疹のメカニズムです。

このメカニズムを蛇口に例えると、蛇口の栓がマスト細胞、水がヒスタミンです。抗ヒスタミン薬は、蛇口から出てきたヒスタミンを受け止めて症状が出ないように抑える作用を持ちます。

ただし、患者さんの中には抗ヒスタミン薬では十分な効果が得られない方もいます。そこで考えられるのが、蛇口の栓の上流部分にIgEやサイトカインと呼ばれる炎症物質が関与している可能性です。最近では、サイトカインによって生じる炎症も、蕁麻疹の症状の増悪に関わると考えられています。なお、サイトカインによって生じる炎症は2型炎症と呼ばれています。

また、慢性特発性蕁麻疹の一部には、マスト細胞だけでなく自己免疫が関わっているものもあると考えられています。自己免疫が関わる慢性特発性蕁麻疹では、蕁麻疹が治りにくかったり症状が重かったりといった特徴があるように感じます。自己免疫が関わるメカニズムも、最終的にはマスト細胞が刺激されて症状が出るのは同じです。ただし、蛇口の栓を緩める上流部分の原因が異なります。自己免疫が関わる慢性特発性蕁麻疹の患者さんは、慢性甲状腺炎橋本病)などの自己免疫疾患を合併しているケースも多いようです。

慢性特発性蕁麻疹の治療は、以前は抗ヒスタミン薬しか選択肢がありませんでした。つまり、蛇口から出た水を受け止めるような治療しかなかったわけです。しかし、生物学的製剤が登場したことで、蛇口の上流部分にアプローチする治療ができるようになりました。上流部分へのアプローチについても、マスト細胞を活性化するIgEにはたらきかける薬や、サイトカインにはたらきかける薬など、新しい薬が登場しています。

「症状をよくするために生活習慣を改善しなければ」と思う方もいるかもしれませんが、慢性特発性蕁麻疹は日常生活に直接的な原因があるものではありません。症状が強く現れているときはそれ以上悪化させないために、強くかきむしらない、長時間の入浴などで体を温めすぎない、ストレスをため込まないといった工夫をするのはよいことですが、薬に頼りながら、ごく普通の生活を送っていただければと思います。

先にお話ししたとおり、慢性特発性蕁麻疹には新しい治療薬も登場してきています。蕁麻疹の治療を専門とする医師のもとで、ご自身に合った治療薬を使いながら治療を進めていくとよいでしょう。

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慢性特発性蕁麻疹は、以前はまったく原因が分からなかったため「ひとまず薬を飲んで症状を抑えるしかない」というような病気でした。しかし、近年は病気のメカニズムが徐々に解明されていて、治療の選択肢も増えてきています。現在蕁麻疹で困っている方は、新しい治療についても丁寧に説明してくれるような医師にぜひ一度相談してください。昔と比べてずいぶんと治療に希望が持てる病気になってきていると思います。また、現在は診療ガイドラインの改定も進めているところですので、今後の新しい情報にもぜひ注目していただければと思います。

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  • 大阪医科薬科大学医学部 感覚器機能形態医学講座 皮膚科学 准教授、大阪医科薬科大学病院 アレルギーセンター 副センター長

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