インタビュー

甲状腺クリーゼの症状

甲状腺クリーゼの症状
赤水 尚史 先生

医療法人神甲会 隈病院 院長

赤水 尚史 先生

この記事の最終更新は2016年02月26日です。

甲状腺の働きすぎなどの原因よって発症する「甲状腺クリーゼ」は、身体のさまざまな部分で症状が起こるので他の病気と区別がつきにくいことが課題です。しかし生命に関わる病気なので見誤っては一大事です。その症状や診断基準について和歌山県立医科大学内科学第一講座教授 赤水尚史先生にお話をうかがいました。

細胞の働きを活発にする甲状腺ホルモンの受容体は脳にもあります。ですから甲状腺クリーゼになった場合は興奮、錯乱状態といった中枢神経障害の症状が出ることがあります。大声で叫ぶ・暴力をふるう・けいれん・昏睡・幻覚や錯覚を見る譫妄(せんもう)・すぐに意識が混濁する傾眠、といったことが起こるケースもあります。

このほか、

・38度以上の発熱

・1分間に130回以上の頻脈

・重い心不全の状態で、気管支や肺胞などに水分が溜まって呼吸不全に陥る

・嘔吐や下痢、黄疸を伴う肝障害などの消化器症状がある

といったことが特徴としてありますが、甲状腺機能亢進症など体内の甲状腺ホルモンの値が高く甲状腺中毒症になるベースがない場合は別の疾患と考えられます。

バセドウ病をはじめとする甲状腺機能亢進症の合併症のひとつが甲状腺クリーゼです。その発症の結果、多臓器不全心不全・呼吸器不全・不整脈・DIC(全身の血管内で無秩序に血液凝固反応が起こる「播種性血管内凝固症候群」)などで死に至ることがあります。

日本甲状腺学会の「甲状腺クリーゼの診断基準の作成と全国調査」班が2008年1月に診断基準(第1版)を発表し、それをもとに全国疫学調査を実施しました。その調査結果によって改訂した診断基準(第2版)を2012年に示しています。

まず甲状腺クリーゼと診断する大前提となるのが血液検査です。

・甲状腺機能亢進症の場合に増加する「遊離T3」「遊離T4」という甲状腺ホルモンのうちどちらかの値が高いこと

・甲状腺中毒の症状があること

が「必須項目」です。

先に全身症状として示した

1. 中枢神経症状

2. 発熱:38度以上

3. 頻脈:130 回/分以上(心房細動などの不整脈では心拍数で評価)

4. 心不全症状

5. 消化器症状…嘔気・嘔吐、下痢、黄疸

以上が顕著な症状と想定されています。

そのうえで、血液検査による「必須項目」と以下の「a.」「b.」いずれかの条件を満たせば「確実例」として診断します。

a.中枢神経症状+他の症状項目1つ以上

b.中枢神経症状以外の症状項目3つ以上

さらに、

c.必須項目+中枢神経症状以外の症状項目2つ

d.必須項目を確認できないが、甲状腺疾患の既往・眼球突出・甲状腺腫の存在があって「確実例」条件の「a.」または「b.」を満たす

という場合は「疑い例」として甲状腺クリーゼと同じ方針で治療します。

問題は甲状腺クリーゼの場合、患者さんは非常に重症なので救急で病院に運び込まれる場合が多いことです。つまり甲状腺疾患の専門家ではない医師が対応することになります。意識障害のある場合が多いですから、ご家族がついていないと、患者さん本人に甲状腺機能亢進症などがあるかどうか確認できませんし、意識があったとしても、甲状腺の病気を持っていることをご本人も知らない場合があるので見落とされる危険があるのです。

実際、隈病院(神戸市中央区)など、日本には専門的に甲状腺の患者さんを診ている病院が3カ所あるのですが、そこにはクリーゼの患者さんは来られません。治療を受けて病気のコントロールをされているので、そういう場所で働く専門医ほど甲状腺クリーゼの実態をご存知ないのです。「甲状腺クリーゼ全国疫学調査(第一次:2009年1月~6月)」(※記事1「甲状腺クリーゼとは 甲状腺中毒症をベースにした難病」参照)で、調査前に年間100人以下だろうと予測していたのに実際は250人以上確認できたということの背景には、そういう事情もあるのです。

大学病院など大規模な医療機関の専門医は甲状腺クリーゼの患者が救急で運び込まれた場合、担当医から相談を受けることもあるので、比較的実際の例を知っているのです。しかし相談を受けないと分かりませし、見逃されている場合もあるかもしれません。

救急部門でもその部分は課題になっており、私も救急診療のガイドラインなどへの執筆を依頼されることも増えてきました。

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