インタビュー

脊椎損傷の治療法選択と退院後について-受傷前の生活・仕事に戻れるのか

脊椎損傷の治療法選択と退院後について-受傷前の生活・仕事に戻れるのか
朝本 俊司 先生

朝本 俊司 先生

この記事の最終更新は2016年03月21日です。

交通事故や転倒、高所からの転落などにより脊椎を損傷したときには、速やかに損傷の程度や部位に応じた治療を受けることになります。体の大黒柱ともいわれる脊椎の骨折と聞くと、大手術や長期入院を要するのではないかと不安に思われる方も多いかもしれません。しかし、手術をするか否かは患者さんそれぞれの状況に応じて異なり、比較的早く元の生活・仕事に復帰できる患者さんも多いと、国際医療福祉大学三田病院・脊椎脊髄センター副センター長の朝本俊司先生はおっしゃいます。この記事では、脊椎損傷の治療法選択と退院後の生活についてお伺いしました。

また、損傷の程度によっても手術を行う必要性の有無はわかれます。たとえば頚椎の骨折だけをみても、「ハングマン骨折(上方部の骨折)」や「ジェファーソン骨折(環椎破裂骨折)」と呼ばれる独特の骨折の仕方や、第1頚椎もしくは第2頚椎のみの骨折の場合は、装具を用いた固定により、手術せずとも自然と骨癒合することがあります。

ただし、程度や折れ方のパターン、患者さん一人ひとりの事情により治療法は変わるため、「この部分の骨折の治療法はこれである」と一概にいうことはできません。全例において、患者さんの様子をよくみたうえで治療法を決めていきます。

治療法を選択するにあたり、患者さんの持つバックグラウンドも考慮に入れる必要があります。若い患者さんで早く仕事に復帰せねばならないという事情をお持ちの方であれば、治りの早い手術を選択します。特に、アスリートの方は可能な限り早く競技に復帰できることが理想ですから、症状をみて最も早くリハビリに入れるような治療法を選択しています。

逆に、全身麻酔のリスクが高い高齢者の方であれば、ブレースなどの装具を使った固定法を選択します。ケースにより差はありますが、骨折した骨同士が癒合するまでにかかる期間は約3か月です。

病気や怪我の治癒のために、ベッドに体を横たえて安静にすることを「安静臥床」といいます。安静臥床の必要性の有無や期間も、損傷した部位や骨折のパターンなどにより一人ひとり異なります。

しばらく(短期間)安静臥床することが望ましい例もありますし、長期的な安静臥床を余儀なくされることがあらかじめ予想できる場合は、長期臥床によるリスクを回避するために早い段階で手術を行うこともあります。

【長期臥床のリスク】

  • 褥瘡(血流悪化による皮膚や筋組織の壊死)/肺のコンディションの悪化(呼吸機能の低下など)/深部静脈血栓症(別名エコノミー症候群:下肢の深部静脈に血栓が形成され、肺塞栓症を引き起こす原因となる)など

脊椎が骨折もしくは脱臼してしまっただけで脊髄損傷などを合併していない場合、ほとんどの患者さんは受傷前に近い状態まで回復され、退院後は以前と変わらぬ生活をされています。建設現場での作業中に転落してしまったという患者さんも一定数いますが、そのように体を使う職に就かれている方の中にも、退院後同じ職場に復帰して健康的に働かれている方は多数いらっしゃいます。

しばしば“首の骨を骨折すると死んでしまう”という言葉を耳にすることもありますが、これは記事5「脊椎損傷に伴う合併症-脊髄損傷や慢性疼痛」で解説する脊髄神経の損傷によるもので、骨折のみによって死に至ることはほぼありません。

ですから、脊髄損傷など合併症のない脊椎損傷であれば、基本的に治るものであると希望を持っていただいてよいでしょう。

 

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